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あとの祭り  作者: yukko
清香の場合
18/122

父親

赤や黄色に色づいた木々の葉を望むことが出来る場所に、父は眠っている。

墓所の近くの木々は美しい紅葉を見せてくれている。

清香は隼人と手を繋ぎながら、父の眠っている場所へ歩いている。


「安西家のお墓なの。」

「安西家代々のお墓?」

「そうみたい。」

「由緒正しいんだな。」

「潰れた本屋の店主が?」

「いやいや、経営者様だ。俺はしがない宮仕え。」

「宮仕えの方がいいわ。なんか楽……。」

「そっか……そうだな。」

「ここ。」

「お義父さん……覚えて頂けていないでしょうけど……

 清香と結婚した隼人です。

 今日はご報告に参りました。」

「ちょ……ちょっと隼人。声が大きい。」

「いいじゃん。誰も居ないことだし……なっ!」

「もぉ………。」

「えぇ―――っとぉ……隼人です。

 俺は…もとい、僕は父親になれるそうです。

 今、清香のお腹の中に俺たち夫婦の赤ちゃんがいます。

 出来たんです!

 お義父さん、おじいちゃんですよ。

 どうか、俺たち家族三人も見守って下さい。

 お願いします。」

「お父さん、無事に生まれて来てくれるよう……見守って。

 生まれて来てくれたら家族三人で会いに来ます。」


父への報告が終わり、紅葉の景色を眺めながら帰路に就いた。

車に乗ってバッグの中のスマホを見た時に通知があった。


⦅唯ちゃん? 何かなぁ?⦆


読み始めると⦅会った方がいいかもしれない。⦆と清香は思った。

唯が何かに悩んでいる。

他にも友人が居るはずなのに、会社のたった1歳上だけの先輩に悩みを打ち明けるのは勇気が要るはずである。

⦅それなのに、何故?⦆と清香は思った。

唯と会う約束をした。


「唯ちゃん、私は話を聞くくらいしかできないけれど……。

 可能なら、今から会わない?」

「はい。お願いします。」

「ご主人には?」

「先輩に会うって話します。」

「分かった。じゃあ……。」


時間と場所を指定して、清香はそこへ向かった。

車の中で隼人は「清、俺が同席するのは?」と心配して聞いた。

清香は「大丈夫よ。」とだけ答えた。


待ち合わせの場所に唯は早く着いていた。

唯は俯いていた。


「唯ちゃん!」

「先輩……ありがとうございます。

 休日なのに……。」

「気にしないで。

 それから、実は主人と出掛けてたから……

 この近くのスタバで待ってくれてるのよ。」

「済みません。」

「一応、話の内容によっては主人に聞きたくなるかもしれないし…。

 所謂、男の気持ち?」

「……ありがとうございます。」

「どうしたの?」

「……父のことなんです。」

「離婚した後も唯ちゃんを大切にして下さったお父様よね。」

「はい。…………父の離婚………は………。

 父が同性愛者だと分かったからなんです。」

「え?」

「私が両親から父のことを聞いたのは大学生でした。

 ショックだったのに、私、ショックじゃない振りしたんです。

 感じていた。って父に言ったんです。

 なんとなく、本当になんとなく父は女性に関心がないかも……と……

 感じてはいました。

 父と映画を見た時に女優さんが奇麗だと私が言っても……『そうか?』も

 言わない……『俺は……。』と別の女優さんの名前も出てこない。

 それなのに……男優さんについては違ってました。

 そういう些細なことを思い出したんです。」

「……そう。」

「美容院で週刊誌かなんかを読んだことがあって、その中に……

 父親がゲイで、子どもが二人で、離婚して……子どもが父親を理解してる。

 そう書かれてて……それを読んだ時に、パパも、もしかしたら?って……。

 その後でパパとママが話して……

 私、あの週刊誌の子どもみたく……理解しないといけないと思って……

 でも、理解は難しくて……。」

「その気持ち、お母さんにも話せてないの?」

「はい。一番の被害者は母ですから……。」

「このこと、第三者に話したことは?」

「ありません。……今日、初めて……話しました。」

「苦しかったよね。誰かに話して楽になりたかったよね。」

「……はい。済みません。先輩。

 先輩しか思い出せなかった……。」

「いいよ。私に話してくれてありがとう。

 ……ご主人様は? 石原さん……違う。向井さんだった。ごめんね。」

「いいえ。」

「向井さんは知らないの?」

「はい。話せてません。

 知られるのが怖いんです。

 知られたら離婚……されてしまうかもしれないです。」

「そんなことは…。」

「あります! 偏見、ないですか?

 娘の私でも……パパの相手には会いたくない!」

「お相手がいらっしゃるの?」

「はい。同棲してる若い男の人が居ます。

 母は一人なのに……不公平です。

 母を利用して結婚して子を儲けて……離婚して……

 自分が先に同棲する? 勝手すぎる!

 父には父の人生だって頭では分かってるのに……

 身勝手だって思ってしまうんです。

 それに、離婚してから……今の人が初めてじゃないかもしれないって…

 思ってしまうんです。

 もう何人とも付き合って、今の人とは同棲したから話したのかも……

 そう思ってしまう自分が嫌い……。」

「……思ってもいいよ。」

「……先輩?」

「思ってもいいの! だって傷ついたんですもの。

 親の行動で……いいのよ。暴言吐いたわけじゃなし。

 自分を嫌いにならないで!」

「……うっ……う……。」

「その週刊誌の記事、子どもが取材を受けた記事?」

「……確か……父親……。」

「じゃあ、今の唯ちゃんのお父さんの立場ね。

 子どもの気持ちを知らないで話してた、って可能性もアリでしょ。」

「……そうですね。」

「唯ちゃんのお父さんも娘の気持ちを知らないんだから……。」

「そうです……ね。」

「バージンロード……嫌だった?」

「それは、母とも歩きましたから……。」

「お父さんとは歩きたくなかった?」

「分からないんです。分からない……嫌いじゃないのに……。

 モヤモヤしたままなんです。」

「そっか……それを、そのままお父さんに話そうよ。

 出来たら…ね。出来なくてもいいし……。

 でも、知って貰う方がいいじゃないかな?」

「そうですね。」

「出来なくてもいいんだからね。」

「はい。」

「向井さん、知らないのよね。」

「それが一番怖いんです。

 ……私、妊娠したかもしれなくて……。」

「えっ? そうなの?」

「まだ病院へは行ってません。

 だから、間違いかもしれないんですけど……。」

「先ず、病院へ行こう。

 そして、それから考えようね。」

「先輩、妻の父親がゲイだって分かったら、夫はどう思うんでしょう?」

「うぅ~~ん。それは向井さんでないと分からないんじゃ……

 まぁ、一応、聞いてみる? 隼人に……。」

「お願いします。」

「隼人だったら、であって、向井さんは違う反応だよ。

 それでもいいの?」

「はい。」

「公言はさせませんから、その点は安心してね。」

「はい。」

「じゃあ、ちょっと待ってて。」


清香は隼人にメッセージをして来て貰った。

店に向かいながら妻のメッセージを読んで隼人は思った。


⦅親子って難しいんだな……。

 俺は【いい父親】になれるのだろうか?

 清のお父さん、守りたかった家族を守れなかったんだよな。

 元は大量に持ち去ってしまう万引きのせいで、サラ金から借金した。

 書店を維持するため、家族を養うためだったのに……。

 ってか! 万引きかぁ? 窃盗だろう!

 大量にって転売するために盗んだのかぁ!

 悪いのはそいつらだろう!

 サラ金さえ……サラ金に借りなければ……って、【あとの祭り】だよな。

 清のお父さんは理解しやすいけれど……ゲイか……。⦆

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