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3 禁忌の呪文

 まだ意識は戻らないものの、生気を取り戻したジルの頬を優しく撫でると、ユキはゆっくりと立ち上がった。


 涙を袖で拭うと、ユキは王を睨み付けた。


「そうよ、私がこの国でただ一人の、最後の魔女よ。王だか何だか知らないけど、私に何の用?」


「ははは、威勢のいい魔女だな」


 王が鷹揚にそう言って笑うと、話を続けた。

 

「伝説によれば、魔女達は精霊の力を借りて多くの人々の命を救ったが、ある()()を犯し、神の怒りに触れた。そして、魔女達は精霊の力を借りることが出来なくなった……」

 

 王がゆっくりとユキの方へ歩き出した。

 

「……しかし、遥か東方に住んでいたある一人の魔女とその子孫だけは、引き続き精霊の力を借りることが出来たそうだ。つまり、禁忌を犯すことが神に赦されているのだ」

 

 王がユキの目の前で止まった。ユキの表情を見て、不吉な笑みを浮かべる。

 

「小娘。お前はその『禁忌』が何か知っているな?」

 

 ユキは少し躊躇った後、口を開いた。

 

「……()()()()()()()()よ」

 

「少し違うな。()()()()()()()()()()だ」

 

 王がにやりと笑った。

 

「かつて魔女達は、愛する祖国を守るため、精霊の力を借りて戦ったのだ」

 

 王がユキの肩に手を置いた。

 

「なあ、最後の魔女よ。おかしいとは思わんか? 愛する祖国を守り戦うことに、何の問題がある? それは禁忌などではない。神聖な、崇高なる行為だ! 最後の魔女よ……私の力になってくれ」

 

 王が猫なで声になり、話を続けた。

 

「お前がこの王国を守るため共に戦ってくれるなら、莫大な褒美をやろう。こんな辺鄙な場所で貧乏暮らしをする必要もなくなる。望みは何でも叶え放題だ……さあ、力を貸してくれ。共にこの王国に更なる繁栄をもたらそうではないか!」

 

「嫌よ!!」

 

 ユキが両手で王と突き飛ばした。後方の壁際まで後ずさりして、大声で叫ぶ。

 

「何が神聖な、崇高なる行為よ! 私は、母の、そして一族の『ユキ』の名を受け継ぐ最後の魔女。この力を戦争の道具になんか決して使わせないわ!」

 

「……やれやれ。頭の悪い小娘だ」

 

 ユキの叫びを聞いた王が、ため息をつきながら言った。

 

「その力が私のものにならないのであれば、それは単なる脅威だ。惜しいが、脅威は早めに摘み取っておくとしよう」

 

 王が指で合図をした。兵士達が壁を背にしたユキを取り囲む。

 

「いくら禁忌を犯せる魔女とはいえ、これだけの兵を相手に勝ち目はないはず。殺せ」

 

 王がそう言った後、ふと思い出したように付け加えた。

 

「あ、そうそう、そこに転がってるガキも殺しておけ。この私に面倒をかけさせた罪は万死に値する」

 

 王はそう言って嘲笑(あざわら)うと、ユキに背を向け、開け放たれたままの家の扉へ向かって歩き出した。

 

 王の指示を受けた兵士達が、ユキとジルに向かって剣を振り上げた。

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