第3話 質疑
王城の謁見の間。
謁見の間の扉から玉座までは、緋色の絨毯が真っ直ぐに敷かれてる。
その絨毯を挟み、二列に整列して、王の登場を待っている者たちがいる。
玉座から見て、絨毯の右側に立っているのが、まず第二王子のレオン。その側近。更に宰相や文官たちも立ち並んでいた。
左側にはヴィルジニーの父であるマドゥアス侯爵、兄であるガードナー、そしてヴィルジニーの三人だ。
無言のまま、王と王妃の登場を待っている。
ちなみにポーレットはこの場にはいない。
謁見の間の隣室に控えさせられている。
デビュタントすら行っていない令嬢には、王に対する資格なしと判断された。
が、レオンが公費を私的流用した相手はポーレットなのだ。
故に、隣室にて待たされているのだった。
しばしの後「……待たせたな」と、王と王妃、それからレオンの兄である王太子が現れた。
レオン以外の者たちが、一斉に臣下の礼を執る。
「……皆の者、顔を上げるがよい」
玉座に腰を下ろした後、国王が重々しく言った。
その後ろに王妃と王太子が立つ。
「さて、前置きはなしにして、いくつか事項の確認を行う。この場でのすべての答弁はすべて書面に書き残す。心して答えよ」
玉座と緋色の絨毯から少し離れた位置に、既に記録官が控えていた。
記載台の上には大量の紙と羽ペンとインク壺。
いつ始まってもいいように、記録官の手には既に羽ペンが握られている。
「第二王子の婚約者に対しての予算。現状『金貨何枚分』が使用済みなのか、答えよ」
王の問いに、宰相が財務を担当している文官を指名した。
一歩前に進み、文官が答える。
「第二王子レオン殿下の婚約者、ヴィルジニー・ディ・マドゥアス侯爵令嬢に対する予算は、年間金貨五百枚。現時点で、レオン殿下の申し出により、四百三十枚が使用されております」
一礼して、文官が下がる。
「なるほど。その四百三十枚は『何』に使われたのか」
「お聞きください、そ、それは……」
慌ててレオンが口を開く。
だが……。
「レオンには聞いておらぬ。財務担当者に聞いているのだ」
王の睨みによって、口を閉ざすしかなかった。
ぐっと拳を握って俯くレオン。
王の問いに対して、文官の一人が書面を持って進み出た。
「第二王子殿下が購入した物はドレス・装飾品・靴などでございます」
「ですから、そ、それは! 当然婚約者であるヴィルジニーに贈るものです! 使って当然の!」
慌てて口を開いたレオンを、王が睨む。
「レオン、お前は黙っていろと言った」
「し、しかし……」
「弁明は後でだ。確認が先だ」
王は財務の担当官に告げた。
「手にしている書面についての説明をせよ」
「はい、陛下。こちらは殿下が服飾店にて購入したドレスや宝飾品などの明細でございます。色やサイズまで、細かく書かれております」
「靴のサイズを述べよ」
「はい」
文官が告げた靴のサイズは令嬢としてはかなり小さいものだった。
「ヴィルジニー・ディ・マドゥアス侯爵令嬢」
「はい、陛下」
「その大きさの靴を履くことは可能か?」
「いいえ、わたくしには小さすぎます」
王は頷いて、文官に促した。
記録官が羽ペンを走らせる音が響く。
「ドレスのサイズを述べよ」
告げられたドレスのサイズ。
ヴィルジニーは冷笑した。
「もしもそのドレスをわたくしが着用すれば、丈が短く、足首が現れてみっともないことになります。胸部も小さすぎて入りません」
「そうだろうな……」
王は溜息を吐いた。
「靴、それからドレス。レオン殿下が作らせたものは、わたくしの体には合いません。別のご令嬢への贈り物として作ったのか、それとも服飾店の者がサイズを間違えて作ったのか……」
後者はありえないと思いつつも、王は指示を出す。
「確認をせねばならないな。服飾店の者をこの場に呼べ」
謁見の間のドアの向こうに控えていたのであろう。
すぐに服飾店の店主が入ってきた。
服飾店の店主は恭しく礼をしてから、注文されたドレスの仕様が事細かく書かれている用紙を差し出した。
「こちらが、殿下と共にわたくしの店に現れたご令嬢の採寸表でございます」
王は頷いてから尋ねる。
「店主に聞く。レオンと共に現れたのは、そこに立っている金赤色の髪の令嬢か?」
店主は首を横に振った。
「いいえ。そちらのご令嬢には初めてお目にかかります。当店にお越しいただいたのは、小柄で、愛嬌のある可愛らしい感じの、桃色の髪の色のご令嬢でございました」