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プロローグ



「あなたは……?」

 村の入り口に立つ奇妙な来訪者に気づき、誰何の声を上げたのはどこかやつれた表情の女性だった。

「ここはローウェ村で間違いないかな?」

「は、はぁ」

 戦装束に身を包む少女は気がつけばそこにいて、いつの間に現れたのかと驚きながらも頷く。少女の後ろで村の入り口にある茂みが微かに音を立てたことにも茂みからすり切れたローブの端が見えている事にも驚きのあまり気づかない――だが、女性が驚倒するのはここからだった。

「来たれ、勇者達よ!」

「ひっ」

 少女が大仰な動作で祈りを捧げると同時に何もなかった周囲の空間から次々に人が現れる。同時にガチャガチャと金属音が立つのは出現した者達全員が武装をしていたからだった。目撃した女性からすればたまったものではない。常軌を逸した出来事に思わず身をすくませ。

「え、あ……」

 現れた者の一人に目を止めて口をぽかんと開けたまま固まる。

「すまない、エリィ」

「あなた!」

 硬直は一瞬、弾かれたように女性は一人の男へ駆け寄ると抱きついた。

「ご主人でしたか」

「はい、ひょっとしてあなたがわざわざ? ありがとうございます……主人は戦場で戦死したと」

「ううん、お礼なんて言わない方が良いと思うよ。後悔するから」

 鎧に包まれた夫の身体を抱きしめながら涙を流しつつ礼を言う女性に少女は頭を振ると、自分は戦乙女であると語った。

「戦乙女?」

「そう、戦死した勇敢な戦士を次なる戦いに導く者。下級神なんだけどメジャーな神様だと死神が一番近いかな」

「死神……!」

 女性の訝しげな顔が恐怖に浸食され、少女は嘆息しつつ女性から少し距離をとる。

「ああ、大丈夫。エリィさんを殺しに来たとかそう言う訳じゃないから。ご主人とかこの村出身の皆さんが家族に会いたいって願ったから連れてきたんだよ」

「そう言うことなんだ。お前には俺を連れ去ろうとする悪神に見えるかも知れないが、こうしてお前を抱きしめられるのも……」

「嘘! あなたは生きてるじゃない、触れられるじゃ」

「エリィ」

 男はくってかかる妻の手を取ると自分の頬に触れさせた。

「冷たいだろう? そう言うことなんだ」

 崩れ落ちる女性の姿を横目に少女は再びため息をつく。

「さてと」

 エリィと呼ばれていた女性が騒いだためか、村の入り口にはいつの間にか人が集まり始めていた。中には少女の連れてきた男達に見覚えがある者も居るのか驚く者があり、へたり込む者が居て、エリィのように駆け寄ろうとしている者も居た。

「えーと……お集まりの皆さん、ボクは――」

 一人目と同じ対応をしていたら身体が足りないと少女は判断したのだろう。エリィの反応を見て少女は戦死した男達が家族と対面を果たす為に同行してきた死神のようなものだと大声で名乗った。生きていると勘違いしたままでは残酷だと思ったからだ。だが。

「ひゃぁぁぁっ!」

「助けてくれぇぇぇっ!」

 世の中には人の話を聞かない者が多い。もちろん、突然やってきて神を名乗る方が変人呼ばわりされても不思議ではないのだが、村へ事前に届けられた戦死者リストに名が連ねられている男達を連れて現れたのだ。半端に理解して混乱する者が居ても無理はない。

「あー、えっと……あの人達はひとまず置いておいて、残った人達との対面から始めようか?」

 何とも言えない顔をしていた男達の中で何人かが頷き。

「父さん」

 頷いた男の一人が惚けたように立っている白髪交じりの男に目をとめ歩き出す。

「お前、やはり……」

「すまねぇな、父さん」

 絶望と衝撃と驚愕の三つに打ちのめされ、言葉を失った父親にばつの悪そうな顔で頭をかきつつ、息子が詫びる。

「ひでぇ戦場だったよ。……死んだ奴は敵味方関係なくあそこの戦女神様に声をかけられて三つある選択肢から一つを選んだ。昇天するか、戦女神様とともに行く道をとるか、条件付きで前の二つのどちらかを選ぶか」

「そして、息子さんは三つ目の選択肢を選んだんだよ」

 翳りのある笑みを浮かべつつ指を立ててゆく息子の横にやってきたのは一人の少女。

「三つ目」

「そう、条件付きの。お父さんに会いたい、あって話がしたいってね」

 少女は肩をすくめると、悪戯っぽく笑って指を立てた。

「親子水入らずの時間は設けるからごゆっくり。それで、話し終えたらだけど、昇天でいいんだよね?」

「ああ、戦場に出て思ったが俺は戦いにゃ向いてねぇ。父さんに会わせてくれた事には感謝するが一緒に行っても役に立つどころか足手まといになりそうだしな」

 それだけ聞けば充分だったのだろう。

「じゃあ、今から水入らずタイムってことで。他の村も回らなきゃいけないからボクは行くけど、明日の今頃までには戻ってくるから、そこがタイムリミットね」

 集合時間に遅れないように、と言い残して少女は歩き出し。

「じゃ、ごゆっくりー」

 神と名乗った者には思えぬほどの気安さのまま村の入り口で姿を消した。

「消えた?」

「やはり神様なのか……」

「そうでなきゃ、俺がここにいられるかよ」

 ざわめく村人達は気づかない、少女が居なくなると同時に茂みから除いていたローブの端も消えていたということに。




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