第10話:「落雷の一撃、世界の裂け目」
──斬れなかった。
先の斬撃は確かに届いた。
だが、迅牙の“本気”には、まだ届いていなかった。
「黒乃 冥、お前……マジでやべぇな」
肩から血を流しながら、それでも迅牙は笑っていた。
「今までの戦いの中で、一番面白ぇ。だからよ──“全部”出していいよな?」
ゴォォォォオッ!!
空が唸った。
フィールド天井の人工雲が、異常気象を起こす。
観客席も凍りつくその瞬間、迅牙の周囲の大気が帯電を始めた。
解放異能:《雷咬・天墜》
「これが、俺の全力だァァァッ!!」
雷が、天井から一直線に落ちる。
その全てが、迅牙の体へと集束され、巨大な雷剣と化していく。
空間が、うねった。
「避けられるか!? 黒乃 冥!!」
⸻
冥は、刀を構えたまま、一歩も動かない。
その目に宿っているのは――恐れではなく、“静寂”。
「……斬る。絶対に」
冥の刀が、空気を裂いた。
冥・解放異能:《虚刀・断空》第弐式
冥の刀身が、うっすらと蒼白く光り始める。
「“速さ”ではなく、“確実性”で仕留める――」
その一振りは、時差を持って届いた。
刀が振られた瞬間、まだ空間は裂かれない。
だが次の瞬間――
ズギャアァァアァッ!!!
風が止まり、音が消え、
視界のすべてが“断ち割られた”。
雷と、刃。
光と、静寂。
頂点と、最下位。
そのすべてが交差した一瞬。
観客たちは“目”を疑った。
――勝者は、
黒乃 冥だった。
ドーム中央に、雷剣が折れて突き刺さっている。
その前に立ち、肩で息をする冥。
そして、その後ろに――膝をつき、顔を伏せる迅牙。
「……ハハ。マジかよ……負けたのか、俺」
冥は刀を納めながら、静かに言った。
「戦力偏差値がどうとか、都市の序列がどうとか……そんなもんより」
「お前がここにいたから、全力を出せた。それだけで、もう十分だ」
一瞬、迅牙の目が見開かれる。
そして次の瞬間、雷鳴の王は――
笑った。
「……最下位ってのはよ、最高の踏み台ってわけか」
冥は何も言わなかった。
だがその背中に、確かな誇りがあった。
《第七特科高、戦偏+12。全校中、9位に浮上》
《黒乃 冥:個人戦偏72 → 81》
観客席が、揺れる。
「ありえねえ……!」
「冥……あいつ、本物だ……!」
戦闘後、屋上にて。
氷堂 白亜が、冥の隣に立つ。
「……勝ったのね」
「ギリギリだったけどな」
「……最下位の私たちが、頂点を食った」
「でも、まだ始まったばかりだ」
「え?」
冥は空を見上げながら言う。
「都市の“ルール”ごと変えるには……
もっと斬らなきゃならない“敵”がいる」
白亜の目が、わずかに揺れた。
――そして、風が吹く。
夕焼けのアークライズ。
その空に、新たな雷鳴が轟いた。




