第九話 想定外のペア
「な、な、、な? なによこれ!!!」
叫び声を上げたのは馬場芽美だった。彼女は、最愛の祥子を失い、深い悲しみに暮れていた。
その彼女の首元からは、あの首輪のアラーム音が鳴り響いている。パニックを起こし、彼女は教室内を駆け回りながら、必死にそのアラームを止めようと試みる。だが方法はわからない。他のものたちもだ。
「あ、この2人か……」
スダが平然とした口調で言うと、真威人が反応し、怒りに満ちた声で叫ぶ。
「なんなんだよこれ!」
彼の声は震えており、怒りと混乱が入り混じっていた。
「一組だけランダムで仕掛けていたんです。ペア装置」
スダは淡々と答えながら、まるで日常の出来事のように話を続けた。その言葉に、教室内の全員が凍りついたように静まり返る。
その間にも、芽美は自分の首元から響くアラームに動揺し、泣き叫んでいる。
周りの学生たちは、どうしていいかわからず、ただ彼女の姿を見守ることしかできなかった。そして近づいてくると巻き込まれたくないと避けるものもいる。
そしてアラーム音の速度がどんどん速くなり、教室内の空気は張り詰めていく。
「ペア装置?!」
源喜が首輪を触る。自分の首輪も鳴るのではないかという不安もある。しかし鳴ってないことにホッとしているようだ。
その時、教室の隅から、尻山の遺体のあたりからもアラーム音が響く。どうやら、尻山と芽美がペア装置を仕掛けられていたことに、誰もが気づいた。
「安心してください、一組だけですから。ランダムで一組のみその装置をつけ、一人が死んだらペアの一人も装置が爆破して死にます」
スダが冷静に説明を続ける。
その言葉に、誰もが言葉を失い、絶望と恐怖が教室を支配する。
「なによ! 自分たちだけ逃げようとした奴らみたいに卑怯な真似したくないし! 私はまだ生きたいのに!!!」
大混乱する芽美は暴れ回りながら叫ぶ。
しかし、彼女の周りには誰も手を差し伸べることができない。
女子たちは、彼女を抑えようとし、強引に蹴飛ばして制止しようとする。
「やめてよ! 巻き込まないでよ!」
と、悲鳴を上げながら言うが、反応する者は誰もいない。
葉月が、何か言おうとした瞬間、源喜が制止する。
「やめろ、葉月! 離れろ!」
その言葉に、葉月は一瞬立ち止まり、そして深い迷いを感じながらも動きを止める。
アラームの速度は最大ピッチに達し、周りの人々は避けようと身を引く。
「うあああああああーーー!」
その叫び声が教室を震わせる。
そして――
ばしゅっ!!!
その瞬間、芽美の首輪の装置が爆発し、教室の真ん中で彼女は絶命した。
血しぶきが飛び散り、床が血で染まる。
全員が一歩も動けずに固まったまま、その光景をただ見守るしかなかった。
教室内は完全に静まり返り、恐怖と悲鳴が入り混じった空気が漂っていた。
そして、いつものように兵士たちが黒い布を取り出し、死体にかけていく。
その動きは、まるで慣れた手つきで、冷徹な仕事のようだった。
「教師を含めて20名でしたが……名津祥子さん、梶原均先生、尻山湯治さん、獅子頭常さん、馬場芽美さん。これで五名が脱落。残り15名です。いやはや、序盤としては上々の進行ですね。もう少しゆっくりでもいいけど皆さん少し冷静にならないと」
スダが冷淡に言う。
その言葉に、教室内の全員が言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
命が数字として扱われていることに、誰もが直面し、恐ろしい現実を突きつけられた。
「……こんな中で、よくもまあ冷静でいられるよな」
源喜はスダに向かって、苛立ちを露わにしながら言った。
その声には、彼の中で膨れ上がった怒りと無力感が含まれていた。
ハルキはその様子を見ながら、少し距離を置いて考え込む。
ふと、彼の視線が葉月に向かう。
葉月は気絶している胡桃の側で懸命に介抱していた。
「自分も声をかけるべきなのか……でも、一歩が踏み出せない」
ハルキは唇を噛みしめ、無力さを感じていた。
混乱と恐怖の中で、彼は自分の無力さを痛感していた。
一方、教室の隅では兵士たちが動き始め、死体を隅に運んでいた。
死体に黒い布をかけ、何の感情も表情も見せずに作業をしている彼らの姿が、冷徹であり、まるで人間の命を無機質な物のように扱っているかのようだった。
「ちょっと、教室が狭くなりますからね。隅に寄せましょうか」
スダは、まるで掃除を命じるかのように軽い口調で言った。
その言葉を受けて、兵士たちは血の滴る黒い布を次々と運び、教室の隅に積み上げていった。血の跡が生々しい。
その光景を見つめる生徒たちは、口を閉ざし、息を潜め、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
源喜は手にしたバットを強く握りしめ、今にも兵士たちに襲いかかりそうな気配を見せたが、スダが軽く指摘する。
「あ、その兵士には攻撃しないほうがいいですよ。何が起きるかわかりませんから」
その言葉に、源喜は一瞬ひるむ。
そして、悔しそうな顔をしながらバットを握る手を緩める。
ペア装置の爆発を目の当たりにしたばかりで、誰もが下手に動けないことを理解していた。
運び出された遺体は、梶原の死体の近くに積み重ねられていった。
黒い布に覆われたその姿は、教室の隅で静かに積み重なり、まるで人間の命が無意味に積み上げられていくかのようだった。
生徒たちはその光景を見つめることしかできず、目を背けることもできなかった。
(自分もこうなるのか……)
その思考は、全員の中に同時に浮かんだ。
教室内には、静寂と共に、芽美が駆け回っていた時の悲鳴と血の匂いが漂っていた。