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蓮次の学び舎

和都歴1124年 12月1日 午後3時


住宅街の外れにある送電線の鉄塔前に停めた車に寄りかかり、私はその閑静な風景を眺めていた。

私は彼と幸せを感じていた時、将来を考えたこともあった。

こういう住宅街に住み、彼を送り迎えする妻。

別にそれ以上を望まないし、それ以下でも我慢できなかった。

幸せとはそういったバランスが安定して続く未来を描けている状況なのだと、今なら分かるのだが。

彼を失って、それはもう元には戻らないだろう。

恐らく、彼は私の親友だった女と一緒になったのだ。

バスが隣を通過すると、私はその音でハッと我に返る。


バスの行き先はこう書いてあった。

❝祖柄樫山ロープウエイ❞

山頂に行くロープウエイ行らしい。

私も車に乗って、ロープウエイに乗り、山頂駅へ着くとそこはほぼ山頂だった。

何やらカップルが像に手を合わせて上に登っていく。

この山には山照という女神が降り、男を極楽浄土という理想郷へ誘うのだとか。

相手がいる男は山照にその女性と手を合わせることで、2人で理想郷へ行けることから、転じて2人の幸せが叶うとされるようになったという。

像の後ろを回ってロープウエイ駅の駅員用の裏口脇に石碑が見えた。

私は急いで近寄った。


>私の両親は貧しかった。母親も遂に父親に売られ、次は私だろう。

来月からの食料に尽きた父親は、ガラの悪い男に❝(その)は3年保証なら❞とか言っている。

そんな時、鈴谷村に置田蓮次という男が村の発展と統治を目的に都から来たらしい。

数週間して、置田蓮次がこちらにも発展と統治の目的で来ることが分かった。

置田蓮次は、鈴谷村では置田蓮麻呂の子孫として名声を馳せていた。

こちらを置田村として開発、発展させるつもりらしいことも聞いた。

とうとう、明日には置田蓮次がこの家の周辺にも来るという時、父親が明日来る男に付いていくように言われた。

明朝、男が来た。父親と私は玄関に行くと先日父親と話していた男が嫌らしい目つきで私を見ていた。

その隣にはハンサムな紳士的な雰囲気な優男もいた。

その優男と目が合った時、優男は私に瞠目した。

「この女をお前が買うのか?」

優男が男に問う。

「ええ、置田さんにも回しますから、俺もいい立場にお願いしますよ。」

男がまた一層、嫌らしく笑う。

私はこの男が置田蓮次と分かった時、目で訴えた。


ー・・・


一瞬だった。


置田蓮次は、男も父親も殺していた。


「お前、どうせ売られるなら俺の女になれ。お前、俺のタイプだ。」

断る理由はなかった。

家の死体は盗賊が強襲後、火を放ったとして蓮次が揉み消した。


「この辺に二人になれる場所ないのか?」


山頂の小屋を提案した。元々は神と交信する場らしいが、ほぼ人は来ない。

すると、蓮次は毎日小屋まできて、私を抱いた。妻がいることも後で知らされた。


「黙っていれば、お前をこのまま乙名にしてやる。お前、俺の中で最高の女だよ。藤香が死んだら直ぐに妻にしてやるからさ。」


そういって、いつになるか分からないその言葉を、どこか信じていた。

騙されていても、私はもう乙名になれる。その先のことを明確に考えた。

この蓮次という詐欺師が居なくなった後のことを。




ー結局、蓮次という男は、彼女を、妻を、女性を愛す事が出来なかったという事なのだろうか?

私の彼は違う、私を愛してくれていたはず。それすらも計画の一部であったというのだろうか?

今も彼は私の親友を愛し、抱いているのだろうか?

それともその親友すらも捨ててしまったのだろうか?

私も、彼が居なくなった後のことを明確に見据えて生きていく必要がある。

少なくとも、この石碑ではそう道標を示してくれた。私はそんな気がしたのだ。

次回2025/2/26(水) 18:00~「旅館・泡沫」を配信予定です。

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― 新着の感想 ―
蓮次はやっぱり悪い男でしたね。勝手にいい人だと思っていました。絹駒さんは最後に一人旅をして道標がなんとなくイメージできてよかったですね。
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