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ビー玉だと思っていた私を、君だけが選んでくれた

作者: 天月瞳
掲載日:2026/06/24

夏の祭り。


目の前で、好きな人が他の人と手を繋ぎ、仲睦まじく笑い合っているのを見ている。

私はその場に、呆然と立ち尽くしていた。


いつもこうだ。

好きになった人は、決して私を選んではくれない。


自分が惨めで、悲しみに浸っていた時だった。


ピタッ。


「ひゃ!」


ひんやりとした冷たさが、意識を引き戻した。



慌てて振り返る。

黒髪の少年がいたずらっぽい笑顔を浮かべ、水滴のしたたるラムネを両手にぶら下げていた。

そのうちの一本を、私の頬の近くに突き出している。


「何するのよ!」

私は頬を膨らませて文句を言った。


「ほら」


少年はそのうちの一本を私に差し出してきた。


「どうした?」

彼は私の隣に腰掛け、私の視線の先を追うと、納得したように頷いた。


「ああ~、また失恋したのか」


「うるさい」


少年は私の幼馴染、浅野哲也だ。


「今回はちゃんと告白できたのか?」


「……ううん」

私は顔を背け、小さな声で答えた。


ラムネの玉を押し込むと、カランと涼しげな音が響いた。

冷たくて刺激的な炭酸が舌の上ではじけ、心はいつの間にか落ち着きを取り戻していった。


飲み干した後、私は瓶の中からビー玉を取り出した。

玉越しに、目の前の祭りを見つめる。


色鮮やかで幻想的な光と影は、まるで別の世界を覗き込んでいるかのようだった。



ラムネ瓶に使われるのは、規格を満たしたA玉だけ。


私はどこか歪に育ってしまった。

髪は短く、少し男の子っぽい。


せいぜいビー玉程度だ。


変わろうと思ったことはある。


だけど、どこか悔しかった。




「お前さ、またネガティブモードに入ってる」

彼は人差し指で私の額を小突いた。


「大丈夫だって。そのうち、お前のことを好きになる奴が現れるから」


「本当に?」


「いるよ。だから焦って自分を変えようとしなくていい。ゆっくりいこうぜ」

彼はぽんぽんと、私の頭を優しく叩いた。


「よし、祭りに行こう」


何気なくポケットにしまい込んだビー玉は、捨てるタイミングが見つからなかった。


それからずっと、その玉を持ち歩いていた。


また別の夏。今度は勇気を出して告白したけれど、振られてしまった。


「気にするなよ、あいつに見る目がなかっただけだ」


彼はまた、私にラムネの瓶を差し出してきた。


「ほら、おごってやるよ」


髪を伸ばしてみたり、おとなしい女の子のふりをしてみたりした。


そのおかげか、告白は成功した。


無事に付き合うことにもなった。


「おめでとう」


哲也は笑っていたけれど、その表情はどこか複雑そうだった。

あの日だけ、彼はラムネに一度も口をつけなかった。


でも不思議なことに、付き合っていてもどこか言葉にできない違和感があった。

結局、すぐに別れてしまった。



相手が好きになったのは、きっと本当の私ではなかったのだろう。


それからまた何人かを好きになり、何度も失恋を繰り返した。



ジリジリと照りつける夏の日差しは、肌を刺すように熱かった。


降り注ぐ蝉時雨を聞きながら。


私は玉を指先で転がしながら、その向こうの空を見上げた。


「綺麗だなぁ……」


不意に手元が狂い、ビー玉が指先からこぼれ落ちた。


「あ」


パリンと高い音を立てて、熱く焼けたアスファルトの上で粉々に砕け散った。


散らばった破片を見つめていると、いつの間にか涙が溢れ出していた。


まるで、その一つ一つの欠片に夏の思い出が映っているみたいだった。


失恋したあとに差し出されたラムネの冷たさ。


頭に触れる手のひらの温もり。


そして、いつも私を見つめてくれていた優しい視線。


どの思い出にも。


例外なく、哲也がいた。



ああ、なんだ。

とっくの昔に、私を選んでくれていた人がいたんだ。


なのに私は、ずっと気づかなかった。


「私、本当にバカだな……」


その時だった。


ふわりと頭に温かな感触が落ちてくる。


「何泣いてんだよ? ビー玉、割れちゃったのか?」


哲也が優しく私の頭を撫でた。少し呆れたような、でも温かい声が頭上から響く。

「泣くなって。また買ってやるから」


私は彼の胸に飛び込み、声を上げて泣きじゃくった。


「うお! ど、どうした?」

哲也は一瞬固まり、それから恐る恐る私の肩に手を置いた。



「ごめん……ごめんね」


私は彼の腰に抱きつき、ひたすら謝り続けた。


「大丈夫か?」

哲也が心配そうに私の顔を覗き込む。


「大丈夫……ただ……」


私は手の甲で涙を拭った。


今の顔はきっと酷いだろう。


でも、そんなことはもうどうでもよかった。


「ただ……?」


「気づくのに、すごく時間がかかったことがあるの」


哲也は黙って私の言葉を待つ。


「ねえ。こんな私でも、好きになってくれる人っているのかな?」


私は顔を上げ、彼を見つめた。


「いるよ」


「何も変えなくたって、好きになってもらえるのかな?」


「……もちろん」


私はぎゅっと彼を抱きしめた。


「ありがとう」

「こんな私を選んでくれて」


そして、小さく呟く。


「好き」


次の瞬間、私の身体は優しく抱きしめ返された。


頭上から、低く穏やかな声が降ってきた。


「ああ。俺もだ」


この作品は、HACHIさんの楽曲『ビー玉』から着想を得て執筆しました。


素敵な曲なので、興味を持った方はぜひ聴いてみてください。

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