Last Part 雨のち一度だけ晴れ
奏ちゃんがいない学校に行く意味はない
奏ちゃんがいない休日は休日じゃない
奏ちゃんがいない将来なんて描きたくない
奏ちゃんがいない…
スマホを開けて、メッセージを確認する。
通知なし。
毎朝「おはよう」と来ていたメッセージは、今日も来ない。
私はその事実を受け入れられないでいた。
あの日から私は、頭の中は奏ちゃんでいっぱいだった。
お互いに好きなゲームの話やカラフルダイアリーの話で盛り上がったり、授業が終わったら6組の教室で一緒にお話したり、街のショッピングモールに行ったり…あの楽しい時間は二度と来ない。奏ちゃんの楽しそうな笑顔、悲しい顔、少し怒ったような顔…全部が頭をよぎる。その度に胸が締めつけられるような思いで、すごく苦しい。
私は連日、学校を休んでいた。頭に奏ちゃんが浮かんで、何も手をつけられずにいた。
奏ちゃん、どうして…。
友達がいないと悲観していた私よりも、ずっと元気で明るかった奏ちゃん。でも一瞬見せる、切なそうな表情はとても美しいと思った。
私には何ができただろう。何が出来なかったんだろう。自問自答を繰り返す。
奏ちゃんが最期に書いた手紙が見つかり、ご両親に断って見せてもらった。
「お父さん、お母さん、ごめんね。先に天国で待ってるね。私を産んでくれてありがとう。今度は私がお父さんとお母さんを迎えに行く番だね。生まれつき声が出ない私を、何とかしようと海外の病院まで行って治療してくれて本当にありがとう。少しでも希望を持って生きられたのが、すごく嬉しかった。
私はずっと悲しい思いを捨てられなかった。5度目の最後の手術の時に見た、病棟から見えた暗い雨空が忘れられない。どこまでも続く黒い雨雲。私はそれを見て、何となく今後の人生について予感していた。それからずっと「死にたい」と思うようになった。こんなに悲しい思いをするのなら、死んだ方が楽なんじゃないかって思った。
声を諦めた私は、他人とコミュニケーションを取ることも諦めた。小学生になって手話を少し習ったけれど、全然身にならなかった。友達も全然できなかった。でもどうせ死ぬつもりで生きていたから、それは全然苦にならなかった。
中学校に入学してから、友達が1人だけできた。こころちゃん。教室の隅でいつも死ぬことについて考えていた時、偶然友達になった。こころちゃんと一緒にいるととても楽しかった。私が声が出ないことを全然気にせずに会話してくれた。今すぐ死のうと思っていた私は、もう少しだけ生きてみようと思った。こころちゃん、本当にありがとう。でも私はある日、死ぬことについてまた考えるようになった。苦しい気持ちが一瞬だけ消えたけど、やっぱり私の中の奥の方でいつまでも、遺恨のように残る死にたい気持ちは消えることはなかった。
お父さん、お母さん、それにこころちゃん、私は先にいって待ってるね。今度は私が迎えに行くよ。天国ではきっと元気な声でお迎えできると思うから」
奏ちゃんを失った私は、以前の私に戻った。
奏ちゃんがいないこの世界に、何か意味があるのだろうか。
そう思えてきた。
奏ちゃんがいない学校に行く意味はない。奏ちゃんがいない休日は休日じゃない。奏ちゃんがいない将来なんて描きたくない。奏ちゃんがいない…。
クラスメイトの顔が少し浮かんだけれど、すぐに消えた。クラスメイトの友達に会っていた時間が惜まれた。あの時間を奏ちゃんとの時間に充てられたなら、もっとお話できたのに…。
でもそんなことはどうでもよかった。あんなに頑張ったミス桜花学園の結果も知らないし、どうでもよくなっていた。奏ちゃんがいないという事実が、そこに立ちはだかっているだけだった。
私はこの気持ちをいつまでも抱いたまま、これからも生きていかなければならない。死ぬ時は奏ちゃんがお迎えに来てくれるって言っていた。私はそれを信じて待つことにした。最期に私は奏ちゃんともう一度会える、そう思うと少しだけ気持ちが楽になった。
ふと窓の外を見てみると、薄暗く、雨が降っていた。冬を迎える時期の雨は、心身を冷たくさせる。
奏ちゃんが見た雨雲も、こんな暗い雨雲だったのだろうか。
空を覆い尽くす黒い雨雲。
でもこんな暗い雨雲でも、その最後には晴れ間が広がっている。
私はそう信じている。
奏ちゃん…必ず迎えに来てね。
ご愛読ありがとうございました!このパートで完結です!
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