赤島売春宿
和都歴1124年 12月1日 午後2時
牧場脇の森の中、石碑での体験を終え、ガソリンスタンドへ戻ってきた私は、車の前で寄りかかり、一呼吸する。
牧場の厩舎に再び目を運ぶと、鬱蒼とした森が風に靡く。
木々が纏う葉1つ1つが、小さな音を立てる。
葉が1つ、、木から風に乗って離れ、飛んでいく。
彼は、彼もあの葉のようだった。
ずっと枯れるまで同じ場所に居ると言っていた。
いや、そう信じていたと言うべきだろうか?
結局、人の心はわからない。人の心は変えられない。
違う葉が、私の顔に当たり、ハッと我に返る。
❝日輪 いさ牧場❞の奥に標識がある。
来た道を戻る様に車で向かう。
❝神奈備住宅地・赤島平へようこそ この先8km❞
ここからは少し遠いが、時間は捨てるほどある。
私は躊躇うことなくアクセルを踏む。まるで誘われているかのように。
本置田を抜け、更に森を抜けると住宅街に着く。そこはそのまま住宅街だった。
住宅街の外れに送電線の鉄塔が立っており、一度車を停める。
鉄塔の周りには申し訳ない程度の柵があり、鉄塔の足元に石碑が見えた。
急いで車から降り、石碑へ向かう。
>俺はこの売春宿で成り上がった。
女を物として扱うこの祖柄樫山で、一番元手もかからない。
伊良皆という女と立ち上げたが、彼女も同性の女を家畜の様に扱った。
最初は普通に特技も何もない女の受け皿としての商売だった。
いつしかこの祖柄樫山で1、2争う売春宿になった。
伊良皆は独立して鈴谷村で商売すると言い出した。
思い出にと、一晩一緒に過ごし、引き留めたが、朝にはいなくなっていた。
すれ違うように翌朝、野崎さんに出会った。
神の教えとその儀式に必要な女の飼育、調教を頼まれた。
金は言い値で貰えると聞いた。
本当に1000枚持ってきたとき、もうお金以上の魅力を野崎さんに持ったのだ。
神兵の儀式を女に教え、生贄の儀式も教え、女の役割を教えていった。
鈴谷村が、置田蓮次という男に平定され、しばらくすると、こちらの村にも顔を出すようになった。
置田、置田蓮麻呂。野崎さんから聞いた、祖柄樫山の最初の神兵。英雄の置田姓、その子孫だろうと憶測する。
野崎さんが来て置田蓮次が毎日くる話をされた。
それでも何でも提供すれば、俺たちの村を与えてくれると。
何でも与えた。
忘れもしない、売り物じゃない女を探し出し、気に入ってくれた時。
❝赤島、いい!こういう女だ!お前、乙名にしてやるよ❞
そういって嫌がる女を部屋に引きずっていった。
俺はもう乙名だ。文句あるまい。
赤島、平…こんな男の名前の土地に住む気にはならない。
そして置田蓮次、英雄と言われ、恐らく最後まで称えられた男。
その英雄の側近として、英雄に選ばれた乙名として、村を蹂躙していた男たち。
でも、私も親友を男に売った。
私は初恋の男をその親友に取られたことを彼に聞かされた。
彼に少し意地悪するように言った。仕返しにはならないけれど。
彼はどんな意地悪をしたのか。
親友にはいつも以上に笑顔が絶えない。
数多な言葉で傷つけるべきだった。そう、そこから彼は私の元から消え始めたのだ。
私の答えは決まり始めた。石碑よ、祖柄樫の住人よ、私に数多の言葉で導いてほしい。
次回2025/2/10(月) 18:00~「蓮次の学び舎」を配信予定です。