第6話:「戦場指定:雷鳴領域」
アークライズ──
それは、異能を持つ少年少女が集う“選別の都市”。
都市全体が“教育機関”で構成されており、全部で13の高校が存在する。
各校には明確な「序列」があり、都市のあらゆるリソース――
補助金、装備、施設、教師の質、寮の待遇に至るまで、すべてが“戦力偏差値”によって決まっていた。
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【アークライズ構造】
•上位3校: 都市の象徴。実質的な支配権を持つ。
例:雷鳴学園(戦偏85)、聖霜女学院(戦偏82)、煌月統英高(戦偏81)
•中位7校: 安定した実力校。下位からの上昇は年に1〜2例のみ。
•下位3校: “負け癖”が染みついた劣等校。
その最底辺が、《第七特科高》。戦偏:32(現在)
この偏差値は、全生徒の戦績・成績・異能スコア・戦術評価などを都市中枢AIが自動算出している。
そしてこのシステムには、ひとつの“仕様”があった。
上位校と下位校が戦う場合、上位校の戦力が「正当化」されるルール
つまり――
「同じ勝利」でも、上位が勝てば“当然”、下位が勝てば“偶然”と扱われる。
黒乃 冥と氷堂 白亜の前回の勝利も、偏差値への反映はごくわずかだった。
それどころか、一部の公式記録では「雷鳴学園のエースではない」と注釈までついていた。
白亜は、それを知っていた。
だから、黙っていた。
そして今、隣に立つ“彼”が何を思っているのかも、わかっていた。
「……次の戦場、決まったわ」
白亜が言った。
「《雷鳴領域》──雷鳴学園が本拠地として管理する、“戦闘用ドーム領域”。」
「向こうの土俵ってわけか」
冥は淡々と答える。
「さらに。戦闘ルールは“変則制圧型”。
マップ内に存在する“制圧地点”を同時に管理しながら、相手を戦闘不能に追い込む形式。通常の1対1ではなく、地形操作・心理戦・連携戦術が重要になる」
冥は小さく肩を回した。
「……面倒だな」
「それでもやる?」
「やらない選択肢があると思うか?」
白亜は目を伏せた。
その横顔は、どこか切なげだった。
「……これが、この都市の“やり方”なのね」
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その日の夜。
冥は一人、学校の屋上に立っていた。
手には、都市中枢ネットから落とした《雷鳴領域》のマップ。
――見れば見るほど、圧倒的に不利だった。
狭い通路、広すぎる制圧範囲、天候システムによる雷雨設定。
冥と白亜の“スピードと正確性”を封じるために、徹底的に設計されていた。
まるで、“誰か”が最初から彼らを潰すために準備していたように。
だが――冥の表情は変わらない。
「条件が整ってない戦場で勝つ方法を探すのが、俺の仕事だ」
その言葉を背に、彼はゆっくりと刀を構える。
「想定外を超えれば、すべてが“想定内”になる」
風が吹く。
刀の鞘が、静かに鳴った。
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そのころ、白亜は寮の部屋で一人、窓の外を見つめていた。
《雷鳴領域》――彼女も、そこで一度戦ったことがある。
勝った。
だが、心のどこかに「負けたような気分」が残った。
戦い方も、やり方も、すべてが“型”にはめられていたから。
けれど今、彼女はほんの少しだけ、違う期待を持っていた。
「黒乃 冥……。あなたなら、この都市の“型”を……壊してくれるかもしれない」
そう呟いて、そっと目を閉じる。
その手には、冷たく輝く氷剣の柄が握られていた。
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《アークライズ》は、静かに眠ろうとしていた。
だが、雷はまだ落ちていない。
獅子の咆哮は、戦場で待っている。