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あとの祭り  作者: yukko
章一の場合
2/122

発覚

夏の汗ばむ日。

河川敷の夏祭りで花火が上がっていた。

唯も加奈子も浴衣を着ていた。

その姿が可愛くて、章一は写真を何枚も撮った。


「パパぁ~、金魚すくいする。」

「じゃあ、パパと競争ね。」

「えぇ~~っ! パパ勝っちゃうぞ。」

「負けないも~~ん。」

「じゃあ、パパと唯で勝負ね。

 はい、スタート!」


金魚すくいの後は色々食べた。

⦅あの日が最後の楽しい家族での外出だった。⦆と章一は思った。

りんご飴を頬張る唯の可愛い姿を見ていた時だった。

彼が目の前に現れたのだ。

⦅好きだったのだ。愛していた彼だった。結婚するから別れた彼だった。⦆

章一も元恋人も視線はお互いだけになっていた。

他が全く見えなくなっていたのだ。



加奈子が何かを感じるほどの視線を知らぬ間に、二人の男性が交わしていたのだった。

加奈子は唯を出産してから、全く無くなった夫婦の夜の時間を考えていた頃だった。

⦅何がいけないのかしら?

 女の私から……誘えない……。

 私のこと嫌いになったのかしら?

 ……他に好きな人……居るのかしら?

 どうすれば……どうすれば……あの人の愛を取り戻せるの?⦆

加奈子は苦しい時間を過ごしていたのだった。

そんな頃に目の前で夫が男性と視線を交わしていて……それは熱い視線に感じられたのだった。

絡み合った視線が、どのくらいの時間、絡み合っていたのか分からないくらい周囲の音が聞こえなくなっていた三人だった。

章一も、加奈子も、章一の元恋人も……。

花火の音も何もかも…聞こえていたのは唯だけだったのだ。



絡み合った視線が離れるきっかけは、唯の「パパ、ママ、花火綺麗ね。」だった。

我に返った章一は視線を唯に向けて、「綺麗だね。」とだけ言った。

加奈子も「綺麗ね。」とだけ言った。

章一の元恋人は加奈子が視線を向けた時には、もう居なかった。

章一は二度と元恋人が居た方に視線を向けなかった。

その時である。加奈子の心に疑惑が芽生えた瞬間は………。


帰宅後、唯を寝かしつけた後、加奈子は勇気を振り絞って聞いたのだ。

先のことなど全く考えずに、聞くこと……それが正しいのか判断も何も出来なかった。

それでも、聞くしか道が無かったのだ。


「唯、寝るの早かったね。遊び疲れたんだろうなぁ……。」

「そうね………パパ。」

「うん?」

「知りたいことがあるの。」

「何?」

「私のこと……嫌いなの?」

「えっ? どうして?」

「だって、唯を産んでから……無くなったから……その……。

 あの……パパ、一人で寝るでしょう。

 だから……私のこと嫌いなの?」

「あ………ママ、嫌いになんかなってないよ。」

「でも、パパは指一本、私に触れないじゃないの!

 他に好きな人が居るんでしょ。

 そうでなければ……こんな夫婦居ないわ……。」


泣き出した加奈子を目の前にして章一は辛かった。


⦅加奈子のことは嫌いではない。

 ただ、加奈子と夜の時間を持つのは苦痛なのだ。⦆


どうしても一人は子どもを!と両家の親に望まれて、章一は苦痛の時間だった夜を幾度も過ごしたのだった。

苦痛だったと言えるはずがない章一は返事に困った。

返事がない章一を見て、加奈子は⦅返事が無いのは、嫌いなんだ。⦆と思ったのだ。


「今、好きな人……居るの?」

「………………。ママ……。」

「……パパ……。」

「……何?」

「お祭りで会った人……男の人……パパの知り合い?」

「!………おまつり?」

「パパと……あの男の人……見つめ合ってた……。

 あんな視線……私はパパから貰ったことない。……ないわ。一度も……。」

「……ママ……。」

「パパ、もしかしたら……男の人……好きなの?

 あの男の人……付き合ってるの?」

「付き合ってないよ! 今は!」

「いま…は?」⦅しまった。⦆

「ママ……俺は……ママが好きだよ。大切だよ。」

「その好きと……あの人に向ける想いは違うのよね。」

「ママ……。」

「あの人のこと好きなの? はっきりしてよ! パパの責任でしょう。」

「責任……。」

「そうよ。パパの人生、私の人生、それから唯の人生。

 全て関係あるの。関係あるのよ。だから、話して!」

「………ママ………俺は……俺は……。

 ごめん………。でも、結婚してからは誰とも付き合ってない。

 それだけは信じて!」

「……ごめん…って、ホモだと言うことね。」

「ママ……。」

「……もう……これから……先も……ずっと……私は……

 私は章ちゃんから求められないのね。」

「……加奈子……家族として……家族として愛してる。

 人としても愛してる。」

「でも! 求められないわ。触れ合えないわ。

 そんなの愛されてないのと同じよ!」

「加奈子……。」


加奈子が声を殺して泣き続けるのを、章一は何も出来ないままだった。

蒸し暑い夏の日、結婚して10年目のことだった。

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