表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

ミネルバとザーグの脅威

診療所を閉じた夜、実佐は机の上に肘をつき、額に手を当てた。

ザーグ――神が語った名が頭から離れない。

宇宙全域を侵略し、惑星ごと飲み込む存在。だが自分はその実態を何も知らない。

家族を探すどころか、この世界の仕組みすら把握していない。

(このままでは……教会への潜入どころじゃないわ。

せめて“今の世界”を知っておかないと)

翌朝、実佐は決意を固め、地下拠点へ向かった。

冷たい石の廊下を抜け、薄暗い会議室でカロリンとロマンが迎える。

「カロリン、お願いがあります」

実佐はまっすぐ二人を見つめた。

「私は……あまりにも何も知らなすぎます。ザーグの事も、戦争の事も、他の種族の事も。

知らずに潜入なんて、到底できないと思います。どうか、いろいろ現状を把握したいです」カロリンは顎に指を当て、しばし黙考した。

「……そうね。あなたの言う通りだわ。潜入の準備を進めるにしても、知識は不可欠。

情報室の端末にアクセスできるようにしてあげる」

ロマンが腕を組んでうなった。

「おいおい、あそこは幹部クラスしか入れねえんだぞ」

「必要だから許可するの。ロマン、異論はないわね?」

「……チッ。まあいいさ。だが軽い気持ちで触れたら火傷するぞ」

実佐は深く頭を下げた。胸の奥に、少しだけ安堵が灯る。

情報室へ向かう途中、低い呻き声が耳に届いた。

実佐は足を止め、カロリンに視線を送る。

「治療班は今、手一杯よ。覗いてみる?」

重い扉を開くと、石床の上に並べられた簡易ベッド。

三人の兵士が横たわり、汗に濡れた額を震わせている。

包帯の下からは黒ずんだ膿が滲み、熱で意識が朦朧としていた。

「これは大変だわ、すぐに治療します……」

実佐は杖を握り、兵士たちに駆け寄った。

「みなさん、もう大丈夫です。すぐに良くなりますよ」

杖を立て、魔力を流す。

「――エリアヒール!」

白光が波紋のように広がり、三人の身体を包んだ。

裂けた皮膚が繋がり、荒れ狂っていた熱が引いていく。

呻き声が少し和らぎ、呼吸が整う。

だが感染の気配は消えきらない。

実佐は額の汗を拭い、個別に杖を向けた。

「ディスペル!」

黒ずんだ痕が薄れ、膿の悪臭が霧散していく。

さらに各兵士に追加で「ヒール」を唱える。

断裂した筋肉が滑らかに繋がり、失われかけた感覚が戻る。

兵士たちは震える手でベッドの縁を掴み、恐る恐る指を動かした。

「……動く……!」

「痛みが……消えた……!」

周囲のレジスタンスがどよめき、誰かが息を呑んだ。

――LEVEL UP:Lv24

――LEVEL UP:Lv25

淡い光が視界の端に瞬き、実佐は小さく息を整えた。

「無理に起き上がらないで。しばらくは安静にしてください」

兵士の一人が震える声で呟いた。

「……みんなが聖女様と呼ぶのが分かった様な気がする……本物の奇跡だ……」

実佐は苦笑しつつも、その呼び名を否定できなかった。

治療が終わり、再び廊下に出ると実佐は尋ねた。

「彼らは一体……どうしてあんなに酷い傷を?」

ロマンが唇を歪めた。

「ホワイトガードにやられたんだ」

「ホワイトガード?」

「教会直属の戦闘部隊だ。全員が“祝福”を受けた信徒で、

最新鋭のバトルスーツを着てる。

あのスーツには光粒子を吸収する装置が組み込まれててな、

戦場で周囲の光を取り込み、自己治癒を続けやがる。

ほぼ不死身な兵隊だ。普通の兵じゃ太刀打ちできねえ」

実佐の背筋が冷たくなる。

「そんな……じゃあ、抵抗する人たちは」

「次々と拘束されるか、最悪の場合殺される...

連中は“神の兵”とふざけた名前で呼ばれてる」

カロリンが低い声で補足した。

「レジスタンスを長年苦しめている部隊だわ。

教会直属の精鋭部隊。武器は 光学槍でランスモードとライフルモードの切替が可能で、

他にもパルスブレード、高出力粒子銃も装備してるの。

鉄壁の守りだけじゃなくて武装もとんでもないわ」

実佐は凍りついた。

「そんな兵士が……教会の手先として……?」

「ええ。彼らはもともと教皇の近衛兵だったのだが、今じゃただの兵士ね。

しかも“神の加護を体現する兵”と宣伝され、人々は恐怖と信仰を同時に刷り込まれる。

圧政の牙そのものよ」

実佐は拳を握り、心の中で叫んだ。

(こんな怪物じみた兵士を野放しにしていたら、人々は永遠に救われない……!)

資料室の扉が開かれると、白光に満ちた空間が広がった。

壁一面にホログラムの帯が回転し、浮遊端末が点滅している。

「好きに調べて。潜入までに頭に叩き込んでおいて」

実佐は深呼吸をして端末に手を伸ばした。

指先が触れると、映像が立ち上がる。

――《Resistance Database》――

映像が浮かび、周囲に無数の星図が広がった。

【アライアンス】

人類を含む複数の知的生命体が結成した連合軍。

ヴォルクラ、ルミエル、シェンダオ、ケルベール、ボルツ……

それぞれ独自の惑星と文化を持つ。

次々とホログラムが現れる。

巨大な鋼鉄の翼を持つヴォルクラの戦艦、

もともといた世界にもいた中国の修行僧のように格闘を極めたシェンダオの武術、

カロリンに説明された4第元素魔法を操るルミエルの都市ルミナ。

そして暗殺者集団である獣人の惑星ザナ。

実佐の目に、二つの名前が焼き付いた。

――LuminaルミナZanaザナ

(美姫……刃……本当にこんな遠い惑星に……)

胸がきしむ。美姫が差別や危険に巻き込まれるかもしれない。

刃は暗殺を主とする獣人の惑星に。

母としての不安と恐怖が喉を締め付けた。

「ちょっと待っててね……必ず見つけるから」

誰にともなく呟き、拳を握り締めた。

映像が切り替わり、赤黒い波が銀河を覆った。

【ZARG】

群体生物。惑星を丸ごと飲み込み、資源も生命もすべて吸収する。

抵抗が追いつかぬまま、既に十を超える惑星が消滅。

映像の中で、緑豊かな星が一瞬で黒い膜に覆われ、

数秒後には赤い塵となって霧散した。

実佐は息を呑んだ。

(こんなの……勝てるわけがない……)

だが同時に、心の底から炎が灯る。

(私が……家族を見つけて、守らなきゃ)

最後に開いた記録は《ミネルバ教会成立史》。

約5百年前の西暦5000年、一人の聖人が“神の啓示”を受け、治癒魔法を世に広めた。

数々の奇跡を起こし現代の治癒魔法を一般化した祖である。

ミネルバという人間の神が認識されたのもこの時が初めてであった。

その後、ミネルバ教会を立ち上げ、

奇跡の治癒魔法を与えてくれた神を信仰する国を立ち上げたと言われている。

彼の成し遂げた事に神から褒美としてローブと杖が授けられたという伝説がある。

しかし真相は教会の秘匿事項となっており、一般的には存在自体が明らかではない。


実佐は画面を見つめながら胸を押さえた。

(……ミネルバの祖、もともとは善行を重んじる人が立ち上げたのね……

それなのになんでこんな事になっているのかしら?)

実佐は少し沈黙して資料室を出た。

彼女が知りたかった事は確認できたが、謎は残されたままであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ