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その者、端役という。  作者: るー。
第一章
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勝手に異世界召喚されたけど、そちらのご都合主義には合わせません!2

「すまない。ただ、俺はこの世界の知識が余りにも無さ過ぎて」

 自己嫌悪しているのだろう、溜息と共に漏れる言葉にシエはただこくりと頷く。

「信じられないかも知れないが、俺は元々別の世界の人間で、この世界での生活やお金の使い方さえ知らなさ過ぎて、少しでも騙されないで知識を得る方法が欲しかったんだ」

「だったらもっと大人の奴隷を買った方が良かったんじゃないですか?」

 初めてシエから発された声に驚いた表情を見せた青年は、次にシエの言った内容に苦虫を嚙み潰したような表情を見せ、そして静かに首を横に振った。

「それは出来ない。それに…何となくお前がいいと思ったんだ」

「はぁ…」

 シエを選んだ事に対してだけは自信があるのか青年は顔を上げると、自分の選択を再確認するようにうんと小さく頷いた。

「俺はリンウっていうんだ。お前の名前は?」

「…シエ」

「シエは幾つなんだ?」

「さぁ?覚えてません」

「まだ俺の腰の高さまでも背が無いし、発音も舌っ足らずで…五歳くらいなのかな?」

「分かりません。主が言うなら五歳でいいです」

 生まれてから年を数える必要も無く生きてきたので、聞かれても答えられないのだから。好きにしてくれればいいと答えるシエに青年は何処か悲しげな表情を見せ、シエの頭に手を乗せた。

「この世界にはお前くらいの子どもでも奴隷として売り買いするのが当たり前なんだな」

「そうですね」

 この世界全部かどうかまでは知らないが、シエはあの奴隷商人に捕まって今ここにいるのは事実だ。

「俺は黒髪で目の色も黒い。この世界には色んな髪色の人間がいるけど同じ色の髪と目の色したお前を見ていると独りぼっちじゃないんだって安心するんだ」

 わしゃわしゃとシエの髪を撫でる青年の掌は大きくて暖かい。

「それは…どうも」

「俺の事はリンウと呼んでくれ。主と呼ばれるのは気恥ずかしい。奴隷紋を刻んでおいて言える事じゃ無いんだけど主従関係は慣れないんだ」

「主が望むなら。リンウ様」

 そうシエが答えると、リンウは少し口元を歪めて失笑した。

「…そうだな。本当は輪廻の輪に宇宙の宇と書いて輪宇って言うんだけど…漢字が無いこの世界では意味が無くなってしまったなぁ」

 寂しそうに呟くリンウの頭に手を置き、シエはわしゃわしゃとその髪を撫でた。

 驚いて目を見開くリンウにシエは首を傾げる。

「リンウ様も撫でて欲しかったんじゃないですか?」

「…」

 リンウの瞳が更に大きく開かれるとゆっくりと潤み始め、目尻に涙が溜まり、今にも頬を伝いそうな位溜まっていた。

「…リンウでいい。『様』はいらない…」

「そうですか。リンウ」

 シエに撫でられながらリンウは俯いて、歯を食い締まり、小さく呻き声を零していた。

 周囲には動物の鳴き声も無く、風に揺れる木々の葉擦れの音だけが響いた。

 静かな森の中に小さく零れる嗚咽だけがシエの耳に届く。

 彼は己の境遇を何処か自分に投影しているんだろうか、と感じさせた。

 同じ瞳の色に、同じ髪の色。

 肌の色も骨格も何処かシエのよく見る大人とは違っていて、恐らくはこの辺に暮らす種族では無さそうだから、己によく似た者に拠り所を求めているようだった。

 撫でながらシエは耳を澄ます。

 青年の髪を撫でながら、彼の身に着けている物を確認する。

 着の身着のままという程簡素で、その恰好はとても森で過ごす為のものではない。

 恐らくは刃物さえも持っていない。

 未だ涙を零し続けているリンウをもう少しこのままにしてやりたいとも思うが、シエは渋々小声で話しかけた。

「リンウは何か魔法を使えますか?」

 俯いていたリンウは小さく震えると顔を上げずにゆっくりと首を横に振った。

 その答えにシエは暫し黙り込むとやっと落ち着いてきたのかリンウがゆっくりと顔を上げた。

「悪いけど、少し歩いてもいいですか?」

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