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11.魔法の指輪 - 4

 新たに指環を受け取った、七人の新入生。

 しかし彼らは全体からいえば一握り。


 席に座る新入生の数は彼らの倍以上いて、誰しもが一つは指環を()めている。


 皆、貴族の子息令嬢。与えられて当然とされる子供たち。

 受け取った指環に一喜一憂する目の前の人たちを見て、歓迎する空気を出しているも、実際には冷めた感情が足元を漂っている。


 これが今の講義室の、本当の階層。

 一番下にいる指環を手に入れる術が他になかった彼らが、財政や人脈において最も劣っていて。

 それを笑う他の新入生たちも、その実、私たち中段の席からは分かりやすいと見透かされ。

 そして全員、一番上にいる大人たちの監視の目からは、一挙手一投足を観察されている。


「回りくどくて嫌になる」

「ユノ?」

「気楽ね、ノエル。後ろの連中、新入生には興味ないみたいよ。──アンタを除いて」


 嬉しそうに指環を抱き締めているマリアナイトを見て、良かったねと微笑んでいるノエルに、私は呆れながら声をかけた。


 後ろは決して振り向かない。

 そうしなくても視線がいくつも背中に刺さり、飛んでくる矢が他に逸れることはない。


 考えるまでもなく、昨夜の一件だ。


「アレだけ派手にやったんだから、注目されない訳ないでしょ」

「それなら、見てないで僕に声をかけに来ればいいと思うんだけど」

「出来ないですよ。姉様が隣にいる、たったそれだけですが」

「どういうこと?」


 国の上流階級、貴族たちの睨み合いなんて、ノエルからしたら何のことやら。

 私も分かるようになるまで時間がかかったのだから、危機感の薄い彼が二言目で理解できるはずがない。


 呆け面をした子犬のような顔をするノエルに、不機嫌に黙っていたラズラピスが意気揚々と話の続きをしていく。


「姉様はサファステリア家──この国の大貴族に、一席を置く予定の方ですから。現段階でも筆頭候補。しかも一族の懐刀(ふところがたな)である父様の義娘(むすめ)です。そんな姉様が声をかけている相手に、断りもなく勧誘をするなど宣戦布告も同然です」

「ユノを引き取った人って、そんなに凄い人なんだ」

「勿論ですよ。父様も、当然姉様も。本来ならば、貴方の立場で会話をするどころか、目を合わせることすら烏滸(おこ)がましいほどです」

「なら、キミも凄い人なんだね。ラズ……ラピスくん」


 自慢だと、誇りだと。

 胸を張り、恥ずかしげもなく家族を褒め称えていたラズラピス。


 けれどもノエルの一言で、明るかった光に影が差した。


「僕は、凄くなんかないですよ。凄いのは姉様で、だから──」


 言葉の先を放てず、奥歯を噛み締めて喉まで出かかった何かをラズラピスは飲み込んだ。


「だから貴方が今こうして、マリアさんと居られるのは姉様のお陰です。感謝して(ひざまず)く位したらどうですか」

「やるとしても、ここじゃ恥ずかしいかな」

「やるな、バカ。もう……ラズも変なこと言い出さないで」


 私たちが和気藹々(わきあいあい)とした空気を作ろうとしても、背中に刺さる視線は射られたまま。

 ただノエルが視線を気にしないのは、私のそれとは違う色だからだろう。


 ノエルのものは近づきたい一心の、好意的な感情が多いだろうが。

 私の背中に刺さるのは青く黒い、否定の感情ばかり。


 獲物を前に邪魔をするものがいれば、思うのは誰もが同じこと。

 邪魔、その一言だけ。


「これじゃあ悪役ね」


 王子様の周りを固める過保護な姉。

 会うのも話すのも、姉の承諾(しょうだく)が必要で。好意を向ければ即座に理不尽な審査が入る。


 外から見えれば、陰湿(いんしつ)小姑(こじゅうと)めいた存在が今の私なんだって考えると、ため息を超えて笑いが込み上げてくる。


「全部、ノエルが悪いのに。何やってるんだろう、私」


 仮面舞踏会(マスカレイド)で派手な振る舞いをしたのも、貴族ひしめく場所で策謀に無関心なのも、こうして私が彼の隣に居てしまうのも。


 全てはノエルのせいだから。


 なのに彼自身は意識するどころか、目はマリアナイトばかりを追っていて。

 一回ぐらい、鈍感な彼に痛い目にあって欲しいとさえ思ってしまう。


「──それでは。指環も渡し終えたので、次のスケジュールに……」


 講義室の各方面で動向を見せる中、指導側に唯一立っているラザフォードが区切りとばかりに手を叩いた。


 問題なく視線を彼に集めるのは、座っている私たち。

 だが掛け替えのない財産を受け取った七人は、そうもいかない。


 大人しくラザフォードに向き直った者は、マリアナイトを含めて三名。

 残る二人は、浮かれているところに飛び込んできた声で驚いたのか、あたふたと平静を取り繕うとしていて。


 最後の二人。赤の少女と黒の少年は、ラザフォードの言葉を意に介さず、お互いに向き合っていた。


 知人か、それとも指環を受け取った流れで話していたのか。

 言い争っているようにも見える二人の光景は、乾いた破裂音により一変した。

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