2 招かれざる客
ジルと一緒にお茶を楽しんだ日から数日後の昼過ぎ。何やら家の周りが騒がしいと思ったユキが家の扉を開けると、屈強な兵士達が雪崩れ込んで来た。
「な、何なの、あなたたちは?!」
「私の、王の兵に向かって偉そうな態度だな」
驚くユキに、兵士の後から部屋に入ってきた壮年の男が言った。
男は、豪奢な服に華美な装飾品を身に付けていた。
「王?!」
「小娘、国王陛下とお呼びしろ!」
思わず声を上げたユキに、兵士の一人が怒鳴った。どうやら、この男は本当にこの国の王らしい。
「お前が噂の魔女だな?」
「……」
ユキが黙っていると、王が兵士の一人に何やら指図をした。
すると、兵士が家の中へ若者を引き入れた。若者は傷つき縄で縛られていた。
その若者の顔を見て、ユキが叫んだ。
「ジル?!」
「すまねえ、ユキ……」
アザだらけの顔でジルが申し訳なさそうに言った。
その様子を見て、王が笑った。
「はっはっは。この森周辺の平民は、王への敬意が足りんようだ。どいつもこいつも、お前は魔女ではないと嘘ばかりついてな」
「だから何度も言ってるだろ、ユキは単なる村娘で……」
そこまで言ったジルの顔を、兵士が拳で殴った。ジルの口から血が滲む。
「や、やめて!!」
ユキが叫んだ。王がニヤニヤ笑いながら言った。
「お前が我が王国でただ一人の、精霊の力を使える魔女だな?」
「……」
ユキは無言で王を睨み付けた。
「フンッ、お前も王への敬意が足らんようだな。よし、お前が本当に魔女かどうか試してみるとしよう」
そう言うと、王は腰に下げていた装飾過多の剣を抜き、いきなりジルの脇腹を刺した。
「ぐっ?!」
縛られたジルが苦悶の表情で床に倒れ込んだ。ジルの周りにみるみると血だまりが出来る。
「ジル?!」
ユキがジルに駆け寄った。ジルが苦痛の中で必死に笑顔になって言った。
「は、はは……ユキ、とんでもない人違いをされたな。お前はお茶を淹れるのが得意なだけの、単なる村娘だもんな」
そして、周りに聞こえない小さな声で、ユキに囁いた。
「精霊の力は使うなよ……」
「ジル?? ジル!!」
「さあ、どうする魔女よ。精霊の力を使わないと、この不敬なガキは命を落とすぞ?」
2人を見下ろしながら、王が言った。
ユキは必死にジルの傷口を押さえたが、出血は止まらない。
ジルがユキに小さな声で呟いた。
「俺、ユキのことが好きだったんだ。もっと早く言っとけば良かった……」
ジルが意識を失った。
「ジル!!」
ユキが目に涙を浮かべながらジルの名を呼んだが、ジルは目を覚まさない。
「おいおい、そのガキ、もうすぐ死んでしまうぞ? 本当にお前は単なる村娘だったのか?」
王が嘲るように言った。
ユキが叫んだ。
「精霊よ急ぎ集まれ! この者を治癒せよ!」
ユキが叫んだ直後、部屋中で無数の光が明滅したかと思うと、ジルの傷口がみるみると塞がっていった。
そして、蒼白になっていたジルの顔色が、徐々に血色の良いいつもの顔色に戻って行った。
「素晴らしい、これが精霊の力か……」
王が驚嘆した様子で呟いた。