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第十話 彼氏とカレピ

 教室の隅で、ギャルの宿毛梨々すくもりりかは震えながら梶原の遺体に寄り添っていた。


「ひーくん……こんな姿になっちゃって……」


 彼女の声は震え、涙が頬を伝っていた。だが、その瞳には深い愛情が浮かんでいた。


「ひーくん、大好きだったの……卒業したら結婚しようねって……約束してたのに」


 その言葉が放たれると、教室内の空気はまるで凍りついたように静まり返った。


「え……先生と……?」

「梨々花が……梶原先生と……?」


 ざわめきが教室内に広がり、誰もが信じられない思いで梨々花を見つめた。

 その中で、梨々花は涙を浮かべたまま、静かに語り始めた。


「私、最初はただのギャルだったの。将来のことなんて何も考えてなくて、目立つためにサークルに入っただけ。ひーくんが声をかけてくれなかったら、きっと今も何も変わらなかったと思う」


 彼女は一度目を閉じ、記憶を掘り起こすように言葉を紡いだ。

「でもね、ひーくんが言ってくれたんだ。『君には可能性がある』って。私なんかが、放送の世界で輝けるって教えてくれたのはひーくんだけだった。実際に、地方アナウンサーになれたのも、ひーくんが背中を押してくれたから……」


 教室には、再び静寂が戻った。梨々花の一言一言が、教室の誰もが知らなかった梶原の一面を浮かび上がらせていた。


 確かに、梨々花がサークルに入った当初、彼女は派手な見た目の典型的なギャルだった。

 その後、星華と意気投合したこともあって、サークル内ではやや浮いた存在だったのも事実だ。しかし、梶原が特別に彼女を指導していた理由が、今初めて部員たちの中で明らかになった。


「でもね……こんなところで、こんなひどい目に遭うなんて……」


 梨々花は震える手で、梶原の顔に触れようとした。

 だが、その手は途中で止まり、引き戻される。遺体のあまりにも無惨な姿を前に、彼女はその手を伸ばせなかった。


 そんな彼女を冷ややかに眺めていたスダが、口元に皮肉な笑みを浮かべながら一歩前に出た。


「なるほど、教師と生徒の禁断の愛ですか。いやぁ、いいですね。純愛、かぁ。これを皆さんがどう受け止めるか、非常に興味深い」


 スダの冷徹な声が教室に響き渡る。

 まるで状況を楽しむかのようなその態度に、教室の空気はますます重く沈んでいく。


 梨々花はスダの言葉に反応することなく、ただじっと梶原の遺体を見つめていた。

 その背中は小さく震えており、心の中で何かを抑えているようだった。


 梨々花の横にいた、同じくギャルな伊豆原星華いずはらせいかは、複雑な表情で梨々花を見つめていた。

 サークル内ではいつも一緒にいた親友だが、今は言葉が出てこない様子だった。


「付き合ってたのは知ってたけど……結婚だなんて聞いてなかったよ」


 星華は絞り出すように言った。

 その声には、驚きと切なさが込められていた。


「ごめん……この旅行中にみんなに伝えようと思ってたの」


 梨々花は涙をこぼしながら答えた。

「なんで……なんで親友の私に先に教えてくれなかったのさ……! こんなことになる前にさぁっ!」


 星華の声は震えていた。

 その声に、教室中の誰もが何かしらの感情を抱き、胸が締め付けられるような気持ちにさせられた。


 梨々花は「ごめんね」と泣きながら謝り続けたが、星華はそんな彼女をしっかりと抱きしめた。


「梨々花、つらいね……私が受け止めてあげる。こんなゲーム、まともにやる必要なんてないから」


「星華……うん、そうだよね……」


 梨々花は、星華の胸に顔を埋め、涙を流した。

 二人の間には確かな友情の絆があることを再確認する瞬間だった。

 その絆こそが、今の恐怖と絶望の中で唯一頼りになるものに感じられた。


「なにがひーくんよ……」


 声の主はサークル長の雫だった。

 ついさっきまで冷静にチームをまとめ、状況を整理していた彼女だったが、梨々花の告白にその態度は一変していた。


「ひーくんこと、均さんと私……結婚する予定だったのよ」


 その言葉は、教室内にさらなる衝撃をもたらした。

 梨々花と同じように、梶原との関係が深いことを告げられた瞬間、教室内の空気は再び変わった。


 全員が言葉を失い、目を見開き、雫の告白を信じられない思いで聞いていた。



 その一言が放たれると、教室内は再びどよめきに包まれた。


「は? 雫と結婚? ひーくんがこんな堅物に興味あるわけないじゃん!」


 梨々花は目を見開き、信じられないというように声を荒げた。

 教室の空気が一瞬で重くなり、誰もがその言葉の真意を探ろうとしていた。


 しかし、雫は動じることなく、冷ややかな視線で梨々花を見据えた。

 その目は、まるで梨々花の言葉をすでに予見していたかのような冷徹な輝きを持っていた。


「均さん、言ってたわ。『真面目な子が好きだ』って。私と話していると、世界が広がるようだって……あなたとは会話が噛み合わなくて、きっと退屈だったでしょうね」


 二人は睨み合い、火花を散らしていた。

 その場にいる誰もが、二人の間に渦巻く嫉妬と怒りの感情に圧倒されていた。


 梨々花はその言葉に信じられないという表情を浮かべながら、再び声を荒げた。


「はぁ? わけわかんねー! ひーくんは私と結婚する約束をしてたんだけど!」


 その言葉に、教室の雰囲気が一層張り詰める。

 梨々花は怒りと悲しみで顔を歪ませ、涙をこらえながら雫に食い下がった。

 しかし、雫は一歩も引かず、冷静に言葉を続けた。


「均さんとの子供、お腹にいるの。それを今日、みんなに伝えるつもりだったのよ」


 その言葉に、教室中が一瞬で凍りついた。

 誰もが息を呑み、その場の空気が一変した。


「なに…それ…?」


 誰かが小さな声で呟いた。

 その言葉が意味することを理解した瞬間、教室中に広がったのは恐怖と驚愕の空気だった。


 梨々花は震えながら言った。

「それって……嘘よね……? ひーくんが私に言ったこと、あんなに大事にしてたのに……私と結婚するって、約束したのに!」


 涙をこぼしながら、梨々花はすがるように言ったが、雫は無表情で返す。


「それが現実よ、梨々花」


 彼女の言葉は、冷徹であり、どこか哀しげだった。

 梨々花はただ黙ってその言葉を受け止めるしかなかった。


 教室内の生徒たちは、誰もが言葉を失い、ただ二人のやりとりを見つめるしかなかった。

 雫と梨々花の関係がここまで深いものであったことを知る者は、ほとんどいなかった。


 梨々花の動揺と雫の冷徹さが教室内に新たな緊張をもたらしていた。


「嘘だ、そんなの嘘だ! ひーくんは私と結婚するんだって言ったのに!」


 梨々花は叫び、涙が止まらなくなった。

 その姿は、純粋な愛情と裏切りの間で引き裂かれた少女のようだった。


 雫はその場に立ち尽くす梨々花を見つめながら、悲しげな表情を浮かべる。


「どうしてそんなに必死なの、梨々花? あなたは本当にひーくんと結婚したかったの? それとも、ただこのゲームで勝ちたかっただけなの?」


 その言葉が、梨々花にさらに重くのしかかる。

 雫の言葉には、鋭い刃のような冷徹さが感じられた。


 教室内の他の学生たちは、二人の間の緊張感に押し潰されそうになりながらも、何も言えなかった。


 そして、その静寂の中で再びスダが口を開いた。


「ふふ、面白いですね。まるで映画のワンシーンのようだ。ですが、残念ながら、今はその映画の続きの時間です」


 スダの冷徹な言葉が教室内に響く。

 その声は、教室を支配し、どこか無感情で淡々としている。


 教室の隅に立つ兵士たちは何も言わず、ただ黙ってその光景を見守っている。

 その姿もまた、教室内の恐怖をより一層深めていく。


「さあ、時間がないわけではないですが、そろそろゲームに戻りましょうか」


 スダの言葉が、教室を一気に引き締める。

 梨々花と雫の間で起こった衝撃の告白が、教室内に漂う緊張感をさらに高めていた。


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