第六話 重要なルール
兵士たちが再び動き出し、それぞれが黒いナップサックを手にして、教室内の生徒たちに乱雑に配り始めた。その光景に、全員が目を見開き、恐怖と不安が一気に膨れ上がる。
「旅館の人たちは多分逃げたと思うので大丈夫です。全国チェーンの宿じゃなくてよかった……帳簿も燃えてますから、ね、大丈夫」
スダは真顔で話しながら、ナップサックを手に取る。まるで何も起こらなかったかのように、冷静な口調で続ける。
「はい、ではゲームに戻りましょう……この中には武器が入っています。ランダムですよ、何が入っているかはお楽しみに」
彼は周囲を見回しながら言った。そして、源喜を指差しながら言葉を続ける。
「ほら、あなたのナップサック、もう見えてますね。金属バットですね」
源喜は恐る恐るナップサックを開け、そこから出てきたのは、重みのある金属バットだった。スポーツメーカーのロゴが大きく描かれており、どう見ても試合で使うような本格的なバットだ。
「これ使って……殴り殺せってことかよ……誰かを?」
その言葉には、強靭で凶暴な態度の源喜でさえも声を震わせるほどの恐怖が混じっていた。
スダは微かに笑い、あっけらかんと言った。
「まあ、そういうことですね。 最後の一人になりたいでしょ?」
スダは黒板の方を見つめ、何かを書こうとした。しかし、チョークを手に取るたびに、チョークが粉々に砕けて床に白い粉が広がっていく。
「……このチョーク、どうなってるんだ。まともに書けないじゃないか!」
スダは苛立ちながらも、最後の一本を取り上げる。しかし、それもすぐに粉々に砕け、手に取った瞬間、また床に粉が撒き散らされる。
舌打ちをしながら、スダは床に手を叩きつけ、あからさまに不機嫌になった。
「まあ、いいでしょう。黒板なんて必要ありませんよね、皆さん賢そうですし」
その言葉に、教室内は誰も返事をしなかった。冷たい沈黙が広がり、スダは再び息をつきながら話を続けた。
「あ、そうそう。重要なルールを一つ追加しておきます」
すべての生徒たちが、一瞬で緊張し、彼に注目する。
「万が一、わたしの心肺が止まることがあったら……皆さんの首輪が爆発します」
その言葉を聞いた瞬間、源喜が手に持っていた金属バットを振りかざす動きを止め、バットが滑り落ちた。床に鈍い音を立てて転がっていく。
スダは振り返り、冷たく微笑んだ。
「どうかしましたか?」
源喜は震える手で、再びバットを拾おうとしたが、顔からは血の気が完全に引き、怯えた表情を見せていた。
スダはその様子をじっと見つめ、首を傾げながら笑った。
「賢明な判断ですね」
教室の空気は、さらに重く、冷徹なものに変わっていった。
スダは軽く歩き回りながら、静かな口調で続ける。
「さて、もう一度言います。ルールは簡単です。この中で……もちろんわたしは含まれませんよ?
最後の一人になるまで……もちろん12時間以内に一人になってください」
生徒たちの表情に、絶望が浮かび始める。その顔には、恐怖と怒り、そして無力感が交錯していた。
スダはデジタル時計を指差した。
「時間は刻々と過ぎています。全員生き残るなんて幻想は捨ててください。
このゲームの目的はただ一つ――自分以外の全員を排除すること」
教室の壁に掛けられた大きなデジタル時計が、無情にも進み続けていた。
残り時間:10時間49分12秒
その数字は、時間が経つたびに、すべての学生たちの心を締め付けていった。
スダは時計を確認した後、小さく手を叩いて締めくくるように言った。
「では、皆さん。楽しい時間をお過ごしください、焦らずごゆっくり」
その言葉が響いた瞬間、重苦しい沈黙が教室全体を支配した。
誰もが言葉を交わさず、ただ静かにその場に立ち尽くしていた。
スダの冷徹な言葉が全員の心に刻まれ、恐怖がその空間を支配し続けた。