歴史の扉
──白いアーチが頭上を覆い、足元には光を蓄えた透明な床が続いていた。
ジョージは、静寂に包まれた巨大な回廊をゆっくりと進んでいた。
『History Museum』──7000年の歴史を展示するこの建物は、ただの博物館ではなかった。
「ようこそ、歴史記録施設へ。あなたの知的探究に寄り添う、AIガイドをご用意しています」
入館と同時に、足元からふわりと小型ホログラムが浮かび上がる。
音声アシストのガイドAIだ。
ジョージが手をかざすと、館内の展示モードが変わり、時系列表示のインターフェースが展開される。
「現在の標準時は西暦7025年──ここでは、地球文明の復興と進化、そしてアライアンス成立の歴史をご覧いただけます」
「……7025年……?」
ジョージの目が大きく見開かれる。
さっきまで『SF世界のような異世界』だと思っていた景色が、一瞬で別の意味を持ち始める。
(これは……未来だ。5000年後の、現実の世界──)
心臓が鼓動を強める。
視界が歪み、頭が追いつかない。
──展示映像が始まった。
壁面全体が映像スクリーンに変わり、地球の荒廃と再生を描くヴィジュアルが流れる。
戦争、気候変動、テクノロジーの暴走……そして、宇宙進出。
「21世紀の終わり、地球は臨界を迎えました。国家という概念は崩壊し、生き残った人類は地下や軌道上へ避難。その後500年を経て、新たな秩序と技術によって地上は再生され、宇宙文明への転換期が訪れました」
その語りのあと、アライアンスの旗印が画面に現れる。
円と三角を組み合わせたようなシンボル。
「宇宙を旅する新たな文明──それが、銀河連邦アライアンスです」
アライアンス加盟種族と出身惑星
多種多様な種族とその出身惑星へと移行する。
ヒューマン(Human)/惑星アース(Earth):バランスの取れた技術文明。文化融合による多様な能力開発。
ケルベール(Cerber)/惑星ザナ(Zana):俊敏性とアクロバティックな動きで知られる獣人種族。主に暗殺者として活動。
シェンダオ(Shendao)/惑星ゴシャン(Goshan):気を操作し、超人的な身体能力を誇る修行者の種族。
ヴォルクラ(Volkra)/惑星ミリタリア(Militaria):重火器と軍事産業に特化した種族。巨大兵器や重戦車の運用が得意。
ルミエル(Lumiere)/惑星リュミナ(Lumina):自然エネルギーから魔法を操る長寿の種族。知性と魔法の文化が発展。
ボルツ(Bolts)/惑星マキナ(マキナ):高度な工業技術で知られる小人族。巨大メカに搭乗し戦う。
「ある事件をきっかけに6種族の知的生命体による協定組織がアライアンスが結成しました。全種族が対等であり、惑星資源、軍事行動、学術研究の共有を約束しました」
映像が切り替わり、戦火に包まれた宇宙のビジョンへ移る。
「結成のきっかけとなった事件とはある惑星の消滅であった──」
画面に現れたのは、禍々しい二足歩行の巨躯生物。
全身が黒い装甲に覆われ、巨大な牙と角を持つ。
惑星ザルグ(Zarg)/プロメテウス(Prometheus):全銀河の脅威とされる、平均身長2.5メートルの化け物じみた二足歩行種族。
「敵性種族『ザーグ』。その出身惑星プロメテウスは、死に絶えた星とされています。
彼らは突如現れ、アライアンス圏を侵略し続けている」
「現在、この戦争はすでに500年以上続いています」
ジョージは、思わず拳を握っていた。
(家族が……この世界にいる?この戦火の只中に?)
展示の最後に、現在のアライアンス戦力マップと市民構成比が表示される。
ランク:S
層の分類:最上級階層
衣食住の水準:高級住宅・特級医療
利用可能施設:政府中枢、軍中枢、宇宙ポート直結
備考:アライアンス幹部クラス
ランク:A
層の分類:上級市民
衣食住の水準:高級住宅・高ランク医療
利用可能施設:高等教育機関、研究施設、貴族用百貨
備考:国家運営への参加が可能
ランク:B
層の分類:中上位市民
衣食住の水準:快適な住居・専門医療
利用可能施設:公立大学、通常勤務職への優先権
備考:平均的な市民階層
ランク:C
層の分類:一般市民
衣食住の水準:標準住宅・公立医療
利用可能施設:公共交通、基本教育施設
備考:大多数の都市住民が属する
ランク:D
層の分類:働者階級
衣食住の水準:簡素な住居・最低限医療
利用可能施設:公共施設の利用制限あり
備考:賃金労働・派遣職が多い
ランク:E
層の分類:仮登録・無職
衣食住の水準:カプセル住宅・緊急医療
利用可能施設:一部施設に限定されたアクセス
備考:外部者・移民・難民を含む
ジョージのEランクという立場が、どれだけ脆弱で、どれだけ無力なものかを突きつけられる。
そして、語りが締めくくる。
「あなたも、歴史の一員です」
──そのとき、空間が白く染まる。
次の瞬間、ジョージの意識はまたあの真っ白な次元空間へと転送されていた。
中央に浮かぶホログラム椅子に、前と同じ子供のような姿の神が座っていた。
だが今回は──その表情に困惑があった。
「やぁ。また会ったな……再度呼び出してすまない」
「なんのつもりだ。これは……未来の地球だったのか?」
「……ああ、間違いないよ。もともと運命神である私の力で君たち家族を“剣と魔法の異世界”に送る予定だった。........しかし……」
神の周囲にエネルギーの波動が走る。
「転生システムに“別の神”、生命神が干渉してきたんだ。そいつの影響で、君たちは未来の現実世界に飛ばされてしまったんだ」
「……ふざけるな!」
ジョージは叫んだ。
声が虚空に響く。
「こんな危険な世界に家族とバラバラにされたのか!?
未来の地球?ふざけるにも程がある……ッ!」
「だからこそ、償いをしに来た」
神は右手を掲げた。
「今から“プリセット機能”を授けよう。装備・服装・ステータス構成を複数登録して、いつでも切り替えられるスキルだ。君達のようにファンタジー世界の装備で戦闘をするものには便利だろう?」
ジョージの身体に、微細な粒子が染み込むように消えていく。
「それと……ランダム転移の規模だがこの世界だと宇宙規模になってしまった……」
「なに……!?それって、プロメテウスやザーグ領に落ちた可能性も……最悪、あの怪物のど真ん中に……!」
ジョージの表情が険しくなる。
「本当にすまない。本来であれば居場所は転生先の居場所は伝えられない事になっているが、特別に君の家族がどの惑星に移動しているかだけは教えてあげる。」
「教えろ。今すぐに……!」
神はうなずき、空中に3つの惑星名を浮かべた。
『Earth(実佐)』『Lumina(美姫)』『Zana(刃)』
その瞬間、神の顔にわずかな違和感が走る。
「……おかしいな。これ、本来なら完全にランダムなはずだが……ん?……」
神は何かを探るように虚空を見つめた。
「……そうか……創造神……」
その呟きは、ジョージには聞こえなかった。
「よし、惑星情報は渡した。あとは……君の意志次第だ」
次の瞬間、視界がブラックアウトした──
気がつくと、ジョージはミュージアムに戻っていた。
──ほんの数秒の出来事だった。
プリセットスキルを確認するためステータス画面を開いた瞬間、彼は違和感に気づいた。
「……加護の神表示が……代わっている」
【運命神の加護】
「これは自分自身が神を認識できたから代わったのか?」
ジョージは静かに目を閉じる。
「……みんな、もうちょっと待ってろよ。絶対、見つけてやる」
彼の背には、覚悟と決意が宿っていた。
──そのとき、彼はすでに新たな戦場に足を踏み入れていたのだった




