3章『緑の練成術師、神になる』pert4
3章『緑の練成術師、神になる』pert4
小話「役立たずの住人」②
連楽船にて・・・
「おう、よく来たな。まずは自己紹介をしよう。俺は理慎 数一。貴様は?」
「シーナ。名前は無い。」
数一「ほぅ。孤児か。」
シーナ「いや、捨てたんだ。あんな親のどこがいいんだか。」
数一「よければ聞かせてくれないか?」
シーナ「どうせ短き人生・・・かな?生い立ちは平和だったが、その頃から親父が酒煙で遊んでいた。だから当日は私の前にも現れなかったんだ。それから、小学校に入って3年ぐらいのとき、あいつは安月給の仕事をも止めて、母を働かし、奴は家でごろごろ馬鹿らしい生活を送っていた。そんなある日にぶちぎれた母が奴を追い出した。その後奴を見たことは・・・」
数一「・・すまなかった。」
シーナ「おっと、着いたみたいだな。」
「おい、そこの二人、さっさと出てきなさい。・・・ご飯時よ。」
姉「私ね、弟と一緒に母さんとじいちゃんの昔を再現していたの、楽しかった。」
母「ふふ、私の昔話がそんなに気に入ったかしら?後で続きを聞かせてあげる。」
目覚めると、村の駅前に居る。左を向くとチュナが、右を向くと変事さんが。
変事「さあ、此処が村の駅、始伝駅だ。右から伝記車という汽車がやってくるからそれに乗るんだ。」
造「それで、どこに停まるんですか?」
変事「終点だよ。この世界から一番近い駅で。」
造「近いとこっと言うと、若松駅ですか?」
変事「どうせ利用客が居ないから好都合だろ。お~来た来た。」
あの時のSLが白煙を吐き、茶色い客車を牽き、こちらへ向かってくる。運転室を覗けたが、運転手が見当たらない。自動運転だろうか?白煙を先頭から前へ勢いよく撒き散らし、汽車は短く停まる。客車はあまり広くない。暗木の空間にただ暗木の端と青のクッションの横長座席が後前向きで続いていて、壁にランプ、上に網が張ってあるだけだ。ほかに乗り降りする者もいないので、前の客車の前の座席に座る。向かい合いで座った変事さんが尋ねてくる。
変事「ところで造君、想造神としての仕事はどうだい?」
造「門番のあさみさんに強力な団扇を造りました。」
変事「あ~ライトファミリーの。確かに今日は奴らが来ていないって聞いたよ。と言うか聞こえた。君のおかげだったのか。」
造「注文されたのをコンピュータに打ち込んだだけですよ。」
出発の合図の汽笛が鳴り、伝記車は前に進みだした。いくらか暗いままだったが突然明るくなる。門の中を走っていたものが、山と山の間を走っている。少し浮いた。いつしか地面が見えなくなり、海が見えてくる。ある程度座っていると町が見えた。右に赤い橋が見えるので若松だろう。洞海湾の上空に浮きながら左の駅に車止めの方から停車した。誰も居ない無人駅だ。前からそうだが・・・海沿いに歩いていき大きなコンクリートの塊に沿って左に曲がり、赤い橋をくぐり、三つに分かれた交差点の向こうに我が工房の喫茶『発明所』がある。なぜか外見はそのままで・・・ガラスが所々割れ中を覗いても意識を失う前と同じ配置のテーブルと椅子がある。そうしていると急に南風が強くなったと感じる。洞海湾の方面を向くと、砂をまとった竜巻が向かって来ている。逃げようとしたその時、左の空に浮いて現れた物体がある。小型木帆船のような・・・その船首に一人の人が立っている。白き羽衣、緑のスカート・・・手に何か持っている。太い拳銃のようなもので竜巻を狙っているのか?弾丸ではどうにも出来ない風の塊をどうやって鎮めるのだろう?引き金を引き、少し反動があったらしい。ふらつき、何かを当て続け、竜巻は打ち消される。しかしその人は挨拶する気配もなく、姿が見えない。
「造殿、早く入ろうよ。また竜巻が来るかもしれないし・・・」
チュナに促されるが南の空に積乱雲が見える・・・
店内に入っても変わっていないと思っている。カウンターの左を通り、厨房に行ったら変わり果てた姿が・・・
調理台の鍋は正面を左にひっくり返り、台の左の流しの横に在るはずの調理器具は、すべて玄関側に寄っている。想像できるだろうか?ここで何があったのか。さっきまで空気だった二人が口を開く。
変事「造君、地下室も見なくちゃね。」
チュナ「そうそう、地下室。私も気になるな~」
造「地下室は、こっちだったな。」
私は調理台の前に立ち、コーヒー豆引き器の底蓋近くを台の上で右にずらす。すると、
左一番奥の集団席の近くで『トンットト』という音がする。それは通路に分かれ道を作った。道の先には石造りのスロープが下へ続いている。10段分ほど下るとフロアに繋がっている。中央に大きな丸いガラス容器が置いてあり、右手にはチャーハンやピザ、アイスクリームなどの料理が多く置いてある。左手には顕微鏡に設計図、ドライバーやグルーガンが置いてある。いや、待てよ・・・ここも地球と繋がっているんだ。だから、すべて東に吹っ飛ぶはず。どうして机にきちんと置いてあるんだ?
チュナ「やったね変事君。見事に驚いているよ。」
造「どういうことだ?」
「それは私が説明しましょう。簡単なことです。」
部屋の中央の扉が開いて、誇らしげに微笑む宝さんが現れた。
宝「貴方が此処からいなくなる前に、私達はこの店の物を出来る限り動かないように改造しました。居なくなったら掃除を始めたんです。その時間に料理を作ってみた訳です。」
話を聞きながら、私は扉の横の潜望鏡の近くに歩いてきている。その左にパイプが落ちている。潜望鏡を覗く前に机に置いていたはずなのに。全体的に薄茶色だが、底のほうが赤黒く塗装されている。これは着信用でこちらからかけることはできない。番号は8231で登録している。
変事「造君、その扉を開けくれ。良い物が在る。」
開けるとそこには二台の車が。右に白く長い車、左にブレーキランプが四角の黄色に茶色のラインの普通車。その間にエレベータのレバーがあるので上に行くことが出来る。
変事「さあ造君、選ぶんだ。どちらにも浮遊装置と時関エンジンが取り付けられている。」
昔見た車を選ぶことにしよう。早速乗ってみたかったが足止めを食らった。もしこれで過去に飛んでもすばらしい能力が備わっていないからだ。
変事「あ、もうすぐ夕暮れ時じゃないか。早くしないと見えなくなっちゃう。造君、この社会の常識を見せたいから上に行かなくては。」
造「常識?」
変事「見れば分かる。」
続く・・・