目覚めの森
──風の音がする。
遠く、鳥のさえずりのような高周波が混じり、それに続いて虫の羽音のような音が微かに耳を撫でていた。
ジョージはゆっくりと瞼を開いた。
目に飛び込んできたのは、見たことのない巨大な木々と、まるで人工的に配置されたかのように整った岩肌。
地面は柔らかく苔むしており、落ち葉がサクサクと乾いた音を立てていた。
「……夢、じゃないよな」
起き上がると、着ているものがスーツから見知らぬ中世の鎧に変わっていた。
黒と灰のツートンカラー、そして背中には大きな楯──彼のメイン装備となる“重装タンク用防御盾”が装着されていた。
「スキル……あるのか?」
自然と掌を開く。
[スキルウィンドウ起動]
すると、彼の前に透明なウィンドウが浮かび上がった。
クラス:タンク
スキル:
- ヘイトコントロール(周囲の敵のヘイトを自分に向ける)
- ガーディアンズ・シールド(味方が受けるダメージの一部を肩代わり)
- オートリジェネ(非戦闘時に徐々に回復)
- カウンター(回避直後の反撃でダメージ3倍)
- 正拳突き(ダメージ2倍。ただし素手のときのみ使用可)
[ステータスウィンドウ起動]
名前:瀬戸ジョージ
種族:Human(人間)
クラス:殴りタンク
年齢:42歳
称号:〇〇神の加護
HP:1350 / 1350
MP:120 / 120
攻撃力:200
防御力:300
体力:320
速度:280
魔力:40
運:35
装備:
- 《初期支給:スティールアーマー》
- 《初期支給:ビッグシールド》
「マジか……これは完全にゲームのUIじゃないか」
混乱しながらも、ジョージは冷静さを保っていた。
“こういう場面”に順応する能力──彼はすでに備えていた。
森の奥から、何かの気配がした。
「……何か来る」
気配は二つ。
小型で素早く、足音を殺している。
まるでステルス部隊のような動きだ。
──バサリッ!
突如、茂みの向こうから飛び出してきたのは、2人の男だった。
ひとりは軽装のスーツに身を包み、もう一人は肩に何か大きな装置を抱えている。
銃──いや、プラズマ銃のようだ。
「見ろ、いたぞ!見たことないタイプの装備だ。レア装着かもしれん!」
「捕らえるぞ、逃げられるな!」
その言葉に、ジョージの眉がわずかに動いた。
──密輸者か。
いや、それにしては武装が良すぎる。
不法採掘者か?
男たちは警告もなく発砲してきた。
鮮やかな青白い閃光が、一直線にジョージへと飛ぶ。
ジョージはとっさに盾を構えた。
──ジュウッ!
シールドの表面でプラズマ弾が拡散し、軽く焦げ目を残しただけだった。
「……耐えた、か」
驚いた様子の男たちは距離を取ろうとする。
だが、ジョージはすでに動き出していた。
(カウンター)
素早く距離を詰めて発射のタイミングを見切り、ジョージはシールドで攻撃を受け止めながら、最前の男に拳を叩き込む。
──ズガッ!
男は吹き飛び、背後の岩に叩きつけられて動かなくなった。
「てめぇっ……!」
もう一人が装置を構え直したが、その動作は遅かった。
ジョージは盾を脇に投げ捨て、渾身の正拳突きを放った。
振り下ろすような打撃が、男の胸部を正確に撃ち抜く──衝撃波のように空気が弾けた。
静寂。
二人とも、動かない。
「ふぅ……よし」
ジョージは荒い息を吐き、勝利を確認する。
「この体……やれるな」
浮かび上がるウィンドウ。 ――LEVEL UP:Lv5――
ステータスが防御力を中心に上昇する。
遠くの岩肌の向こうに、金属光沢のような何かが見えた。
人工物だ。
「建物……か?まさか、集落か何かか?」
迷わず彼はそちらへ向かう。
その小さな希望が、のちにこの世界が聞かされていたファンタジー世界ではないということを、ジョージはまだ知らない──