流れ星の丘と二つのきらきら星
今日は流れ星の日。
雪の降る丘に落ちた流れ星。
星を拾って空へ帰すと、ささやかな願いが一つ叶う。
大人には星が見えないので、子供だけが願いを叶えることができるのです。
子供たちはそれぞれの願いを胸に、夜明けと共に星を拾いに丘へ向かいます。
ミユリも流れ星を探しに行きます。
ミユリは新しい家族が欲しいと思っています。
そのためにも星をたくさん集めて願いを空へ届けたい。
寒さで身体が凍えてしまわぬよう、ミユリは厚い手袋を身に着け、母が使っていたブランケットを羽織り、星の降る丘へと出かけました。
すでに大勢の子供たちは丘で星を探しています。
早くも星を見つけた子がいるようです。
「やったー! 見つけたぞ!」
男の子が自慢げに星を掲げています。
早くしないと全部取られてしまうでしょう。
ミユリははやる気持ちをおさえ、雪の降り積もった丘を登っていきました。
しばらく探していると、木の根元に輝くものを見つけました。
もしかしたらと近寄って雪をかき分けると、きらきらと輝く流れ星でした。
「うわぁ……きれい!」
ミユリの手のひらで輝くそれは、まばゆい光を放っていました。
早速、丘の上へ行って空へ帰そう。
そう思って星をポケットにしまおうとすると……。
「それ……僕が見つけたのに」
振り返ると、ミユリよりも幼い男の子が悲しそうな顔でこちらを見ていました。
どうやらこの星はその男の子が見つけたものを、雪に埋めて隠しておいたものらしいのです。
「ごめんね、君のものだとは思わなかったの」
「ううん、返してくれてありがとう」
ミユリは星を男の子に返すことにしました。
彼は欲張ってたくさんの星を集めようとしていたみたいです。
「僕はもう帰るよ。
お姉さんも星を見つけられるといいね」
「うん、ありがとう」
ミユリは男の子を見送って、星探しを再開しました。
深く積もった雪の上を転ばないように歩いて行くと、岩の陰に光るものを見つけた。
もしかしたらと思って近づいてみると、思った通り。
きらきらと輝く流れ星でした。
良かった、まだ残ってた。
ホッとした気持ちでミユリは星を拾い、ポケットにしまいました。
寄り道しないでまっすぐに頂上を目指そう。
そう思って歩いて行くと、幼い女の子がワンワンと泣いているのが見えました。
ミユリは放っておけず、声をかけに向かいます。
「どうしたの?」
「星が見つけられないの!」
「どうして星が欲しいの?」
「あ母さんの病気を治したいの!」
女の子の言葉に、ミユリは胸をうたれました。
たった一人の姉妹であるお姉さんが病気で亡くなったからです。
「そっか、じゃぁこれを持って行って」
ミユリは持っていた星を女の子に渡します。
「え? いいの?」
「うん、お母さんの病気、治るといいね」
「ありがとう!」
ミユリが星を渡すと、女の子は元気にかけて行きました。
女の子を見送ったミユリは、自分の分の星を探し始めます。
もう既に日が落ち始め、あたりが暗くなっています。
早くしないと夜が来てしまうでしょう。
焦る気持ちを抑えながら、ミユリは雪で覆われた斜面を探して回ります。
けれども、探しても探しても、何処にも見つかりません。
このまま夜になってしまったら、もうあきらめるしかない。
そんな気持ちがよぎった時でした。
きらりと光るものが、少し離れた場所に落ちています。
きっとあれがお星さまだ。
ようやく私の願いが叶うんだ。
ミユリは一目散にお星さまの所へと向かいました。
でも……。
「……あっ」
ミユリよりも早く、年上の女の子がその星を拾ってしまったのです。
あと少しでお星さまが手に入ったのに……。
ミユリは泣きたくなりました。
何もかもがどうでもよくなって、しょんぼりした気持ちになり、とぼとぼとおうちへ向かって歩いて行きました。
「まって」
後ろからミユリを誰かが呼び止めます。
さっき、星を拾ったお姉さんでした。
「これ、あなたが先に見つけたんだよね?
だからこれはあなたのものだよ」
お姉さんはそう言って星を渡そうとしてきます。
「でも……お姉さんにも願いがあるんでしょう?
私は他の星を探します」
「そっか……」
お姉さんは少しだけ寂しそうな顔をしました。
本当なら、その星をもらいたかった。
自分のものにしたかった。
でも……お姉さんの願いを奪ってはいけないと思いました。
だから我慢することにしたのです。
ぎゅっと両手を握って力を込めて、唇をかみしめて涙をこらえました。
こみあげる気持ちを必死におさえました。
すると……。
「今までたくさん我慢したんだね。
ずっとずっと耐えてきたんだね」
お姉さんはふんわりとミユリを抱きしめます。
「我慢できて偉かったね。
でも、もう我慢しなくていいんだよ。
この星はあなたのもの。
自分の願いを我慢して、他の子に星をゆずってあげた、
優しいあなたのためのお星さま」
お姉さんはそう言ってミユリの服のポケットにお星さまを入れました。
「丘の上でお星さまを空に帰してあげてね」
お姉さんはそう言って立ち去ろうとします。
ミユリはこのまま行かせてはいけないと思いました。
「待って! 私もお姉さんの星を一緒に探すよ!」
「え? でも時間が……」
「今ならまだ間に合うよ!
一緒に星を見つけて、一緒に願いを叶えようよ!」
ミユリがそう言うと、お姉さんは困った顔をしていました。
でもためらっている時間はありません。
「早く探そうよ! 急いで!」
「え? ああ……うん」
ミユリに促され、お姉さんも星を探し始めます。
しばらく探し続けると、雪の中に隠れていた星を見つけました。
「あったよ!」
「本当に?」
「一緒に丘の上へ行こうよ!」
「うん」
ミユリはお姉さんの手を引いて丘の上を目指します。
空を見上げると、夜がすぐそこまで来ているのが分かりました。
夜になると星は力を失い願いが叶わなくなってしまいます。
もしかしたら間に合わないかもしれません。
二人は立ち止まらずに急いで丘を登ります。
「着いたよ、お姉さん!」
「うん、星を空へ帰そうか」
二人はポケットから星を取り出して、空へと帰しました。
ふわりと宙に浮いた小さな星は、きらきらと光りながら空へと帰っていきます。
やがて暗闇に溶けるように見えなくなると、はるか空の彼方でさんぜんと輝き始めたのです。
二つ仲良く寄り添う星は、暗い空の中でいっそう強く輝いています。
「よかった、間に合ったんだね」
「うん……ありがとう」
お姉さんはミユリの頭を優しくなでます。
「ねぇ、お姉さんはなんてお願いしたの?」
「去年、死んでしまった妹が、天国へ行けますようにって」
お姉さんの妹は病気で亡くなってしまったそうです。
星には、死者をよみがえらせる力はありません。
それどころか、ささやかな願いごとですら叶わないことが多いのです。
それを知っていながらも、子供たちは星を探して空へ帰します。
少しでも幸せになりたいと、誰もが願っているのです。
「一緒に帰ろうか」
「うん!」
夜に覆われた大地の中で、街の明かりだけが輝いています。
その明かりを頼りに、ミユリはお姉さんと手をつないで帰りました。
並んで歩く二人の足跡に雪が降り積もります。
二人が丘を去ってしばらくすると、その足跡は雪の中に埋もれてしまいました。
並んで輝く二つの星は、いつまでも消えずに輝いていました。