第8話:「氷の刃、雷を断つ」
視界は、白く滲んでいた。
人工的に制御された雷雨が、ドーム内に激しく降り注ぐ。
天井から落ちる無数の電光がフィールドを分断し、まるで空間が“裂けている”かのようだった。
《雷鳴領域》――
この場で氷の異能を使うというのは、まるで焚き火の中で雪玉を投げるようなもの。
だが、白亜は迷わない。
──私は、絶対零度の刃。
雷の熱をも凍らせる、“止まる”異能を持っている。
⸻
左翼エリア。制圧ポイントB。
氷堂 白亜はすでに陣地の縁に立ち、敵の姿を睨んでいた。
現れたのは、雷鳴学園の戦術補佐・2年の少女。
名前は阿瀬 紫苑。
戦偏:73。雷鳴学園で「迅牙の影」と呼ばれる。
「……へえ、来たのね。氷堂 白亜。貴女が相手とは光栄だわ」
小柄で中性的な外見。だが目が、蛇のように鋭い。
その手には“電磁式の双短剣”が握られていた。
白亜は構える。
「あなたが、“速さ”の使い手ね」
「それだけじゃないわ。“削り落とす”のが私のやり方」
ドッ!!
電光の加速。
紫苑が、稲妻のように跳ねた。
次の瞬間にはもう白亜の懐に入り、短剣が振り下ろされている。
だが――
ガシィンッ!!
空間が凍った。
氷のバリアが瞬時に展開され、紫苑の刃を阻む。
「っ……なるほど。氷結反応、早い……!」
白亜は無言のまま、反撃に転じる。
「――零結展開。氷裂陣」
地面から突如、氷の槍がいくつも走る。
一撃では殺さない。動きを封じ、**“制圧”する”**ための連携型。
だが、紫苑は冷笑する。
「そんな氷、私の雷で溶かせないと思ってる?」
ブレードを逆手にし、氷柱を一撃ずつ叩き割る。
「……普通ならね」
白亜が、静かに呟いた。
「でもこの氷は、“溶かす前に凍る”。そう設計してる」
「は?」
次の瞬間、紫苑の足元から、白く冷たい“罠”が炸裂した。
ガシュウッ!!
瞬間凍結。
彼女の足首から下が、氷に封じられる。
「……っ、この……!」
「あなたは、速すぎる。だから、“動かせなく”すればいい」
紫苑は呻きながら、ブレードを逆手で振り払う。
だがその動作は、明らかに鈍い。
雷による筋肉加速に頼る戦術――その源を冷却すれば、ただの“普通の人間”だ。
「氷堂 白亜……あなた、マジで……っ!」
白亜は一歩、踏み込む。
氷剣が、天を向いた。
「これで終わり」
「絶対凍界・一点斬り《クライオ・スラッシュ》」
氷剣が、空気ごと裂いた。
振り下ろされた一撃は、紫苑の肩ギリギリをかすめ、床を貫いた。
──しかし、斬られてはいなかった。
白亜は目を細める。
「避けたわね」
紫苑は、肩で息をしながらにやりと笑った。
「さすが“聖霜の剣姫”。でもまだ……倒れてない」
「倒れたかどうかは、判断するのは私じゃない。制御中枢よ」
キィン――
アリーナに響く電子音。
《制圧地点B、氷堂 白亜により占拠完了。敵勢力、戦闘継続不能。》
観客席からどよめきが起こる。
「また勝ったのか……!」
「ドベ七、マジでトップ倒しに来てる……!」
白亜は剣を納め、静かに歩き出す。
「冥……あなたの中央は、どう?」
⸻
その頃、中央拠点。
冥と阿久津 雷土の戦いは、激化していた。
雷が空を裂き、斬撃が地を走る。
だがその時。
「──中央、異常電圧発生ッ!?」
観測員の声がアリーナ中に響いた。
そこに現れたのは――
雷鳴学園の頂点。
“狩人”――獅堂 迅牙。
「よう、黒乃 冥。待ちきれなくて、先に来ちまった」
冥が、ゆっくりと振り返った。
白亜の氷が雷を断ったその瞬間、
冥の前に、真の“嵐”が立ちはだかる。