第5話:「雷鳴の檻、牙の予告」
《アークライズ》中心区。
雷鳴学園の本校舎最上階。
その場所は“塔”と呼ばれていた。
高層ガラス張りの廊下、都市を一望する展望ホール、最新鋭のトレーニング施設。
そして、その中心にただひとり――
巨大な鉄剣を背に、ソファに腰を下ろしていたのは、
この都市における戦力偏差値ランキング“1位”、獅堂 迅牙だった。
「……ふーん。3人まとめて潰されたって?」
報告に来た幹部生徒は、額に冷や汗を流していた。
「は、はい。対象は黒乃 冥、および氷堂 白亜。偏差値未登録と72、どちらも新入生ですが……明らかに“格”が違います」
迅牙は、鉄剣の柄を小さく回す。
「じゃあ何か? お前ら三人が“格下”だったってわけだな」
「い、いえ、そ、それは──」
「面白えな」
言葉を遮り、笑った。
それは怒りではなく、狩人が“良い獲物”を見つけたときの笑み。
「下から這い上がってくる奴が、一番ワクワクすんだよな。俺は“強い奴”を見てぇんじゃねぇ。強くなる奴を狩りたいんだよ」
彼が立ち上がる。
その瞬間、空気が変わる。周囲の生徒たちが思わず後ずさるほどの“威圧感”。
まるで嵐の前触れのように、雷の匂いが、彼の体から立ち上がっていた。
「……黒乃 冥。氷堂 白亜。お前ら、都市に牙を剥いたってことを忘れるなよ?」
バチンッと、空気中に小さな放電音が走る。
「俺が狩るまで、死ぬなよ」
⸻
その頃、第七特科高では――
冥と白亜の勝利が、全校に静かに広がっていた。
昼休み、いつもの校舎裏。
「……増えたわね、視線」
白亜が小さく呟いた。
冥は、パンを片手に空を見上げていた。
「そりゃそうだろ。ドベ七がトップ校に勝った。みんな、今更希望の味を思い出しただけだ」
「期待されるのは、嫌?」
「どうでもいい。期待されても、されなくても……俺のやることは変わらない」
「変わらない?」
「斬って、勝って、登り詰めるだけだ」
白亜はその言葉に、一瞬だけ沈黙する。
「……私、ね」
唐突に、白亜が口を開いた。
「聖霜を辞めたの、別に深い理由があったわけじゃない。“ずっと上にいる”のが、ただ虚しかったの。だから今、ちょっとだけ楽しい」
冥は何も言わない。
ただ、その言葉を“否定しない”という行為だけが返事だった。
白亜は、ふと笑う。
「あなたといると、斬る意味が少し変わるの。……不思議よね」
⸻
その日、校内掲示板に一枚の告知が貼られた。
《緊急特例戦:雷鳴学園 対 第七特科高》
日付、会場、形式──
そして最後に、主催者の名前が記されていた。
獅堂 迅牙(雷鳴学園代表)
校内に、激震が走った。
「じょ、冗談だろ……!?」
「迅牙が動くなんて……!」
「ドベ七、終わったな……」
その知らせを、冥と白亜も校舎の一角で見ていた。
「来たわね、“頂点”が」
白亜が目を細める。
冥は、掲示板に記された名を見つめたまま、小さく呟く。
「……なら、潰すしかないな」
その言葉は、野心でも宣戦布告でもなかった。
ただ、当然の行動を述べただけ。
まるで“朝起きて歯を磨く”くらいの自然さで。
白亜は、その背中を見て、どこか安堵したように笑った。
「怖いくらい、ブレないのね。黒乃 冥」
風が、告知の紙を小さく揺らした。
獅子の咆哮は、すでに聞こえていた。




