嫁いびり
厚子の夫は次男だった。
次男だったが、長男が家出をして行方不明のままだったので実質は長男だった。
厚子とは職場で出逢った4歳年上の男性だ。
名前は誠。
その名前は厚子への態度からはかけ離れている名前だ。
付き合っている時は分からなかった。
それを実感したのは結婚して間もなくだった。
結婚生活は厚子の時代では少なくなっていた姑との同居でのスタートだった。
新婚旅行から帰って来た日から姑の嫁いびりが始まったのだ。
食事を作って三人で夕食の食卓を囲んで食べ始めて直ぐに姑が席を立ち自室へ入った。
厚子は⦅何か気に入らないことをしてしまったのかしら?⦆と不安に駆られて、夫に聞く。
「私、何かしてしまったのかな?」
「何が?」
「お義母さん、あまり食べられなかったから……。」
「食べたんじゃない?」
「でも………。」
「あのなぁ……俺は疲れて帰って来たんだぞ。
ご飯くらい美味しく食べさせてくれ!」
「でも……気になるの。ねぇ、聞いて来てくれない?」
「それは! 俺は関係ないよね!
お前と母さんの間のことだろ。俺は関係ない!」
「……え?」
「お前が解決しろよ。お前と母さんとの間に事なんだから!
俺を頼るなよ!」
それ以来、夫は「俺は関係ない。」を繰り返した。
そして、「文句があるなら俺より稼いで来いよ!」と言うようになったのだ。
夫に姑との間に全く入って貰えなかった厚子は孤立していった。
家なのに居場所が無かった。
泣くことさえ憚られた。
実家に電話を架けられず、公衆電話から実家に電話を架けた。
それも、買い物に出た時にしか架けられなかった。
買い物は姑からお金をもらって、姑が言う物を買いに行っていた。
「人参買って来て頂戴。はい、200円。」と100円玉2枚を渡されるのだ。
姑が風邪で寝込んだ時のことだった。
朝から洗濯をしながら掃除をしていた。
そして、台所ではお粥の準備をしていたのだ。
そんな時に姑が怒鳴ったのだ。
「貴女ね! 年寄りを殺す気なの?」
「えっ? そんな……殺すとか……。」
「年寄りでも食べないと風邪も治らないわ!
いつになったら、食べさせてくれるのよ!
お粥すら作れないの!
食べさせないで殺したいのよね!」
「そんな……そんなこと思ったこともありません。」
「お粥を出さないくせに!」
「今、作っています。」
「早く持って来なさいよ!」
そう言って姑は自室に入っていった。
厚子の心臓は激しく鼓動を打った。
⦅どうしよう……またお義母さんを怒らせて……どうしよう。⦆と恐怖が押し寄せて来たのだ。
何かにつけて姑に叱責された厚子。
姑の叱責は必ず誠が居ない時だった。
息子が居ない時に嫁を激しく叱るのが姑だった。
姑の叱責は必ず「私を殺す気かっ!」という言葉を投げかけられた。
その言葉が厚子を苦しめた。
厚子はそんな状態でも姑の死を望むことがなかったからだった。
厚子は両親から「人の死を望むことは最低だ。」と教えられて育ったからだった。
姑の嫁いびりは亡くなるまで続いた。
介護をしている時も厚子は姑の死を望んだことは一度もなかった。
そんな厚子を苦しめ続けたのは姑だけではなかった。
夫の誠も、そして小姑達も厚子を苦しめた。




