第2話:「氷の剣士と、最下位校の革命」
《アークライズ》の空が、どこまでも高く澄み渡っていた。
第七特科高──最下位校として知られるその場所に、わずか数日前まで希望の欠片すらなかった。
だが、新入生・黒乃 冥が《神楽院高》のエースを一撃で沈めたことで、その空気は静かに、だが確実に変わり始めていた。
教室。
誰も口を開かず、冥の存在を“観察”していた。
彼はいつも通り、一番後ろの席で静かに座っていた。視線に気付いているはずなのに、まるで空気のように受け流す。
そこへ、教室の扉がゆっくりと開いた。
「……今日から、このクラスに入ることになりました」
その声は、氷の結晶のように透き通っていた。
立っていたのは、一人の少女。
銀白の髪、雪のように白い肌、無表情。まるで冬の精霊がそのまま人の姿を取ったかのような存在感。
名を――氷堂 白亜
「戦力偏差値72、元《聖霜女学院》所属。編入希望により、今日から《第七特科高》へ」
ざわっ、と教室が揺れる。
「マジかよ……! 偏差値70台が、ドベ七に……?」
「なんでこんな学校に……」
それは当然の反応だった。
白亜は、都市でも屈指の名門校《聖霜女学院》の筆頭剣士。転入の理由は一切語られていない。
教師が動揺の中で促す。
「そ、それでは、空いている席に──」
白亜の視線が、まっすぐ冥を捉えた。
感情の読めない瞳。だが、その奥にある何かが、冥に“剣の気配”を感じさせた。
白亜は何も言わず、冥の隣の席に座る。
一言、冥にだけ聞こえる声で囁いた。
「……貴方の“斬り方”、興味がある」
冥はほんの一瞬だけ視線を向けた。
それは警戒でも、敵意でもなかった。
――ただ、“理解した”という視線だった。
⸻
その日の放課後。
突如として学内放送が鳴り響く。
《緊急戦力評価戦を実施する──対象、黒乃冥および氷堂白亜。》
挑戦者は、同じ第七特科高の2年・3年の有志。
“最下位校の新人”が目立ったことで、上級生たちが本気で潰しにかかってきたのだ。
校庭に集まる観衆。
冥は刀を背負い、白亜は静かに氷剣を構えていた。
上級生たちが笑う。
「相手は新入生二人か。面白え。遊んでやるよ」
だが次の瞬間、空気が凍りつく。
白亜が踏み込んだ。
一歩。
刹那にして氷の結界が展開され、四方を氷柱が走る。
「“冷却結界”展開完了」
氷剣が閃き、敵の動きが止まる。
足元が凍り、動作が遅れ、次の瞬間には冥が横を通り過ぎていた。
鞘からわずかに抜かれた刃が、まるで何かを“予言”したかのように、上級生の肩をかすめる。
反応が遅れた者が斬られた。
残り数秒で、全員が戦闘不能になる。
──沈黙。
上級生たちは倒れ、校庭には氷の結晶と一筋の斬撃跡だけが残っていた。
⸻
勝利後。
冥と白亜は並んで歩く。
「……あなた、感情が無いの?」
白亜が静かに尋ねる。
「ある。ただ、戦う時に使う意味がないだけだ」
「……似てるわね。私もそう思う」
冥は一言、目を閉じて答えた。
「氷の剣士か。悪くない」
そのやりとりを、遠くの校舎の影から見つめるひとつの影があった。
金髪の獣のような男。
鋭い目をし、巨大な鉄剣を背負っている。
「黒乃冥、氷堂白亜……。おもしれぇ新入生が来たじゃねぇか」
名は、獅堂 迅牙
戦力偏差値85、《雷鳴学園》の頂点に立つ男。
牙を剥くのは、もうすぐだ。