第5話 見解
「僭越ながら、皆様のお考えをお聞かせ願いたいですわね。癒しの笑顔が重要というのであれば、わたくし、これ以上王子妃教育を受ける必要はないと愚考いたしますが」
王は笑顔よりも教養のほうが大事だ……と言いかけた。
が、しかし……。
「教養のほうが大事というのであれば、レオン殿下のご発言は、陛下や宰相閣下のお考えに反する……ということになりますわね」
ヴィルジニーは冷えた口調で言った。
「そちらのお考えも含め、公費の私的流用、それから婚約に関して。王家の公式見解は、いかがでしょうか?」
教養と笑顔。
二択を迫られても、どちらも選べない。
言葉に詰まり、王は「う……」と、低く唸る。
王の葛藤が分かっていながら、マドゥアス侯爵が詰め寄った。
「『癒しの笑顔』とやらを必要としているのであれば、ヴィルジニーに対する王子妃教育はもはや害悪! 我が侯爵家にて、ゆったりと楽しい暮らしをさせます。王家からの教育で失ったヴィルジニーの笑顔も取り戻せるでしょう!」
つまりは、王子妃教育の拒否だ。
ついでに、愛らしい笑顔がヴィルジニーから消えたのは、王家からの教育のせいだと伝えることも忘れない。
「何にせよ、陛下と第二王子殿下のお考えが対立するのは臣下として非常に困りますな!」
困ると言いつつも、マドゥアス侯爵は大げさなほどの笑みを浮かべている。
「ご結論が出るまで、レオン殿下とヴィルジニーの婚約は一時停止のまま。我らは領地にて待つことにいたしましょう!」
ヴィルジニーの父であるマドゥアス侯爵、兄であるガードナー、そしてヴィルジニーの三人は、完璧なる礼を残し、謁見の間から去って行った。




