ホラー・ダイレクト
この地球上には天才という存在がいる。凡人が砂漠の砂のようにいる中、星のように煌くような天才。
その中でもたったの5人。
「ロペスさん。あなたは世界でも5人しかいない、偉大な名医と言われておりますが。他の4人はどーいう方なんですか?」
医学界の名医と呼ばれるほどの実績を持つ、医者。リガー・ロペス。色んな患者を診てきており、その治療方法は最新の科学的なモノから、難病を治すものまで発見したりと……。あらゆる治療に携わった功績によって、世界から認められた人物。
世界で5人としかいない。
「1人は有名だよ。キルメイバ・フレッシュマン博士」
「あ…………え、あの人。医者でもあったんですか?世間じゃ科学者とか言われてますけど」
「馬鹿だけど、あのお爺ちゃんは多方面で天才だから……。人を巨大化する実験の最中で、人の身体……細胞って言った方がいいな。細胞を増幅させて欠損した部位を治療するという基礎技術を独自で編み出した人だから。外傷、内臓器官も可能になってるしね」
「名医にはそれに見合うだけの功績があるわけですか」
「でも、彼を讃えるというのは世間からしたら無理だからね。彼もそんな名誉に興味ないし」
狂科学者とも言うべき人物であり、ロペスが発言したとおり。大きなモノを作り上げる研究に生涯を捧げるイカれた爺。現在は、ロシアの最高の科学者としている。
「残りの3人も良い奴じゃないな。私はたぶん、5人の中で良識的だから選ばれてるだけだよ。選定理由も患者を救ってきた数やその存在を気にしてない事だし」
「確かに名前も聞きません。これはそれについてのインタビューでもあります。残りの3名はどーいう人だったんですか」
「うーーん。1人は政治屋の医者だったな」
◇ ◇
奇跡の復活。
助からないであろう状況から息を吹き返し、生き延びることだろう。
死んでしまう体を助けるのも医術。だが、時として医者やその依頼人は患者の体を助けても、患者の魂を助けることは望まなかったりもする。
名医。あるいは、科学者。博士……。色んなことを付けられたが、
「”ネクロマンサー”」
そう呼ばれるのがシックリ来る。
彼女の本名は、本人しか知らず。それ以外の呼び方では答えない。
先祖はホントに死体を操った霊能力者とかなんとか、……それが関係するのか、医術と合わせた力で開発されてしまった死体テクノロジー。
「死体の腐敗を抑え、新たな魂を埋め込もう。南無阿弥陀仏……」
怪しげな呪文は東洋、西洋、禁忌と様々あり……色んな呪術も組み込むとかなんとかで。
10日前に死亡した大統領を蘇生させてしまったのだ。
死体の腐敗を抑え、止まっていた心臓なども動き始める。しかし、死者の魂ではなく、別の魂。ゆっくりと棺から起き上がる大統領は
「あ~~~~~。あ~~。ここはどこかのぅ……」
ボケている。
しかし、国のトップがアホや馬鹿というのは好都合なのだ。
生まれながらにして、大統領という存在を与えられた者にネクロマンサーは教える。
「君はこの国の大統領として生まれたんだ」
「大統領?……大統領って??」
「国を代表する者。皆は君を崇め、君の言葉や意思で皆が動く。……今は私達が代わりに君に色々と教えるが、どうかよろしく」
「よ、よ、よろしく。なんだか凄い事になったな……あれ、でもなんか。体が重い……」
「はははは。なら、この薬を飲むといい。体の事なんか気にしないぞ」
「ありがとう」
変装やら影武者といった者が今でもいながら、このような手段で本物の大統領を乗っ取った例はこの国が初めてであり、その偉業は医学と政治に大きな影響を与えた。
死んだ存在を甦らせ、政治をさせていたことはそれほどであり、それを知った時には国が崩壊していたのだ。国を乗っ取った医者、
「では、ここにサインをするんだ。中身は見なくていい」
「うん。サインする」
医療のためと言いつつ、国を丸ごと一つ、実験室にしようとする悪魔。
死体を甦らせる事だけに飽き足らず、死体への人権。死体の生活、価値観なども変えるため、国の政治を握る。そして、二度と人間達に政治を握らせないよう。
【住民登録がされており、未成年でなければ選挙期間中に投票用紙は発送される】
【住民登録はその日限りで行えるようにする】
【足の不自由な障害者のため、選挙の投票は投票会場に行かなくてもできるようにする】
【足の不自由な障害者のため、投票用紙は郵送で送ることができるようにする】
”正しく勝つ選挙”をするための制度をしてからだ。
国の政治と国民の命を握った彼は、諸外国にも働きをかける。
「死体はいいぞ。誰でも平等に時の流れを感じ取れるのだから」
外国からこの国は、死なない国とも賞賛され、不死を求めて沢山の移住者が来たとかなんとか。
そーいう国にするのが、ネクロマンサーの目的だった。この国に住んでいた国民達、沢山やってきた患者達で死体実験を行う、…………。
もっともっと、考えていた事を実現させるため、彼はここまでの事をやっていた。
◇ ◇
「結局、国一つを10年以上の間、生物兵器の実験施設にした奴なんだよな。土地と被検体も提供していた」
「…………とんでもない医者じゃないですか。ある種の独裁者でもあるし」
現在、その国は滅んで(制度が崩壊したというのが正しい)おり、元凶となる名医も行方不明だとか。
しかしながら、
「もう高齢か、それともゾンビにでもなったか知らないけど、どこかの国に匿われてると噂に聞くよ。国一つを乗っ取った恐ろしい奴だから、名医とはいえ世間じゃ名を広められない」
インタビューに答えた、リガー・ロペス。
医者として良い志を持たぬ人間が、医者として有能というのは……医者に限った話ではないだろう。誰にでも都合の悪い話はあるものだ。
「語ったは語ったけど、記事にするなら気を付けた方が良いよ。消された人とかいるから」
「!!え、今までのお話。ガチだからですか!?」
「うん。世界でも内緒にしてること、もみ消すことは良くあるからさ」
名誉と人望があるから、リガー・ロペスは別に消されない。