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あとの祭り  作者: yukko
悠生の場合
23/122

母の失踪

夏の厳しい日差しとセミの鳴き声。

その中を小学3年生の悠生と幼稚園年長の妹・優菜は、大人の足で歩いて15分ほどの所にあるスーパーへ向かった。

悠生が優菜の手を引いて走った。

途中で優菜は転んでしまった。

激しく泣く優菜を目の前にして、悠生は「痛いの痛いの飛んでけぇ~。」を繰り返した。

悠生の「痛いの痛いの飛んでけぇ~。」を聞いた優菜は母を思い出してしまい、より一層泣いたのだった。

悠生は泣きたくなった。


「優菜ぁ……泣かないで。

 泣いたらスーパーに行けなくなるよ。

 ママに会えなくなるよ。」

「ママぁ~~っ。うわぁ~~~ん。」


擦りむいた陽菜の膝を見ると血が出ていた。

血が出ていても悠生には何も出来なかった。

泣いている陽菜を背負って、悠生はスーパーへ向かった。

陽菜が重たかったことを今も覚えている。

スーパーに着くと陽菜は何とか泣き止んだ。

「ママが居る。」「ママに会える。」が陽菜の涙を止めたのだ。

二人で手を繋いでスーパーの中を歩いた。

歩いても歩いても母の姿はなかった。

母を見つけられなくて、陽菜は泣き出した。

そんな幼い兄妹を見かねた人が声を掛けてくれた。


「どうしたの?」

「ママを探してるの。」

「ママぁ~~っ。うわぁ~~~ん。」

「優菜、泣かないで。ママに会えるからね。」

「迷子なのかな?」

「迷子じゃないよ。」

「迷子じゃないの?」

「ママ、家に居なかったから、来たんだよ。」

「ママが家に居なかったの?

 どうしよう……兎に角、スーパーの人に話してから……。

 うん。それがいい!」


悠生と優菜をスーパーの店員に委ねてくれたのは、二人にとって祖母と同じいくらいの年齢の女性だった。

そう悠生は記憶している。

その人のお陰で、スーパーの店員から店長に二人は引き渡された。

悠生は泣いてばかりの妹を宥めながら、不安と心細さでいっぱいだった。

それから、どうなったのか覚えていない。

家にはスーパーの店員さんが送ってくれた。

今考えると、悠生は家の電話番号を覚えていなかったように思う。

そして、家の鍵が開いていることに驚いた店員さんは、子ども達だけで家に入ることをさせなかった。

先に入って不審者がいないかどうかを確認してから悠生と優菜に「お家に入ってもいいよ。」と言ったのだ。

そして、「お家を出る時は必ず鍵を掛けてね。お約束してください。」と小指を出した。

悠生は指切りをした。

店員さんと優菜と声を合わせて「指切りげんまん。嘘付いたら……。」と歌ったことも覚えている。

それからは、お腹が空いて空いて堪らなかった。

優菜と二人で食パンを食べた。

母を待っても、待っても帰って来なかった。

優菜は泣きながら床の上で寝てしまった。

悠生も眠くなって寝てしまった。


父の声で起こされるまで何時間経っていたのか分からない。


「悠生、優菜。

 なんでこ、こんな所で寝ているんだ?

 ママは? ママはどこに居るんだ?」

「パパぁ~~っ! うわぁ~~~ん。」

「パパぁ~~っ! ママ……ママ……居ないの? 今も居ないの?」


父は何か異変があったことに気付いた。


「ママ、居ないのか?」

「うん。起きたら居なかった。」

「シューパー…しゃがしにいって…ママ、居なかったぁ~~っ。

 うわぁ~~ん。」

「あのね、ママを探しにスーパーに行ったの。

 スーパーにママ、居なかった。」

「居なくなった……のか……。

 悠生、優菜、ご飯食べたか?」

「お腹、空いて……食パン食べた。」

「朝から食パンだけ?」

「うん。」


父は妻が子どもを捨てて居なくなったのか、それとも何か事件か事故に巻き込まれたのか分からなかった。

兎に角、子ども二人に食事を摂らせることのみが最優先だと思った……と父から聞いたのは大きくなってからだった。

食事を終えて、父が沸かしてくれた風呂に入って……その間、父は警察に捜索して欲しいと電話をしていたそうだ。

その夜は、父を真ん中にして悠生と優菜は布団に入った。

父が寝付くまで抱きしめてくれていたことを今も悠生は覚えている。


警察は成人の失踪を積極的に探してはくれない。

自ら出て行ったと判断するそうだ。

見つかっても帰って来るかどうかは本人次第。

本人が帰宅を拒否すれば帰っては来ないのだ。

母は帰って来なかった。

今まで4人いた家に、その日以降は3人で暮らしたのだ。

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