表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「 夏のホラー 2020 」投稿作品

♥ ベンチの下に居る「 夏のホラー2020 」

作者: 雪*苺


 かの駅のベンチの下には、る。


 なんなのか、誰も正体を知らない。


 は決まったベンチの下にはない。


 は神出鬼没だ。


 を見たら「 ラッキー♪ 」だと喜ぶ人もれば、「 アンラッキ〜〜 」だと落ち込む人もる。


 人によってなにが違うのだろうか……。


 誰にでも見えるわけじゃないらしい。


 興味はある。


 「 見てみたい 」って思う時もある。


 だけど、「 見たくない 」って思う自分がる。


 生憎と僕には見えない。


 だけど、僕の兄妹は見えるみたいだ。


 兄妹と僕は三つ子だ。


 どうして、長子の兄と長女の妹が見えて、次男の僕が見えないんだ?


 今日きょうも、兄と妹は駅のベンチにないか探している。


 見付けたからって、どうなる訳でもないのに、なんで探したがるんだろう??


いさむ、もういい加減しようよ…… 」

「 もう、ちょっとだけ! 」

「 動画に撮って投稿すれば、絶対にバズると思うんだ 」

「 バズるどころか炎上するんじゃないの?

  インチキだとか合成だとか書き込まれてさ 」

「 …………今日きょうないね〜〜 」

「 他の駅のベンチの下にるのかもな… 」

「 …………なんで夏休みに駅巡りして見えない奴を探さないといけないんだよ… 」

「 いいだろ、別に。

  暇なんだからさ! 」

いさむ、次の駅に行こ! 」

「 そうだな 」

「 ねぇ、僕だけ帰っていいかな? 」

「「 駄目!! 」」











 私は


 三つ子の(とも)()にはが見えない。


 を見付けて捕まえられたら、願いを叶えてもらえるジンクスがある。


 だから、三つ子の長男(いさむ)を探してる。


 ジンクスが本当ほんとに叶うか保証なんてない。


 無駄な悪足掻きなのかも知れない。


 だけど、いさむと私はなにかにすがって、心の拠り所にしたいのだ。


 を見たら「 ラッキー♪ 」だと喜ぶ人と「 アンラッキ〜〜 」だと落ち込む人が出るのは、ジンクスが関係してるから。


 なにをすればジンクスどおりになるのかは分からない。


 いさむも私もジンクスの内容を知らないから。


 ジンクスは発見したによって違うらしい。


 だけど、どんなジンクスだって構わない。


 どんなジンクスも挑んで、必ずやり遂げてみせる。


 そんでもって、ともを助けるんだ!!






「 ………………はぁ…。

  ねぇ、まで続けるのさ… 」


 僕にはが見えないから暇で仕方無い。


 僕はベンチに腰を下ろして、自動販売機で買ったアイスを頬張りながらいさむを見ている。


 …………暑いのに頑張るなぁ。


 ほど(ほど)にしないと日射病…いや、熱中症になるんじゃないかな?


 倒れられても困るよ…。


 そんなにを見たいのかな??


「 はぁ…………駄目だな…。

  ない… 」

「 ねぇ、この目撃情報って確かなんだよね? 」

「 あぁ、確かだよ。

  とも、地下鉄に移動するぞ 」

「 そっか、地下鉄にもベンチはあるもんね! 」

「 地下鉄って……。

  まだ探す気なの?? 」











 地下鉄へ続く階段を駆け下りる。


 今はもう地下鉄は使われていない。


 今は、磁石の反発力と引き付け力を利用したリニアモーターカーが主流になってている。


 今や地上では無人駅が増えつつあるし、地下鉄もじょ(じょ)にではあるが、廃れつつあった。


 この地下鉄は既に使われない廃線となってから7年も経っていた。


「 …………暗いね。

  小型ランプ持ってかったね 」


 LEDエルイーディよりも省エネで明るい “ UEDユゥイーディ ” を使う小型ランプは半径20mを明るく照らしてくれる。


いさむ〜〜、ベンチあるよ〜! 」


 いさむは地下鉄に設置されているベンチの下を調べ始めた。


「 …………もう、諦めようよ… 」


 僕の小さな呟きは暗闇に吸い込まれるかのように虚しく消え去る。


 なんかの溜め息をいた頃だろう、カサリ……と物音がした。


 音のない静かな地下鉄だから、小さな物音も大きく聞こえる。


 風なんて吹いてないから、なにかが動くなんて事はない。


 野良鼠とか、蛇とか、昆虫とかが動いた音かも知れない。


 早く地上に戻りたいんだけど、いさむを残して地下鉄から出るのもなぁ……。


 ヒソヒソヒソヒソ──。


 なにかが聞こえる??


 ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ──。


 なんか…いやな空気が流れ込んでた??


 ヒソヒソヒソヒソ──。


 いさむを探すのに夢中で聞こえていないみたいだ。


 ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ──。


 ……………………もしかして…僕にしか聞こえてない??


 さっきからか聞こえる「 ヒソヒソ… 」という “ なにか ” が、少しずつ僕に近付いてているような気がする。


 ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ──。

 ヒソヒソヒソヒソ──。

 ヒソヒソ──。

 ヒソヒソヒソ──。

 ヒソヒソヒソヒソヒソ──。


 もしかして……僕…「 ヒソヒソ 」に囲まれてる??


 これって…もしかして…まずい状況なんじゃ──。


 なにかがる?!


 気配を感じる気がするのに、姿は見えない。


 …………僕が “ 見えない ” からなのか??


 だけども…確かに「 ヒソヒソ 」と聞こえるんだ。


 たらいけない??


 早くから離れるべき??


 どうしたら……いいんだよ?!


 誰か教えてほしい!!


 ──あんな所にベンチ…………あった…かなぁ??


 僕の頭の中では「 動かない方がい 」って言い聞かせるように煩いほどのサイレンが鳴っている。


 だけど、あのベンチが妙に気になって仕方無い……。


 好奇心が僕の両足をベンチのある場所へ動かす。


 僕はまるで、好奇心に負けてしまった猫のような気分だ。


 好奇心に殺される猫。


 僕は……で死ぬのかな??


 ベンチの下でなにかが動いたように見えたのは僕の気の所為なのか……。


 そうであってもらいたい。


 だって僕は “ 見えない人 ” なんだから──。











「 ──いさむともないの。

  に行っちゃったのかな? 」

「 地下鉄から出たのかも知れないな 」

「 私達になにも言わないで? 」

「 かなりしてただろ? 」

「 怒って地上に出たのかも… 」

「 …………にもないかったね。

  に行ったらを見付けられるのかな… 」

「 分からない…。

  次の駅に向かおう。

  ともに連絡してくれるか 」

「 うん、いいよ 」


 私は腰に付けてるポーチバッグの中からスマホを出して、とものスマホに掛けた。


 かでスマホの着信が鳴る。


「 ──ともの着メロ!?

  ともったらスマホを落としちゃったのかしら?? 」

彼処あそこだ!

  彼処あそこだけ光ってる 」


 いさむと私は光っている場所へ向かって走った。


とものスマホだ…。

  なんでこんな所に落としてるんだ?? 」

「 ねぇ…いさむ……、ともも小型ランプを持ってたよね? 」

「 あぁ、持ってた筈だけど。

  それがどうしたんだ? 」

「 …………見て、これ…。

  壊れてるの…。

  それに…もう、なん十年も経ってるみたいにボロボロだよ… 」

「 そう言われてみれば、そうだな… 」

「 よく見るとスマホも長い間、放置されてたみたいによごれてない? 」

「 ………………。

  地下鉄に下りてからだ1時間も経ってないぞ 」

「 そうだよね…。

  変だよね…オカシイ…よね… 」

「 一旦、外に出よう。

  …………もしかしたら、ともも外に出てるかも知れないし 」

「 そうだね… 」


 いさむと決めて、地下鉄から出る事にした。


 いさむと私はともが外に出ている事を願いながら地上に続く階段を上がった。











「 ──待って!!

  行かないで!!

  僕を置いて行かないで!!

  僕はるよ!!

  ちゃんと、るんだよっ!!

  どうして僕の声が聞こえないの!?

  いさむっ!!

  っ!!

  ──僕をから引っ張り出してよっ!!!! 」


 どんなに必死に声を荒げても、いさむは全く気付いてくれない。


 いさむは、気付いてほしくてわざと落としたスマホと小型ランプを持ったまま階段へ向かって遠ざかって行く。


「 僕はるんだよ!

  助けてよ!!

  ──ベンチの下から僕を出してくれっ!!!! 」


 もう、あの「 ヒソヒソ 」は聞こえない。


 僕は静かな暗闇の中で見付けてもらえる日がるのを1人で待つしかないのか──。











 駅にはジンクスがある。


 「 ヒソヒソ 」が聞こえたら、ベンチの下から出られなくなる。


 駅で「 ヒソヒソ 」が聞こえてしまった人は、どうか諦めてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ