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異世界からの侵略者  作者: aoino
始まり
2/3

02.名画のような美しさ

 ――痛みは感じなかったというか。本当に、一瞬だったな。


 死んだはずの自分は、何故か今意識を取り戻して、目を覚まし、雲ひとつ無い青空を見上げている。


 ――ここは死後の世界なのだろうか?いや、それにしては随分と現実みがあるが……。


 仰向けになった状態のまま、首だけ動かして辺りを見回す。


 ――森だな。


 先を見ても真っ暗。恐らく森のど真ん中なのだろう。

 それ以外、表現のしようがない。

 誰に表現するかといわれれば、自分にとしか言えないが。とりあえず、森であることに間違いはない。そう自分に言い聞かせた。


 ただ、鳥のさえずりとか、小動物が走るような音などは一切聞こえない。

 心地の良い春のような暖かな風が時折吹いて、木々が揺れる音が聞こえる程度だ。


「いたた」と、自分の年齢にそぐわない声を発しながら、寝ていた身体をゆっくりと起こす。


 ――さて。


「ここは、一体どこの森なんだ……?」



 ******



 かさかさと、落ちた葉を踏みながら、獣道を進んでいく。


 体感では10分程度歩いていて、やっぱり疑問に思うのは、動物の気配が一切しないことだ。

 獣道が出来ているから、動物自体はいると思うが、もしかしたら人間が歩いて出来た道かもしれないから、なんとも言えない。


 制服、ローファーで知らない森を進むのは流石に身体が持たないのか、何処かで休憩を取りたいと思い始めてきた頃だった。


 カサカサッ……と、初めて自分以外の生物が鳴らしたであろう音が聞こえる。


「お?」と思い、音のした方向に振り向く。


 ――狼……なのか?


 少し離れた先で、こちらを見つめる一匹の狼がいた。

 見た目は狼なのだが、こう、狼にしては随分と大きい上に、なんというか。


「現実離れした見た目……だよなあ」


 真っ黒な毛並みに、真っ赤な瞳。そういうのが好きな俺にとって、この色合いはとても胸に来るものがある。


 ――いや、ていうか。


「やばくね……!?」


 まじまじと見てしまったが、狼と出くわすのはさすがにまずい。

 命の危険を感じているのか、握り締めた手に汗が滲んで、鼓動が速くなるのを感じる。


 ――逃げたら追いかけられる?絶対速度で勝てるわけない。熊と同じ対処法してるけど絶対違うし!!!


 狼と見合っている状態だが、いつ向こうが食いに来てもおかしくない。

 そう思った矢先、向こうが一歩一歩こちらへ踏み寄ってくる。


「っは、待ってくれ。話し合おう。話せば分かる。落ち着け」


 話が通用するわけも無いのに、「どうどう」と宥めるような言葉をかける。

 勿論効果は無く、向こうはじわじわと近付いてくる。


「おいおいおい、こちとら訳も分からずここにいるんだ。頼むせめて一言説明を――っ!!」


 狼が牙をむき出して、本格的に襲いかかろうとしてきた。


 ――結局死ぬのか?俺


 今度こそ本当の死を覚悟したそのときだった。


『なっさけないなぁ。君を選んで良かったのか、少し疑問に思ってしまったじゃないか』


 飛び掛ってきた狼の動きが、スローモーションのように遅くなる。

 風は無く、音も無く、襲い掛かる狼は鈍くなっていた。

 さっきも見た景色。ああ、死ぬんだと思った。


 死ぬという恐怖で腰が抜けたのか、その場に俺は倒れこんでしまった。


 ――普通に、動けてる?


『本来僕はこの世界に直接干渉すべきじゃないんだ。もうこんな油断はするんじゃないぞ』


 男とも女とも言えない、中性的な声と一緒に、倒れこんだ俺の後ろから声の主が現れる。


 真っ白で、袖口がひらひらとしたシンプルなワンピース。

 細くしなやかな手と腕、長いワンピースからチラチラと見える素足は、日の目を知らない白さだった。

 ふわっとした、肩にかかるくらいの長さがある髪は、生糸のように艶やかで、サラサラとした白髪だ。


 海のように綺麗で大きな青の瞳が、静かにこちらを見つめていた。


 まるで、どこかの名画にいる女神のようだった。


『まじまじと見ているな。まあ理由は分かるぞ。僕のこの美貌に惚れ惚れしているんだろう?』


 歌のような、心地の良い中性的な声、名画のような美しさ。


「……」


 こんな綺麗な人は知り合いにはいない。というか、現実世界にこんな美人存在するのだろうか。

 全体的に白すぎる上にそんな美貌を持っているものだから、目が少し痛い。眩しい。


『君……たしか楓奏だっけ?なにか言ったらどうなのさ。ほら、僕を褒める言葉の一つや二つ、簡単に思いつくだろう?』


「……いや、すみません。知り合いに貴方みたいな人いなくて……どこかでお会いしましたか?」


『ん?いや、会ってないけど。僕と君は初対面さ』


 ――なんなんだ?


 じゃあ何故俺のことを知ってるんだと、思わず頭の中で突っ込んでしまった。

 色々脳の処理が追いつかない現状、また新たな謎が追加されてしまってもう訳が分からない。


『なんでもいいからさ。さっさと立ってよ。"あれ"に手こずるとかありえないから」


「あれ……って」


 もしかして目の前の狼のことなのか?いやそれしかないよな。


『おや?僕ってば、なんも渡してないじゃん。じゃあいいや。この剣持って』


 そういって彼女は、どこにもなかったはずの剣をこちらに差し出してくる。

 一体どこにそんなものがあったのだろう。というか剣?


「銃刀法違反だ……」


『それ向こうの世界の話だろ?ここにそんな決まりはないから安心して』


「はあ……?」


 これ以上なにか言うと余計頭が混乱すると思い、なにも納得できないが一先ず状況を飲み込む。


 手渡された剣は、まあ中世の時代にあるような剣だ。

 柄や柄頭、鍔は黄金色に光る金属。鍔の真ん中に、赤く光る宝石がはめ込まれている。

 剣身はいたってシンプルな作りだが、少し黒っぽい色をしていた。

 片手で持つには少し重たい。


『さて、じゃあそれを思い切り相手に向かって振りかざそうか!』


「許可のない狩猟は……」


『そんな決まりないってば。いいから早くして!』


 早くしてと言われても、生憎剣の扱い方は学校で教わらないし、習っていたわけでもないので分からない。

 相手の動きはこれでもかと言うほど遅いし、当たらないことはないだろうが……。


「ああもう!訳が分からん!!」


 考えることをやめて、宙に浮いたままの狼に大きく振りかぶる。

 当たると確信したら、なんだか怖くなって目をつむった。


 肉の切れる感覚だけが手にあった。


 それ以外は分からない。



 ゆっくりと目を開けると、先ほど襲ってきたはずの狼が消えていた。


「……あれ、狼どこ行った……?」


 剣に血は付いていないし、地面にもない。

 死体一つすらない。肉を切る感覚だけはあったのに。


『ヘタレめ。目を閉じるな』


 名画の彼女は、腕を組んで偉そうに言う。


「いや無理。というか狼はどこに」


『阿呆が。とっくに消えてるよ。君が目を閉じてる間に、アイツの元に帰ってった』


 ――消える?帰る?どういうことだ?


『とりあえず着いて来て。街まで案内してあげる』


 そう言って、彼女は手招きをして歩き出す。


 ――素足で森の中を歩くとか、すごいなあ。


 と思ったが、よく見ると、彼女の足は地面に付いていなかった。

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