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序章
いつか何処かに伝わる物語や伝承にはいつだって主人公がいる。
ある日、突然自分にしかない特別な力に目覚め、悪を打ち倒す。
ある日、突然目の前の世界が変わり、仲間を増やして大冒険を繰り広げる。
ある日、突然生まれ変わる前の記憶を取り戻して、その知恵と知識を使い、世界に変革をもたらす。
それは、ごく一部の選ばれた者のみ。
賢者と呼ばれたり、聖者と呼ばれたり、救世主と呼ばれる者。
大多数の物は生を受けて、その肉体と、その魂で、与えられた己の生涯を生きる。
ただ毎日、呼吸をして、食べて、寝て、生きるという行為を繰り返す。
何者でもない。
特別な何かでもない。
ただ生きているだけのもの。
それをニホンジンはモブと呼ぶらしい。