欲目
息子に新しいパーカーを着せてみた。
近所の量販店で購入した白いパーカーは…いつも水色の服ばかり着ている息子に、実に良く似合っている!!
「うわあ!イイねえ、白、めっちゃ似合うな!!」
「そう?」
おお、息子の目がきょろきょろしている、これは喜んでいる時のくせ!!
なんだ、ニコニコしていて随分かわいいじゃないか。
口数の少ない息子はあまり自分の好みを口にすることがなくて、私が用意した服をおとなしく着ることが多い。
わりとかなり相当センスのよろしくない私がいつも選ぶのは、ド派手な色合いのキャラTシャツ。
スカイブルーの目玉のついたやつとか。
緑色の目玉のついたやつとか。
グレーの目玉のついたやつとか。
オレンジ色の目玉のついたやつとか。
黄色のひよこのやつとか。
黄色のぴかっとヒカるキャラクターのやつとか。
赤いヒーローっぽいやつとか。
どうも原色系の色のものばかり選びがちになってしまうのだけれども…どれもこれも、実によく似合うのである。
いいなあ、似合う服が多くて。
私なんか、子供の時は何を着ても似合わなくてさあ。
顔が浮いてるだの、顔色が悪く見えるだの、顔がでかく見えるだの、太って見えるとかババ臭いとかさあ、何かを着るたびにこう、しみじみと似合わないねえと言われ続けていたんだよなあ。
一目で恋に落ちた親戚のおばちゃんが縫ってくれたフレアースカートをはけば気持ち悪いって一蹴されたし、手編みのセーターを着ればみっともないって笑われたし、キャラクターのついたTシャツを着たら三段腹で変な形に伸びてておかしいって脱がされたし、浴衣を着れば丈が短いだの地味な顔で華やかな藍色がくすむだの言われて、中学校に入って制服がもらえた時に本当にほっとしたというかさあ。
……まあ、誰にでも似合うと言われた制服ですら、足が短く見えるだの寸胴が際立つだの言われたわけだけども。
その点、息子は実に何を着せてもこう、顔にしっくりくるというのか。
どんなものを着せても、派手な色がぷくぷくとした体にマッチしているのだなあ……。
あれかなあ、何を着せてもニコニコしているから、余計に似合うなあと思えてしまうのかもしれないぞ。
娘にTシャツを買って渡すと、毎回ああだこうだとうるさく感想を述べたのち、いけしゃあしゃあと着ていたりして、なんとなく似合うというよりは、着たもん勝ちという感じなんだよね。
旦那に至っては、色を選ぶというかまず着られるサイズを探し出す方が大変で、似合うどうこうよりも腕を通すことができるのかの方が重要で……。
「ただいまー! あ!! イイな、新しいの買ってもらえたの!!」
「ずいぶん似合っている!」
口うるさい娘が帰ってきたぞ!!
外はずいぶん寒いらしい、やけにほっぺたが赤くなっていて、ピンク色のパーカーとよく似合っている。
なお、娘の着ている桃色のもこもこパーカーは、私が着ようと思って購入したものを奪われたという経緯がございましてですね。
曰く、この若者色はお母さんよりも私の方がより似合う、だから私が着るべきなのだ!だそうで!!
「見てよこの似合いっぷり!!弟はホントなんでもよく似合うよね!!」
「そお!!別に普通じゃない?いわゆる親の欲目ってやつだと思うよ!!」
むむ、なぜご機嫌な弟の気を削ぐようなことを言うんだ!!
「ちなみに姉であるあなたの分もあるのですが、どうやらいらないらしい……?」
ふわふわのダッフルコートがあったので、娘に似合いそうだと思って買ってきておいたんだけどなあ!!
ちょっと口をとがらせつつ、袋を娘に差し出してみる。
「いるよ!!!ええー、白?汚れが目立つじゃん、あたしグレーのが…ボーダーが良かった!!」
相変わらず一言三言文句を言う事を忘れない……と。
気に入らないのかと思いきや、やけにニコニコとして試着してるじゃありませんか。
「うん、白もいいねえ!純真無垢っぷりがあがるみたいな?あたしにぴったりだ!!」
「似合っている!」
「はは、そりゃあようござんしたね……。」
怪しげなサイトを覗いて夜中にぐへぐへ笑っている娘に、純真無垢の代表格である白が似合うとは思えないが…羽織るその姿は、ううむ、確かに…けっこう似合っているぞ……。
なるほど、これが親の欲目という奴ですかね。
……自分はこういう目、向けてもらえなかったんだよなあ。
……常に蔑みの対象として服を着せられていたのだなあ。
……よほど欲を出したくなかったんだろうなあ。
大人になってからもずーっと着るものを否定されたんだよね。
娘に手作りの服着せるたびに変なのって言われてさ。
息子に干支の着ぐるみ着せたらバカじゃないのって言われたし。
憎しみの目しか向けられてこなかったからかなあ、私はずいぶん、親の欲目に長けた人になってしまったようだ。
……いいんじゃない?
「も~さ、家族全員で白いの着ちゃおうよ!!冬休みの旅行、全員白にしよ!!そしたら迷子にもなりにくいし!」
「いいねえ。」
「ええー?恥ずかしくない?ていうか、アンタいい大人なのに迷子になるつもりなの……。」
……若干、呆れつつも。
スマホで白いアウターを検索し始めた私は。
旦那用の、7Lの白いアウターがなかなか見つからずに、ため息をついたのであった。