『終わらない夜』が終わる時
「ああ……本当に綺麗だわ……」
いつも通り私が日向ぼっこをしていると、ヨミコさんが私の隣にいた『終わらない夜』を見つめながら、うっとりと囁いた。
確かに、私がヨミコさんのもとに来た時から美しかった『終わらない夜』は、このところますます綺麗になっていた。すらっと背が高く、日に当たると眩しい程の白が輝く。しゃんとしているけれど、どこか可愛らしさもあるその立ち姿にヨミコさんが見とれるのも、無理からぬ事だった。
ヨミコさんは満足そうだった。そして、「そろそろかしらね」と呟く。
ヨミコさんは、『終わらない夜』の傍を離れると、どこか憑りつかれたような目つきで近くの棚の引き出しを開け、中からハサミを取り出した。
ヨミコさんはその刃を、『終わらない夜』に向ける。
「今が、あなたの一番美しい時ね」
ヨミコさんは熱の籠った目で、開けたハサミの刃を、勢いよく閉じた。
悲鳴は声にならなかった。
ポロリ、とまるでギロチンにかけられたように、かつては『終わらない夜』の一部だったものが、床に落ちた。
刃を開いては閉じ、開いては閉じ、ヨミコさんは同じ動作を何度も何度も繰り返した。床が『終わらない夜』の残骸だらけになっていく。あんなに大切にしていたのに、ヨミコさんはそれを、まるでゴミのように遠慮なく踏んでいた。私はその光景を、『終わらない夜』の隣で、戦慄しながら見ていた。いや、見ているしかなかったのだ。
『終わらない夜』は、ヨミコさんの蛮行をただ唯々諾々と受け入れている。当然だ。『終わらない夜』は、ヨミコさんに抵抗する事なんて出来ないのだから。
「綺麗な形になったわね」
散々に切り刻まれた『終わらない夜』は死んでしまった。かつては高かった背も、今では見る影もない。
それでもヨミコさんは、今の方がずっといいのだと言わんばかりに、昔と変わらぬ仕草で、彼女の理想を詰め込んだ姿となった、『終わらない夜』を撫でていた。