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第十四話 下剋上

「そんなの、あなたたちの普段の行動を振り返ってみればわかるかもしれませんよ。日々粛々と生きていれば、こんなゲームに巻き込まれることもなかったでしょうに」


スダが皮肉を込めて言い放つと、ハルキが前に出た。これまで正義を振り翳してきた雫や真威人が命を落とした今、彼が前に立つことをためらう理由はなかった。


「……あんたは……この様子を見て、どうなるんだ」

ハルキが声を震わせながら問いかける。


「どうにもなりません。むしろ、どうせ一人しか生き残れないのなら、今のうちに仲良しごっこのサークル内で気に食わない人間を消してみてはどうでしょう? ハルキくん、特にあなたは一目見てマウントが下の方。腹立つ人がいれば、そこに捨ててある武器で仕留めてもいいんですよ」


スダの冷たい言葉に、ハルキは拳を握りしめながら首を横に振った。


「……そんなこと、するわけがない。いくら、何があっても……」

「でも戻った時、また同じ目に遭うんですよ。殻を破ってみては?」


スダの挑発にも、ハルキは頑なに否定し続けた。その様子を見て、源喜が抱きしめていた葉月をそっと座らせながら言った。


「弱虫……とは言わないが、俺はお前の選択は正しいと思うぞ」


ハルキはその言葉に驚き、源喜を見つめた。


「あらあら、本当に『ドラえもん』の映画版に出てきたジャイアンとのび太の協力シーンですね……。時間はどんどん減りますが、いいドラマを見せてもらってますよ」


スダが嘲笑とともに指差した先には、残り時間を刻むカウントダウンの時計が表示されていた。


「……」

ハルキは唇を噛みしめた。しかしその直後、鍋田が前に進み出て叫んだ。


「……そうだな、今がチャンスだよな……ハルキがやらないなら、俺がやる」


そう言うと、鍋田は近くにあった金槌を掴み、源喜に向かって振り上げた。しかしその瞬間――


「……!」


草刈り鎌を手に取った時雄が、一閃のもと鍋田の首元を裂いた。血飛沫が飛び、鍋田の体がその場に崩れ落ちる。


「……時雄……!」

「鍋田の野郎……何度も恩を仇で返しやがって」


近くにいた富弥がすぐさま駆け寄り、持っていたタオルハンカチで止血を試みるが、傷は深く、血は止まる気配がなかった。鍋田は苦しげに喉を鳴らしながら、激しく痙攣する。


「就活に困ったって泣きついて、源喜が紹介してやったのに……結局、違うところで内定が決まったら蹴りやがったんだよ」


時雄の言葉に、ハルキは過去の光景を思い出した。鍋田が以前、源喜や他のメンバーにいじられないよう必死でヘコヘコしていた姿。だが、その裏ではハルキに愚痴をこぼし、結局は平気で裏切ったのだ。


「なべちゃーん! 死ぬなよ! るるちゃんのライブ、来月武道館であるんだろ?! なぁ!!」


富弥が泣き叫ぶ。しかし鍋田は返事をすることなく、口から大量の血を吐き、そのまま絶命した。


しんと静まり返る部屋の中で、黒い布が鍋田の遺体にかけられる。その時、時雄が静かに呟いた。


「とんだクズ野郎だ。死んで当然だ」


時雄は源喜の側近的存在だったが、その表情には一抹の疲労が滲んでいた。長年共にいた仲間を自らの手で始末したというのに、そこに悲しみの色はない。ただ、倦怠と怒りだけが見える。


「……時雄、やりすぎだろ」


源喜が低く呟く。その言葉が場の空気をさらに重くする。


沈黙が降りる中、その静寂を破ったのはレナミだった。彼女はゆっくりと前に進み出ると、冷たい目で信成子を睨みつける。


「時雄……あんた、身内のクズ野郎を見抜けないの?」


「えっ、えっ……なになに……?」


信成子は突然自分に向けられた視線に戸惑い、声を震わせる。しかし、レナミは構わず彼女の首を掴んだ。


「やめっ……な、なんで私……!」


信成子は必死にレナミの手を振りほどこうとするが、彼女の指はまるで鉄の爪のように首に食い込んでいた。


「お前さぁ、ずっと自分は安全圏にいるつもりだったんじゃないの?」


レナミの唇が歪む。その目には確信めいた何かが宿っていた。


源喜が一歩踏み出す。


「レナミ、やめろ」


だが、彼女はまるで聞いていないかのように微笑んだ。


「ねぇ、源喜。あんたもそろそろ気づいたでしょ? こいつ、ずっと私たちの足を引っ張ってたのよ」


「私は……っ、な、何も……!」


信成子の息が詰まり、涙が滲む。


「時雄、さっき『クズは死んで当然』って言ったよね?」


レナミはゆっくりと時雄を振り返った。


「じゃあさ、こいつも殺しちゃおうか」


その瞬間、場の空気が一気に張り詰めた。

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