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あとの祭り  作者: yukko
唯の場合
19/122

父と娘

黄色に色付いた街路樹の下を行き交う人々。

その人々の流れの中から隼人の姿を清香は見つけた。

清香は隼人の答えが怖かった。

唯にとって残酷な答えを言うかもしれないからだった。

店に入って来た隼人を見た清香は立ち上がって隼人に向かって手を挙げた。

清香の姿を認めた隼人は笑顔を見せて清香の隣の席に座った。


「向井さん、久し振り。」

「お久し振りです。……あの……今日は、ありがとうございます。」

「いいえ。……清からのメッセージで概ね分かったよ。

 それで、俺ならどう思うかを考えながら来たんだけどね。

 分からないよ。分かるのはショックだということだけ……。

 でも、俺なら、それが理由で離婚はしないよ。

 ただ、どう妻の父親と接したらいいか分からないなぁ……。

 父親の相手とも、ね。

 だから、分からないんだ。本当に……。

 石原君も分からないんじゃないかな?

 身近で同じような人が居たら違うかもしれないけれど……。

 今は少数派だよね。同性愛の人って……。

 会社にも居るんだろうけど、口外してる人が居ないからなぁ…。

 話すつもりなの? 石原君に……。」

「出来ないと思います。」

「そっか……。」

「隼人、石原さんじゃないわ。向井さんになったのよ。」

「そだった。ゴメン。」

「いいです。気にしないで下さい。どっちも大輔だって分かるから……。」

「ありがとう。……俺、思うんだけど……バレないんじゃないかな?」

「バレない……。」

「うん。一緒に住んでいるわけじゃないし、ね。

 話す必要、無いかもしれないけど……バレるのが怖い、は続くよね。」

「はい。」

「それが、厄介だよなぁ。

 そんな恐怖を抱えたまま、ずっと夫婦で居ないといけないんだからなぁ……。

 あのさ、お父さんに話したら?

 向井さんの気持ちをぶつけていい相手はお父さんだよ。

 それで、ちょっとは楽になるかもしれないよ。」

「そうよ。お父さんに話して!

 どんな言葉も受け取る義務があると思うわ。お父さんにはね。」

「いい子で居なくていいんだよ。」

「そうよ。いい子で居続けるのは大変よ。無理しないでね。」

「………はい。……ありがとうございます。」


唯と別れた清香と隼人は、唯の思いつめた顔が忘れられなかった。


「ねぇ、隼人。」

「何?」

「あそこで聞いて良かったのかしら?」

「あそこ?……って、店で聞いても、ってこと?」

「うん。あんな話だったら、うちに来て貰った方が良かったんじゃないかな?」

「そうだなぁ……でも、それは今更だしな。」

「そうね。」

「……スッキリしないいだろうけど……な。」

「バレたら、って……ずっと続くのは辛いなぁ……。」

「それは向井さんのお父さんも同じだったんじゃないかな?」

「……そうね。」

「離婚してホッとしたかもなぁ……。」

「お父さんはホッとして楽になったんだろうけど、お母さんは違うわよ。」

「そうだな。」

「唯ちゃんが楽になれたらいいのに……。」

「そうだな。」


二人は何とか良い方向へいって欲しいと切望した。



唯は紅葉した街路樹の下を歩きながら、父にメッセージを送っていた。

「今日、会いたい。」と……。

幼い頃から父の返信は早かった。

だが、あのカミングアウトからは前よりも遅くなったように唯は感じていた。

もしかしたら同じだったかもしれないが、唯にとっては「父親が楽になりたいがためのカミングアウト」だとも感じていたのだ。

だから、メッセージの返信さえ前とは違う感覚になっていた。

父からの返信は「遅くなるけれども、それでも良ければ……。大輔君も一緒かな?」だった。

一人だと返信して、待ち合わせの場所を送信した。

そして、唯はその店に向かった。

大輔に「パパに会ってくるから、ゴメンね。」とメッセージを送った。


「今日は多忙なんだなぁ……何かあったのか?」

「ううん。何もないよ。

 ただ、先輩がご懐妊で!」

「えっ! ご懐妊!」

「うん。それでお祝いしたの。」

「そうなんだ。……負けたな……。

 赤ちゃん、いつか来てくれたらいいなぁ……。」

「そうね。

 ……あのね、パパに会いたくなったから会いに行くだけよ。」

「分かった。気を付けて帰ってきなよ。それからお父さんによろしく!」

「はい! 了解!」


「了解」というメッセージを明るく可愛いスタンプで送った。

大輔が同僚の結婚式に参列している日だから、唯は出歩けた。

待ち合わせの店は和食のお店で、大学生になってから父との待ち合わせ場所にしている店だ。

唯は父が来るより、ずっと早く店に着いた。

直前だったが、父が予約してくれていた。

繁華街にある店ではなく、オフィス街ある店なので休日は空いているし、夕食時間より早い時間だったので、席は確保出来た。

通された席は店の一番奥の座敷だった。


「後から父が来ますので、食事は父が来てからで……。」

「はい。承知致しました。

 どうぞ、ごゆっくり……。」

「ありがとうございます。」


父が来るのを待ちながら、唯は心を落ち着かせることだけを考えていた。

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