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マーズの涙  作者: 黒心
それは雨
8/58

8 間話

ジル・イヴァノーフ


 西暦○○○○年、地球で起こったサハラ内戦は様々な民族が入り混じって行われた大戦と銘打つにふさわしいと考える。


 当初は地下資源調査のため、十人ほどの分隊が護衛となって盗賊の襲撃を防いだのが始まりだった。


 周辺で活動していた反政府組織が先頭に触発され調査チームを襲撃、壊滅。その後討伐に軍隊が派遣され事態が悪化。与野党が交代する政治的混乱期であったことも事態の助長に手を貸した。燻っていた不安が爆発し、様々な組織・民族がサハラ砂漠に集結し、軍隊と衝突した。


 政府が派遣した軍――以後政府軍と呼称する――の緩慢とした内情は油断そのものであり、まさか誰も大規模な戦闘になるとは考えていなかった。政府軍上級大将、スクオピ・アカリアヌスは“私を含めマッケンジーもキムも考えが足りなかったと言わざると得ない。杜撰な我々が招いた戦争に、謝意を表する”とコメントしている。彼、スクオピの息子ダグラムはサハラ砂漠中央の戦いで指揮車ごと爆発し戦死していたため、この会見の終わりには涙をこらえ切れず床に膝をつく事態もあった。


 最初の大規模な戦闘は、地中海とスエズ運河の接続点付近に屯していた軍が攻撃されたこと、後世ではポートサイドの戦いと言われることになる。

 戦争全体で動員されていた輸送船の約三割がここで使用不可能になる激戦となった要因として、反乱軍の装備が予想以上に良質だったことが挙げられる。レーザー・ビーム兵器、装甲車や戦車まで反乱軍は大量に保有し、それを使用した苛烈な攻撃は政府軍を烏合の衆にするに容易だった。スクランブルした戦闘機が七面鳥のごとく撃ち落されたのは政府軍創立以来初めての出来事であり、生き残った兵士は悪魔と戦ったと語っている。


 反乱軍の攻撃が止んだあとのポートサイドの惨状は写真*①を参照してほしい。戦場カメラマン、ロジャー・フェントンは戦闘終了直後のポートサイドの写真を多く遺しており、これもその一枚である。


 揚陸されていた戦車の大半は反撃する暇なく破壊され、装甲車など分かりやすい目標物は戦闘開始二時間ですべて破壊されたと記録された。市街地にいた住民はほとんど、もしくは全てが反乱軍の一派であったと推測されており、市街地戦は四方八方からの滅多打ちだったようだ。


 この戦いで政府軍は輸送艦三割を失っただけでなく、一個軍団の戦闘力を失った。文字通り壊滅というわけである。


 中東の抑えとして派遣されていた政府軍が治安維持活動を放棄して、僅か二日で全軍がポートサイド近郊へ集結、俗にいうトヨトミ行軍を行い、生き残っていた兵士と合流した。

 しかし政府軍の苦難は続く。


 反攻作戦の第一段階、エジプト解放作戦が発令。

 ウォング中将が総指揮を立ったこの作戦は、サハラ内戦で最も流血を強いられた作戦の一つだ。カイロ近郊の反乱軍を絨毯爆撃で掃討したろまでは順調だった。しかしながら、血溜まりの円と言われたようにカイロの入り口をぐるりと覆うように配置された防衛線により、政府軍は航空優勢にも関わらず投入した将兵二万四千の内、一万一千人を失う大損害となった。一部では連隊ごと壊滅したほど壮絶な戦闘があちこちで巻き起こった。事態打開のためにウォング中将は航空機を大量に使用したが強固な陣地に阻まれ近接戦闘支援が効果的に行えなかった。


 カイロには墜落した航空機の残骸が未だに埋まっている。


 一か月でカイロを制圧したウォング中将の政府軍だったが、その他の政府軍は散発的なゲリラ戦に苦しみエジプト全体は一か月を使っても解放できなかった。エジプト解放作戦が完了するのはあと三十日を要することとなる。


 このときの反乱軍を率いたのはアフリカの南部で生まれたンウンリーであり、カイロ市街地戦で戦死している。その後指揮を受け継いだのは火星生まれ地球育ちのリッカーラ・マッカーサー。我々が地球の敵と呼ぶ人物である。


 エジプト解放作戦ののち、増援を受けた政府軍は地中海沿岸地域を易々と制圧、そしてモロッコで足止めを喰らい、エジプト南部を解放していた政府軍は反乱軍の攻撃でカイロまで押し戻される。サハラ砂漠中央では何もない無人地帯で反乱軍は要塞を作り待ち構え、政府軍は自らのバックで土嚢を作り戦った。


 モロッコ戦線でバン中将が前線視察の際に戦死すると、モロッコ戦線は反乱軍の攻勢を押しとどめるのが精いっぱいの状況なり、他の戦線は押して押されての膠着状態。打開の一手としてギニア湾上陸作戦が決行、成功裏に終わる。


 しかし、マッカーサーは適度な反撃で政府軍を釘付けにし、虎の子の潜水艦を使用し兵站に負担をかけることに成功。政府軍は輸送艦を民間から徴用する事態に陥る。


 膠着した戦線は約一年に渡って続き、その間地球各地で反乱やテロが活発化。政府軍は思うようにサハラ砂漠へ軍を送れなくなり、ついに反乱軍からギニア湾沿いに展開していた一個師団は海に叩きおとされた。その際、多数の輸送艦が攻撃され、実際に海を泳いで近くの艦隊まで救助を求めた兵士もいた。


 政府軍もとい地球政府は反乱に耐え切れなくなり、ハルファで停戦会談が行われる。ハルファ会談は反乱軍側が常に優勢であり、地球政府側は要求を呑む形になった。会談終了後、マッカーサーは笑顔でその場をさった写真*②が撮られている。


 後生に判明した火星の企業が支援した事実を踏まえ、このサハラ内戦は地球と火星の代理戦争やパワーゲームと呼称されることがあるが、私は地球・火星戦争と主張したい。反乱軍の武装は火星からの支援が主であったことに加え、現地指揮官も火星から派遣された火星生まれであった。

 これを戦争、人的被害から考えて大戦と呼ばずしてなんというのか。


 私はこのアフリカの陰謀が火星の勝利で終わってしまったことを心苦しく思う。我らが地球はアフリカの企業に賠償を支払わねばならず、その資金は火星に流出していた。加えて、企業群は取引先を地球から火星へ変更、貿易すら火星に搾り取られていた。


 これらの恥辱はのちに――







*あとがき


こういうのを考えるのが一番好き。

写真はありません。

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