第7話:「制圧戦開始──雷鳴領域へ」
《雷鳴領域》。
それは、雷鳴学園の内部に存在する巨大な戦闘ドーム。
人工気象装置によって常に雷雨が降りしきり、視界・音・戦術に影響を与えるよう構築された“戦力偏差値専用戦場”。
ここでは力だけでは勝てない。
いや、力があっても勝たせてもらえない。
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冥と白亜は、試合開始の1時間前に現地入りした。
ドームの入口で、ふと足を止める白亜。
「この空気……懐かしいわ」
「来たことあるのか?」
「1年半前。勝ったけど、吐き気がするくらい気分が悪かった。空気も、観客も、ルールも──全部が“勝たせるために作られてる”って感じだったから」
冥は一歩前に出た。
「……だったら、今回は“壊しに”行くだけだ」
静かな声だった。
だけどそこには、鋼より硬い意志があった。
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【戦場概要】
•フィールド構成:
3つの制圧エリア+中央拠点(全4エリア)
•勝利条件:
「3エリア以上を10分間制圧」 or 「敵チームの全滅」
•天候:
雷雨(視界30%低下・一部エリアで感覚妨害)
•参加メンバー:
雷鳴学園側:3名(うち1名は雷鳴四将と呼ばれる実力者)
第七特科高側:黒乃 冥、氷堂 白亜
完全に数的不利。
だが、冥も白亜も顔色ひとつ変えない。
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控室。
白亜が静かに語る。
「相手の一人、“阿久津 雷土”は、迅牙の右腕。
戦偏78、雷操作の異能に加え、反応速度強化もある。中距離の制圧型。厄介よ」
「もう一人は?」
「名前は不明。記録も伏せられてる。……何か、隠してる可能性がある」
冥は黙って、手のひらに刀の鞘を添えた。
「じゃあ、戦いながら引きずり出す」
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「全参加者、戦闘エリアへ」
ドーム中央に設けられた“戦闘ブリッジ”を、二人は並んで歩く。
足音だけが響き、観客席からは罵声と歓声が入り混じる。
「負け犬ども、黙って引っ込んでろ!」
「あの冥って奴、また勝てると思ってんのか!?」
それでも冥は何も言わない。
白亜もまた、鋭い眼差しで敵陣を見据えていた。
ステージに現れた、雷鳴学園の3人。
その中で最も前に立つ男、阿久津 雷土が言う。
「ようこそ、最下位の星さんよ。こっちはトップの刃って呼ばれてんだ。地面にキスする準備、できてるか?」
冥は静かに言った。
「お前が最初に沈むなら、心の準備だけしておけ」
阿久津の笑みが、ぴきりと引きつった。
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カウントダウン:
「10、9、8……」
白亜が呟く。
「初動は分断してくる。私は左の制圧地点を取る。冥、中央をお願い」
「ああ。“獣の牙”は任せろ」
「……死なないでね」
冥はわずかに目を細めた。
「心配性だな。俺は勝ち筋しか見ない」
「……なら、勝って」
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戦闘開始──
開始の合図と同時に、雷がフィールドを貫いた。
轟音。閃光。激しい雨。
そして、視界が一瞬で白く塗りつぶされる。
冥は一直線に中央へ走る。
白亜は左翼から氷の刃を展開し、相手の前衛を凍結で牽制。
阿久津 雷土は中央へ。
冥と真正面から激突する形となった。
「おい、冥って奴。お前の噂、耳タコになるほど聞いたぜ。だがな――」
バチィィンッ!!
阿久津の両腕に雷のガントレットが走る。
「“電撃は速度”。お前の斬撃が届く前に、こっちは動き終わってるんだよ!!」
瞬間移動にも近い雷閃突進。
視界の外から殴りかかる雷土の拳。
冥は――
避けなかった。
「……見えた」
刀を、抜いた。
そして、
「――斬域、発動」
雷が走る音より速く、空間が裂けた。
斬撃が、音を置き去りにして、雷土の肩口を斬る。
「ッガ……!? うそだろ……!?」
冥の目が、静かに冷えていた。
「“先に見える”って言ったろ。お前の攻撃が来る前に、俺の勝ちはもう済んでる」