第4話:「第一戦、開戦」
《アークライズ》の中心地、戦力リーグ管轄の公式アリーナ。
ここでは定期的に「高校間戦力試験バトル(通称:インターリーグ)」が開催されている。
勝てば偏差値が上がる。負ければ落ちる。全校生徒と学校の未来が、戦い一つで決まる世界。
だが今日の試合は、定期戦ではない。
それは――《雷鳴学園》から《第七特科高》への“名指しの挑戦”。
黒乃 冥と氷堂 白亜。
新たに現れた“下位の異端”を、自らの手で潰すための“見せしめ”だった。
アリーナ控室。
「……なあ、冥。あの雷鳴のやつら、本気で潰しにきてる」
淡々と語るのは、白亜。
彼女の瞳は普段と変わらない冷たさを保っていたが、その奥には明らかな“計算”があった。
「うん。わかってる」
冥は椅子に座ったまま、刀の柄を指でなぞっていた。
「こっちは2人。向こうは3人。しかも“実戦経験あり”って情報付き」
「……対多戦闘、大丈夫?」
「多い方がいい。斬る手間が減る」
白亜はふ、と息を吐いた。
呆れでも、不安でもない。“理解”の表れだった。
「なら、斬るわよ。合理的に」
⸻
開始10分前。
アリーナの観客席には、雷鳴学園側の生徒が多数詰めかけていた。
「最下位校にやられるはずがない」「あのエースたちに勝てる新人なんているわけがない」――その空気が満ちていた。
控室の扉が開く。
二人の姿が静かに現れる。
冥と白亜。
騒がしい空気の中、その足音だけが異様に響いた。
実況がざわついた空気を打ち消すように叫ぶ。
「さあ、今宵の特別試合は! 最下位からの異端者! 黒乃 冥、氷堂 白亜――対するは雷鳴学園より選抜三名の精鋭たち!」
場内のライトが落ちる。
ステージに登場したのは、異能と武器を手にした三人。
全員が偏差値75以上。装備も技術も、明らかに“上”の連中だ。
試合前、敵の一人がにやけながら近づいてきた。
「オイ、冥くんだっけ? ちょっと調子に乗ってるって聞いたよ。悪いけど、今回はマジで潰すから」
冥は返事をしない。
「……それ、試合後も言えるなら聞いてやる」
静かに鞘を握る。
白亜もまた、氷剣を構える。
試合開始の合図が、場内に響く。
──ゴォン!
雷鳴が轟いた瞬間、最初に動いたのは、冥だった。
一歩。
ただの一歩。
しかし、その一歩で敵の前衛の視界が“途切れた”。
「ッ──!?」
気づいた時には、敵の武器が真っ二つになっていた。
「一撃!? 何が起きた……!?」
実況が叫ぶ。観客が騒然とする。
冥の能力、《斬域零葬》が発動していた。
わずかに抜いた刀身から伸びる“斬撃圏”。その空間に踏み込んだ時点で、すでに“負け”が決まっている。
敵は怯む。しかし、後退する前に、白亜が動いた。
「“冷却陣展開。標的、凍結──”」
氷柱が地を走る。
逃げ道を塞がれた敵の一人が脚を取られ、凍りつく。
その瞬間、冥の刃が視界の外から走った。
二人目、沈黙。
観客席に、言葉を失う者が増えていく。
「……あと一人」
冥が呟いた瞬間、残る敵が叫んだ。
「ちくしょう! 舐めんなッ!!」
異能発動。雷を纏った衝撃波がアリーナ全体を包む。
「無駄」
冥は右手を下ろしたまま、一歩踏み出す。
そのまま、斜め上から抜き打ち一閃。
──沈黙。
時間が、止まったかのような錯覚。
最後の敵が倒れる。
審判が、一歩前に出て、恐る恐る声を上げた。
「せ、戦闘不能。勝者、《第七特科高》──黒乃 冥・氷堂 白亜!」
観客がどよめく。
戦力偏差値“最下位”の学校が、トップ校の尖兵を“完封”した。
⸻
その日の夜。
校舎の屋上で、冥は風に当たっていた。
背後から、小さな足音。
白亜が隣に立つ。
「……勝ったわね」
「ああ。偏差値は、少しだけ上がるだろうな」
「それでも、まだ遥か下位よ」
冥は刀の柄を軽く握ったまま、笑うでもなく呟いた。
「なら、また斬るだけだ」
白亜はその背を見ながら、ふ、と笑う。
「……そうね。また、斬っていきましょう。頂点まで」
月光が二人を照らしていた。
遠く、雷鳴学園の塔の上。
獅堂 迅牙が、満足そうに笑っていた。
「“最下位”の新人か。潰すには惜しいな。──狩りが楽しみだぜ」




