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Part4 本当の自分

私って何だろう?

何が好きなの?何をすれば一生懸命になるの?

本当の私って何…?

本当は自分のこと、誰にも話したくないのかも

挿絵(By みてみん)


「夢」ってなんだろう。

「好きなこと」ってなんだろう。

 カラフルダイアリーのライブは、夢の中の出来事だったような気がしてきた。

 誰もが一生懸命だった。

 ステージに立つメンバーも、それを観ている観客も。そこにいるだけで、興奮や感動が伝わってくる。

 私は今まであんなに胸が踊ったことはなかった。

 どうしたらあんな風になれるんだろう?

 人に感動を与えられるようなことをしたい。

 でも…。

 ユキノちゃんは卒業を決意した。カラフルダイアリーのメンバーとしてまだまだ活躍できたはずなのに。

 学業に専念する…つまり普通の女の子になるということ。一度見た夢は、醒める時が来るのかもしれない。

 それはそれでいい。何もない現在よりずっと。


 学校の帰り道。

 夕日が沈みかけている頃、私と奏ちゃんは一緒に下校していた。

「ミス・桜花学園って知ってる?」

 奏ちゃんは生徒会が発行している月刊誌を私に見せた。

「なにそれ?」

 名前だけ聞けば、なんとなく内容が想像できるけど。コンテスト的なものでしょ?

「うちの学園で一番可愛い子を選ぶコンテストだよ」

 やっぱり…私は可愛くないし、そういう人前に出て何かをするなんて無理。

 出るなら可愛い奏ちゃんの方が絶対良いと思う。

「一番可愛い子なら、奏ちゃん絶対入賞するよ!」

 うん、間違いない!

 それを聞いて奏ちゃんは少し悲しそうな顔をした。

「私は出られないの。審査項目に歌唱力があるから」

 そんな…歌えることが参加条件…?

「出れたとしても、歌唱力が0点なら、私が入賞する可能性はほとんどないよ」

 そんなことって…!

 私は憤りを感じた。どこかの芸能プロダクションのコンテストならまだしも、中学校のコンテストにそんな不平等なことってある!?

「奏ちゃん!生徒会に行こう!」

 奏ちゃんはびっくりして、首を横に何度も振った。

「大丈夫、ありがとう。私はもうそういうのは慣れてるから」

 奏ちゃんの健気な笑顔は、堪らなく愛くるしかった。

「奏ちゃん!」

 思わず抱きついちゃった。

 しばらくそのままギュッとしていたけれど、トントンと肩を叩かれて奏ちゃんの顔を見た。

「その代わり、こころちゃんに出て欲しいの」

 奏ちゃんのスマホには確かにそう書かれてあった。

「私っ!?無理無理無理無理っ!」

 完全に拒否する私に、奏ちゃんは本気の眼差しだった。

「こころちゃんは可愛いから大丈夫!」

 参ったなー…。

 参加するということは、全校生徒の目に私が触れることになる。クラスでこれ以上浮きたくないし…圧倒的に負けたら、それこそもう恥ずかし過ぎて学校に来れないかもしれない…。

「カラフルダイアリーのカリンちゃんは、学校のコンテストがきっかけでカラフルダイアリーに入れたんだよ」

「そうなの?」

 意外な事実。だけど、そういう類の話はたまに聞いたことがある。

「学校のコンテストに入賞したから、自分に自信が持てたって言ってた」

 そうなんだ。あんなに可愛い子でも自分に自信がないなんてことあるんだ…。

 確かに入賞できれば自分に自信がつくと思うけど…。

「大丈夫!私に任せて!」

 奏ちゃんは私の制服を掴んで力説した。理由は分からないけれど、今までで一番訴えかけるものを感じた。

 これはちょっと断りづらいかなぁ…。

「うん…じゃあ今回だけ参加してみよう…かなー…」

 もうクラスで十分浮いてるのに、そんな心配してどうするの?ほとんど知らないクラスの人達より、目の前 の友達を大事にしなよっ!…ともう一人の自分が私に叱咤激励している。

 うん、そう!そうしよう!

 私は奏ちゃんのために参加する!

「ありがとう」

 奏ちゃんはニコリと笑った。

「私、一生懸命応援するから!」

 参加する私より奏ちゃんの方が張り切っていた。


 文化祭は11月初旬にある。あと2ヶ月。ミス桜花学園のエントリーは10月からだから、まだ誰が参加するのかは分からない。でもミス桜花学園は文化祭の代名詞で、生徒のみんなが注目するビッグイベントの一つ。エントリーから文化祭当日の決勝戦まで結果が公表される。エントリーから決勝まで、参加者がやることは1つで、それは「自己アピール」だけ。自分のアピールポイントを1分の制限時間内に表現すること。ある意味では、私の苦手とする「自己紹介」のようなもの。トラウマレベルのこの種目を目にして、私は震え上がった。

「やっぱりやめようかなぁ…」

 奏ちゃんと2人で、誰もいなくなった6組の教室で作戦会議をしていた。

「どうしたの?」

 奏ちゃんは、その理由が全く分からない様子。

「自己アピール、私、苦手なんだ…」

 忘れもしない、あの緊張感。はじめて「私個人」を認識した瞬間。

 一瞬にして頭が真っ白になった。

 思い出すと、今でも緊張する。

 奏ちゃんに、あの日のことを詳細に打ち明けた。

「意識し過ぎだよ、こころちゃん」

 奏ちゃんは笑顔で説明する。

「自然体のこころちゃんが一番魅力的だよ。わざわざそれを崩すことない」

「自然体…?」

「そう。たとえば、今の状態そのまま」

「今…?」

 クスっと笑う奏ちゃん。

「そう、今。私とお話しているときのこころちゃん」

「奏ちゃんとお話しているとき…」

 確かに、今が一番リラックスしている時かもしれない。

 でもそれはお互いに気を許せる奏ちゃんだけが、いま目の前にいるからに他ならない。

「知らない人がいると、どうしても緊張するよ」

「うん、確かに。でも人が一番魅力的な時は、自然体の時。カラフルダイアリーだって、素敵な笑顔をする瞬間って、いつも自然体で、意識してやってる時じゃないと思うんだ」

「うん…でもどうやったら緊張しないんだろう?…目の前に人の姿がたくさん見えると緊張する」

「目をつぶるとか?」

「えーっ!無理無理っ」

「ネット先生に聞いてみよう」

 奏ちゃんはスマホをタップして、緊張しない方法を検索してくれた。

「うーん…怪しいのばかりだね」

 奏ちゃんはスマホとにらめっこしている。

「自己紹介で緊張してしまうのは、自分をより良く見せようと意識するためで、本音で話していないからぎこちなくなったり、途中で詰まったりする…か」

「うーん…確かにそうかなぁ」

 奏ちゃんが見せてくれた画面に、少し理解できるところがあった。

「でも本当の私でいいの?」

「えっ?」

 奏ちゃんは大きな目で私を見た。

「いいに決まってるよ」

「これっぽっちも面白くない、地味で陰気な私でも?」

 ククク…っと奏ちゃんは笑った。奏ちゃんは声が出ないから、大きく笑うときはいつも喉に何かが詰まったような笑い方をした。

「いいよ!全然大丈夫!」

 えっ…否定しない…⁉

「だって私達、その通りだもん」

 そう…だよね。

 なかなか受け入れ難い現実を、奏ちゃんの後押しで受け入れた瞬間だった。

「私達、他に友達いないし、教室ではいつも隅っこにいるし、教室に残ってても誰も体育の時間だよって教えてくれないもん」

 少し悲しそうにスマホ画面を見せる奏ちゃん。

「でも、そんな私達でも、友達できたから」

 少し、笑った。

「今の私達は、きっと素直で女の子らしい笑顔でいられるはずだよ。ひきつった、カチコチの笑顔じゃなくてね」

 どうせ私なんか…そんな風に思っていたこともあった。

 友達もできず、誰にも相手にされず、このまま寂しい学校生活を消化していくだけ。

 ひねくれた心は、自然と表情にも表れていた。

「自然体の笑顔で、そのまま応えればいいよ」

「うん…じゃあ、奏ちゃん、聞いてくれる?私の自己紹介」

「いいよ」

 私は座っていた席から立ち、教壇の前に立った。

「1年1組、夕凪こころです。好きなものはアイドルで、最近はまっているのはカラフルダイアリーです。カリンちゃんのような素敵な笑顔でみんなが幸せになれるようなアイドルになることが夢です!よろしく!」

 ぶいっ!と最後にブイサイン。


 パチパチパチパチ…!

 奏ちゃんは笑顔で立ち上がって、大きく手を叩いて喜んだ。


 私…ちゃんと言えた!

 自分のこと、ちゃんと話せた…!

 私にとって、大きな1歩だった。

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