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第十五話 ライバル

「みんな聞いて! 信成子がどんなことをしたか、教えてあげる!」


レナミは鋭い目で信成子を見据え、声を張り上げた。

場の空気が一気に張り詰める。

全員の視線が、身動きの取れず苦しむ信成子と、それを嘲笑うレナミに注がれた。


「この女、時雄に夢中になって練習をおろそかにしたの。それだけじゃない、自分のタイムが落ちたのを認められず、逆恨みして私に下剤を飲ませたのよ! そのせいで、私は試合に出られなくなった!」


「嘘だろ……信成子がそんなことを?」

「下剤って……本当にそんなことするか?」


周囲がざわめく。


信成子は焦った様子で否定する。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 嘘よ! 私がそんなことするわけないじゃない!」


だが、レナミはさらに畳みかける。


「嘘じゃないわ! 試合直前、信成子からもらったお茶を飲んで……突然お腹を壊して動けなくなったの。トイレに缶詰、吐き気も催して……救急車で運ばれて病院に行ったら、食中毒かなにか意図的に混ぜられたものを飲んだんじゃないかって言われたのよ」


レナミの声には怒りと悔しさが滲んでいた。


「私は信成子は1番の親友でもありライバル……そんなわけないと思ってお茶を飲んだことは黙ってたけど……今だから言うわ! あのお茶に下剤が入ってたの!」


信成子は言葉を詰まらせる。


「違う! 違うってば! たまたま何か食べて食あたり起こしたんじゃないの? あんた雑食だから!」


「……なにそれ……」


レナミの表情が一瞬驚きに変わる。


信成子はさらに言葉を続ける。


「それにあんただって練習怠けてたじゃん! へんな男ばっかり漁ってたくせに!」


その発言に場が凍りつく。


レナミは眉をひそめたが、冷静を保ちながら言い返す。


「は? なによそれ」


信成子はなおも挑発的に言葉を続けた。


「確かに、私……練習をサボって時雄とのデートしてたけどさ。あんたは特定の彼氏できなくてやけになってたでしょ?」


レナミの目が怒りで燃え上がる。


「違う! 黙りなさい!」


部員たちは困惑しながらそのやり取りを見守っていた。


「うるさい! 黙れ! お前だって時雄以外の男と関係があったんじゃないの!?」


その発言に、信成子は声を発しなくなり顔色が悪くなった。


時雄が愕然とした表情を浮かべる。


「信成子……嘘だろ……?」


信成子は必死に弁解しようとする。


「違うよ、時雄! 信じて! あれは……あれは!!!」


だが、レナミは冷笑を浮かべながら追い打ちをかけた。


「楽しんでたじゃないー」


「違う!」


信成子は声を振り絞ったが、美鶴の後ろめたそうな顔が、周囲に疑念を抱かせた。


レナミは勝ち誇ったように笑い、信成子をさらに追い詰める。


「時雄にだって、この目で見て欲しいわ。どうせもう誰も信用できないんだから!」


その瞬間――


「うるさいっ!!!」


突如、華子が背後からレナミを木刀で殴り倒した。


「もうやめなさいよ……高飛車女!」


バキィッ!!!


鋭い音が響く。


レナミの頭がぐらりと揺れ、その場に崩れ落ちた。


「……っ!」


倒れたレナミは頭を押さえながら振り返るが、痛みでうずくまり、顔をしかめる。

床には彼女の血が滲んでいた。


教室が静まり返る。


「華子……なにを……」


誰かが呟いた。


華子の手は震えていた。

それでも、彼女はまっすぐレナミを睨みつける。


「お前のせいで、場がめちゃくちゃなんだよ……! いっつも偉そうにしてさ……結局、お前もただの人間なんだよ!」


その目には怒りと、そして恐怖が入り混じっていた。


「……また……やっちゃった」


華子は顔を引き攣らせ、血のついた木刀を床に落とす。


「嘘……華子……?」


誰かが震える声で呟く。


黒い布が、レナミの上に静かにかけられる。

もう、彼女が立ち上がることはなかった。


静寂。


だが、それでも時計のカウントダウンは止まることなく進み続けていた。


華子は日頃、サークル内で地味な存在として扱われ、特にレナミから「座敷童子」や「雑用女」と呼ばれる日々に耐えてきた。


信成子は倒れたレナミの手から滑り落ちた刃物が首に当たり、少し血がにじんでいた。助けてくれた華子に感謝の言葉をかけようとしたが、彼女は冷たく信成子を見下ろした。


「うるさい」

そう言い放つと、短い木刀を信成子に向ける。


「あなたもレナミと一緒に私の悪口を言ってたでしょ? 幽霊部員が部室の雰囲気悪くしてるのも本当だし。許す気にはならない。でも、レナミほど殺す理由はないわ」


吐き捨てるような言葉に、信成子は涙をこぼしながら時雄に助けを求める。


「時雄……助けて」


しかし、時雄は一歩も動かず、信成子を冷ややかな目で見つめるだけだった。


「時雄くん、彼女じゃないか!」

 とハルキがくしゃくしゃのハンカチを取り出し、信成子の傷口に当てようとする。

「やめろ!」

時雄が声を荒げて止めた。


「何があろうと助けるべきだろ? 彼氏なら……」

とハルキが訴えるが、時雄は首を横に振る。


「……もう彼女じゃない」


そのとき、後ろで美鶴がスマホをいじりながら声を上げた。

「……あったあった。時雄、これを見ろ」


美鶴が突き出したスマホには、信成子の全裸写真が映し出されていた。笑顔で、両手でピースをしている姿だ。葉月や華子は目を背け、息を飲んだ。


「動画もあるぞ……見ろよ。楽しかったんだろ、信成子ちゃん……ほら、獅子頭や……ケツとも……」


美鶴の声はどこか楽しげだが、その目は血走っている。知的で誠実な印象だった彼の裏の顔が完全に露わになっていた。

葉月や華子、ハルキは目を逸らした。



時雄は美鶴が流す動画を凝視し、信成子の裏切りを信じ込む。


「あああああああ!!!」

「時雄、待て!!!」

叫んだ時雄は源喜の制止を振り切り信成子の喉をカッターで切り裂いた。


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