置田邸
和都歴1124年 12月1日 午後0時
12時に私はAMORのフードコートで軽く食事を済ませた。コーヒーをテイクアウトし、車へ戻る。
次に向かうのはこの村の中心地。正確には昔は中心地であった場所。
私と彼がかつて住んでいた場所も、この国の中心地だった。
時が経てば中心地で無くなるのだろうか。しかし、わたしが彼を愛したことに変わりはない。
いや、時が経っても、わたしは彼を愛し続けるだろう。
彼が私を想う気持ちは不変ではなかったかもしれないが、私は違う。
そう思いを馳せながら、私はコーヒーを一口飲みこんだ。
一息入れて、私はまた車を本置田へ走らせる。
すると、また気になる標識が目に入る。
❝本置田建設工業 1.5km先❞
この山に鉱石を加工したりする工場があり、そこは本置田と言われた地の大部分を占めていた。
気になり、公道で入れるルートを走らせる。
工場の入り口近くに車を停めると、工場の案内標識やら、記念像があり、その脇に外来者用の駐車場がある。無論工場内には入れないだろうが、駐車場に留めるくらい良いだろう。
駐車場に車を停めると、正面に記念像が見え、その陰に石碑らしいものを見つけた。
私は、急ぎ、車を降りて石碑へ向かう。
❝置田邸 跡地❞
置田は確か、置田村の創設者の家系。そんな偉人の住処も今はこの有様だ。
恐らく村の一画の中でもは此処は栄えていたのだろうし、それなりの豪邸があったはず。
その生き残り、子孫がどうなっているのかは知らないが、この部骨頂な工場が今はこの一帯を支配していることを、祖先である彼らは見なくて良かったと、関係ない私が溜め息をつく。
そして石碑に近づくと、文面を読み始める。
>俺はようやく、俺自身の村を手に入れた。
昔、俺は都で藤香と紅蓮に出会った。
藤香とは最初に出会い、俺の野望に惚れたのか、直ぐに俺の女になった。
気が強いが、イイ女だった。気に入ったから、俺の妻としてしばらく手元に置くことにした。
2人には、村を創設する話を振った。共に村を創ろうと話は弾み、俺は都の管轄を離れた村・鈴谷村に、技術と経済を教えた。鈴谷も村の発展に喚起していた。
順調に村が発展すると、俺は谷川を挟んだ今の置田村にも目を付けた。
紅蓮にこの鈴谷村を任せ、置田村となる村の下見を繰り返した。
藤香には紅蓮の動向を抑えるよう伝えた。
その後、置田村で野崎と名乗る男に出会い、俺は彼を副官として迎え、事情を話す。
更に、翌月、美咲という女を仲間にした。こいつも田舎娘にしては綺麗だ。
神の降りる場所と小屋を教わった。
美咲とここで(ここは消されていて読めない)
しばらく鈴谷村には戻れない日も続いた。紅蓮の違和感を野崎に聞いた俺は、一度、鈴谷村へ戻る。
紅蓮が突然、反旗を翻したのだ。
俺に就く部下は救える限り、救った。無論、藤香を真っ先に。
八俣まで紅蓮の兵が攻め込み、俺は藤香とこの家で指揮を執っていた。
その時、蓮太が藤香に宿った。
俺の息子、蓮太。
置田の英雄は俺だ。
この祖柄樫山の神に認められた、置田蓮麻呂。
俺はその子孫。
俺の選ぶ女から、沢山の息子で支配する。それが俺の野望だったはずなのに…
まさか俺は、全てから利用されていただけだった。悪夢であってほしい、そう願うばかりだ。
何なのだ、この人物は。まさか置田村の創設者・置田蓮次なのだろうか?
英雄とされた彼は、その実、全く反する男だったのか。
もしかして、私の彼も?私の彼も、その実は…
いや、そんなワケがない。彼の優しさ、誠実さに偽りなど微塵も…
確かめなければ。私は次の石碑に向かう。
次回2025/1/15(水) 18:00~「料亭・伊佐」を配信予定です。