ミッドナイト・ドライビング・ロード 人妻
人妻です。スポーツカーを飛ばす美女って素晴らしいですね。
私は、葉山充子。
二三歳、既婚者。
夫と結婚して五年目になる。可愛い娘は健やかに三歳へと成長して、元気に保育園に通っている。そんな私は夫と共働きをしながら、生活を送っていた。私たちが出会ったのは、夜中に車を飛ばして興奮を味わう走り屋をしていた時のこと、私は友達の偉早美と連んで、いつもの様に私のパートナーである赤のスカイライン(テールライトが二つずつのタイプ)に乗って、一勝負を走り終えた時のことだった。
今夜、新参者がレースに出ると云うので、一体どのような人物かなと思い見たところ、それはそれはレースのレの字も知らない男で、事実上、男はボロ負け。しかし、私の血が騒がない筈がなかったらしくて、偉早美によると「彼、教育してやろうかなぁ〜〜?」と上擦った声で私がそう云ったらしいのだ。彼は一生懸命に車の飛ばし方を覚えてくれたものだから、そんな姿を傍らで見ていた私が、やがて数日後にアタック。一生懸命な姿を見て、どうも思うなと云うのが無理でしょう?
で。
そんなこんなした流れに流れて、彼は私の旦那になって今に至る。
そういういきさつがあって、今夜も真夜中の山道の国道を赤いスカイラインで飛ばしている私。旦那が仕事から帰ったら『専業主夫』にわまってくれているおかげで、私はこうして走ることができる。夫には感謝している。感謝しても、それを言葉で表そうにも無理かもしれない。ああ……、一体どうすれば私の感謝の気持ちを形で現せるのだろう……。
そして、山道を下点きで照らすヘッドライトの先を確認して、ギヤを四速から五速へと上げて加速してゆく。マフラーから噴き出るエンジン音は、いい調子だ。アスファルト舗装道路に当たるタイヤの凹凸から運転席に伝わってくる感触も、一定間隔を保って気持ちが良い。
カーブにさしかかる手前でギヤを変速させて速度を若干落としつつも、ハンドルを切りながら山道のカーブを曲がりきり、再びまた三速から五速へとリズムを崩すことなく上げてゆき加速して直線距離を飛ばしていく。なん気持ちいいの。私は今、暗闇を斬って走る赤い閃光と化したかのような錯覚と同時に恍惚感も覚えたみたい。カーブが迫って来る度に、ギヤを操り速度を上げ下げして切り替えて直線と曲線を交互に走り抜いてゆく。その度にギヤを握りしめている。私はもう、ギヤを見なくても手の感触と耳に入ってくる音を躰に染み込ませていた。視線は常に道の先を見て、左手はギヤを握りしめていた。そう、片手はギヤを握りしめて。ギヤを握りしめ――――ん?
そういえば最近、夫のギヤを握っていないなぁ……。
おっと。
イケないイケない。
いろいろと思い出しちゃった。甘酸っぱい思い出もね。すると、突然に私は後ろを追いかけてくるものに気がついてバックミラーに目をやると、そこには赤い特攻服をきた人影が七五〇《ナナハン》に跨って夜道を斬って走る姿を発見した。胸が出ているから、女の子らしい。赤い影がどんどんと迫って来る度に、その姿をはっきりとさせてきた。そしてその赤い特攻服の女の子は、私の隣りにきて併走を保った。貴女、なかなかやるじゃん。私は相手の顔を確認する為に、チラ見してみる。
おや?
顔が無い?
どういうこと?
ひょっとして、貴女、首無しライダーなのね! すっ、凄いっ! 私の奥底から恐怖心を上回る興奮と対抗意識が湧いてきた。
「勝負!」
結果、私の惨敗。
次こそは見てらっしゃい!
『M.D.R人妻』完結
変なお話を最後までお読みしていただきまして、ありがとうございました。
首無しライダー 対 人妻。こういうことは、よくある出来事だと思います。