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あとの祭り  作者: yukko
章一の場合
7/122

章一の実家

車のCDから流れる音楽は唯が好きな歌ばかりだった。

アニメの歌が多かった。

その歌を唯が一緒に歌っている。

章一は⦅この幸せを続けたい。⦆と思った。

歌に合わせて唯は身体を揺らしている。

踊っているつもりなのだろう。

本当に愛らしい我が子なのだ。

ただ、困るのは「パパ! 見て、見て! あれ……何?」などと聞くのだ。

「パパは運転してるからね。見れないよ。」と言うと、ちょっと口を尖らせて「詰まんない。」と言う。

その様子さえ愛らしくて堪らなくなる。


⦅運転していなかったら動画を撮るのになぁ……。

 加奈子が居たら……動画を撮れたんだけどな。

 本気なのだろうか?

 本気で離婚したいと言ったのか? まさか……な。

 俺が女性を愛せないと知ってショックの余り……だよな。

 俺は離婚したくない。

 唯と……加奈子と……いつまでも家族で居たい!

 俺にとって唯だけなんだ。

 安心していられるのは唯の前だけ……。

 他の人の前では、親の前でも友達の前でも仮面を外せないんだ。

 仮面を着けなくていいのは唯の前だけなんだ。⦆


マンションから実家は車で30分ほどで着く距離にある。

章一の実家に着くと、玄関で唯は大きな元気な声で「おじいちゃん、おばあちゃん、唯、来たよぉ~。」と言った。

唯が居ればインターフォンは要らないのだった。


「唯―――っ! 会いたかったよ!」

「おじいちゃん!」

「唯ちゃん!」

「おばあちゃん!」

「ただいま。」

「お帰り。疲れたよね。早く座って。」

「うん。」

「お邪魔します。」

「まぁ、唯ちゃん!」

「唯はお利口さんだね。」

「ママがね。家に入る時は『お邪魔します』って言ってからって。」

「そうなのね。加奈子さん、いいお母さんになったわね。」

「うん。そうだね。」

「お前はいい嫁を娶ったよ。加奈子さんはいい嫁だ。」

「そうかな。」

「そうよ。」

「さぁ、座って!」

「おい、唯ちゃんにジュース!」

「はい。」

「お菓子もあるぞ。」

「食べていいの? ご飯前なのに……。」

「ご飯前は駄目か?」

「ママがね、お昼ご飯、食べられなくなったら駄目だからって。」

「そうか。」

「だから、お菓子とジュースは3時に頂戴。おじいちゃん。」

「そうか! 3時のおやつだな。」

「うん!」


孫に甘すぎる両親を見て、章一は結婚して良かったと改めて思った。


「加奈子さん、あちらのおじい様の新盆だったのね。」

「うん。」

「私、忘れてたわ。申し訳なかったわ。何も送ってないのよ。」

「いいんじゃないの? 後からでも……。」

「そうだぞ。明日にでも送ったらどうだ?」

「そうね。じゃあ、明日は出掛けて送るわ。」

「俺は、ゆっくりしていいかな? 唯と……。」

「いいわよ。これは私達からお送る物だから。」

「お前も忙しかったんだろうから……

 この家に戻った時くらいはゆっくりしなさい。」

「ありがとう。」


二泊三日の実家で章一は唯と両親と楽しい時間を過ごした。

これから先、加奈子が章一の実家を訪れることはなかった。

この春、唯の小学校入学前の二日間が最後になったのだ。

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