兄・悠生の想い
紫陽花の花を濡らし続けた雨が上がって2日目。
外に干して乾かしている洗濯物を取り込む時、優菜一人では困難だと思い、悠生は家路を急いだ。
家に帰るまでに「いつもの悠生」に戻らねばならないと思っている。
優菜に気付かれたくなかったのだ。
優菜の気持ちを無視して、自分の気持ちと優菜の気持ちを同じだとして母を拒絶した。
それが重く圧し掛かる。
⦅もしかしたら優菜は母に会いたかったのではないか……母とまた一緒に暮らしたかったのではないか……。⦆そう思うと苦しくて苦しくて堪らなくなった。
⦅どうしよう……優菜に……話した方がいいのかな?
優菜に何も聞かずに勝手に……これって、【あいつ】と同じじゃないかっ!⦆
その日はいつも通りが難しかった。
何かを察した継母が「辛いことがあったら、私では役に立たないと思うけど……。話したら楽になるかもしれないからね。話したくなったら、何時でも話してね。でも、話さないといけないんじゃないわよ。そういう気持ちになった時に話してね。」と言ってくれた。
悠生は「はい。」としか答えられなかった。
寝る時間に自分の部屋へ入って、なかなか眠れない時間を過ごしていた。
その時、部屋をノックされた。
「悠生、起きているか?」
「パパ……。」
ドアを開けると父が心配そうな顔で立っていた。
「悠生、部屋で話そうか?」
「……うん。」
父が部屋に入って直ぐに涙が止まらなくなった。
「悠生……何かあった?」
「……会いに来てた。」
「誰が?」
「学校から帰ってきたら、家の前に居たんだ。」
「まさか………。」
「僕達を捨てたのに……男の子を連れて来てた。」
「子どもを連れて来たのか……悠生、済まなかった。」
「パパ?」
「パパが居れば、悠生に……こんなこと……
会う時は悠生の気持ちを聞いてからと頼んでいたのに……。
こんな急なこと……本当に済まなかった。」
「パパ! パパは悪くない!
あいつが悪いんだ。」
「あいつ……?」
「あいつ……僕に紹介した弟……。
遊んであげて!って……無理だよ。
優菜が置いて行かれた時と同じくらいの子なんだ。
優菜の……優菜の泣き声が聞こえてくるんだ。」
悠生の涙は止まらなかった。
章一はもう抱きしめることが無くなった年齢になった息子を抱きしめた。
「悠生は、どうしたい?」
「もう二度と再び会いに来るな!って言ったんだ。
僕は会いたくない。会いたくないんだ。」
「うん。分かった。」
「でも、優菜は……優菜の気持ちは分かんない。
分かんないのに……僕らの前に……って言った。」
「そうか……。」
「優菜に……悪いことしたんだ。僕……。」
「悠生は優しいお兄さんだな。
優菜の気持ちを慮ってくれて、ありがとうな。
でも、自分を責めちゃ駄目だぞ。
悠生は悪くないんだ。何にも悪くない。
優菜にはパパからゆっくり優しく話すから……
悠生は安心して!
眠れないかもしれないけど、休んで欲しい。」
「うん。………パパ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
翌火曜日、父と継母が優菜に話す前に実母がやって来た。




