一章『始まりの唄』pert2
一章 始まりの唄 pert2
今年は二千二十年の秋。私は上海 冷菓。とうとう念願の大学生になった。この大学、理工文化大学で地球の言語がどのように生まれたのか知るために受験した。私の容姿は、黒髪で背も高くないので周りからは、人形みたいでかわいいと言われてきた。それだからか昔から人形が好きだ。ので、人形劇をやってみようと題材を集めることにした。そのため授業が終われば近くの商店街に本を探しに行っている。
ある昼下がり・・・私は、題材に困って自然が多い大学の裏山へ行った。最初は花などを見ていたが、その先に川が見えてきた。その川に沿って山を登っていくと滝が在ったので、へぇ~この山にこんな所が在ったんだ。と思って、滝の前に在る岩達を踏んで対岸に渡った。そして、来た道の対岸でまた川に沿って下った。この川は、一筋で分岐していないはずなのでさっき来た道の対岸にいけるはずだった。
しかしいくら行っても、さっき来た道が見えることはなかった。不安になりながら先を急ぐと左の森から人間が現れた。私は
「あ!」
と驚くがその人は
「うん?」
と言って、
「君は誰?」
と聞かれて、
「はい?・・・あ!氏名は上海 冷菓です。」
と答えた。その人は女性で、金髪の短髪、青い瞳であった。そして、衣装は濃い青色のセーラー服に赤色のネクタイをし、丈の長い大人らしいスカートを着ていた。彼女は
「へぇ、珍しい名前。私は、ZEUNY(ゼウ二―)です。この宇宙船の副船長を任されています。」
と私は
「え?宇宙船?ここは地球の理工文化大学の裏山ですよね?」
と反応すると
ゼウニー「ええ、そう伺っていますが。ここは宇宙船PMG(宇宙の記憶の終着点)号ですよ。」
と返ってきたが私は
「おかしいじゃないですか。今まで私たちが気づかずに宇宙船が在るなんて。」
と反論したがゼウニーは冷静で
「貴方たちが生まれたのはつい最近のことでしょう。その前にここに在ったのならば不思議じゃあありませんね?」
と言われて何も言い返せなかったが
ゼウニー「ところで、なぜ貴方はここに居るのですか?私は副船長なのでこの船の見回りに来たのですよ。」
と聞かれ私は
「はぁ・・・私は人形劇の題材を考えるためにここに来たんです。」
と答えた。そう言うと彼女の反応は
「じゃあこの船を私が案内しましょうか?」
ということだった。
冷菓「う~ん、でも時間がですね。」
と心配していると
ゼウニー「ふふ、大丈夫ですよ。この船は特殊船ですよ。ここの時間軸は外の時間軸とは違うのでここで時間がいくら過ぎても外では1秒ぐらいしか経っていないんですよ。」
冷菓「あ、そうですね。それなら行っても良いですね。」
ゼウニー「よし、ではまず此処について説明しますと、船の最上部となりましてテーマは『地球の恵み』を表しています。貴方もここに来るまでに見たでしょう?貴方の村?・・・町もその一部なんですよ。この船の圏内ならば何処でもワープ出来るんですよ、このワームホールでですね。」
と言いながらゼウニーは左の手のひらを上にして左方面に伸ばすと輪郭が青く光っているが奥の森しか写っていないホールが出てきた。そして続けた。
ゼウニー「この船について詳しく説明しますと、宇宙の謎を解き、記録するために未来で造られまして。まずは過去に行き宇宙の分子結合を記録しました。それから今までたくさんの出来事を記録しましたが、言語については私達の活きている時代でも争いが起きているんです。つまり言語について今まで統一化されていなかったからだとエンジニアは述べていました。そして未来では宇宙を解明し、宇宙全体で通用する言語(宇宙語)が必要だとも述べていて、その前に地球全体で協力するために通用する言語(地球語)が必要だったと言うことでした。あ、言ってなかったですが私、アンドロイドなんです。自分では分りきっていた事なのですが、私のエンジニアが私のことを
「人間だ人間だ。君は私達が産んだ。だから人間なんだ。」
と言い張るので人間と言うようにしているんです。まぁ、宇宙について記録し、未来をよりよい社会に変える為に、過去に忠告する為に、ここに我々が存在していると思ってくれれば良いです。貴方たちがやらなければいけないことが分かりましたか?」
と長々聞かされたうえ、尋ねられて
冷菓「・・・まぁなんとなく。」
と答えたがゼウニーは
「きっと難しかったでしょう?資料室に案内しますよ。どうしますか?」
と聞かれたので人形劇に使えるならばと思って
冷菓「行ってみます。」
と答えたのでゼウニーは
「ふふ、嬉しいです。では私に着いて来てくださいね。」
そう言うとワームホールの景色が緑色の森から本がぎっしり入った茶色い本棚の列が奥に続いている場所に変わった。私達はその景色の中へ潜って入った。そして私の足が紅いじゅうたんに着くとワームホールの出口が閉じられてゼウニーが口を開いた。
「此処はこの船の最上部に在る湖の中心に在る、屋敷の地下に在る資料室です。あるある言いすぎですね・・・資料本はあいうえお順に並ばされています。」
と言いながら歩いているゼウニーの後ろを付いて行くと、言語の「け」の棚に来た。そして右下の本を取って言った。
ゼウニー「この本は今まで調査した言語について記しています。日本語や英語はもちろんさまざまな言語が記載されていますが一番最初に地球外で記録された言語がありまして、私たちはマンゴラ語と名付けました。この言語を発見した場所は、太陽系の隣の星系で地球と同じ環境、同じ自公転周期で存在しています。なので、私達はその惑星をメソポタミア星と名付けました。そしてこの星に文化を持った生命体が生息していたのです。」
そのときの私は口を挟んで、
「それではマンゴラ星人だったのでは?」
と結論を言ったと思ったが、
ゼウニー「いいえ、それが少し違ったんです。」
冷菓「う~んなぜですか?」
ゼウニー「他にも資料は在りますが不思議な植物について教えておきます。」
と言って「め」の棚に行って「珍しい植物」と言う本を見せてくれた。
ゼウニー「この本の中にマンドラゴラと言う植物が記録されています。この植物に似ているから名付けたのですが、彼らは住ませてもらっているのであって、支配しているのではないと言っていたのですよ。だから文化は彼らの見た目からマンゴラにしていますが、惑星自体の名前にはしないでほしいという訳です。」
とゼウニーが説明してくれた。しかし・・・
ゼウニー「休憩にしましょうか?トイレに行ったりお茶にしましょう。」
と言って場所を教えてくれた。
トイレに行き、教えられた場所に行くと、ゼウニーが既に長テーブルの前でお茶の準備をしていて
「あ、お帰りなさい。温かい緑茶がいいですか?温かい紅茶がいいですか?」
と聞いてきたので
冷菓「温かい緑茶で。」
と答えるとゼウニーが二つのうち一方のティーポットで緑茶を私用の乳白色の海に浮かび上がる金色の小波のようなデザインのカップに入れ、もう一方のティーポットで紅茶をゼウニーの同形同色のカップに入れて
「座って良いですよ。」
と言われたので私たちは向かい会ってお茶を飲んで話をした。先に口を開けたのはゼウニーだった。
「このお茶はこの船の最上部の村で生産されました。」
そのことに対して
冷菓「へぇ~近くで生産されているとは思いませんでした。」
と答えた
ゼウニー「この船は森に囲まれていますからあんまり人がやって来ず、館があることも分からなかったのでしょう。さて、これからについてですが、もう少し資料室を見ますか?それとも別の場所に行きますか?」
冷菓「それじゃあもう少し資料室を見てみたいです。」
ゼウニー「そうですか、では一緒に行きましょう。」
と言って席を立った。
ゼウニー「では、何について調べたいですか?他には建築、心理、道具、人形についても記していますよ。」
冷菓「へぇ~では・・・」
まぁいろいろ見て回って。
ゼウニー「お気に召しましたか?そろそろ次のところに行ってみてはいかがでしょう。機関室を見に行きましょう。」
冷菓「と、言うことはこの船がどのように動くのか分かるというのですか?しかし関係者以外だめなのでは?」
ゼウニー「いいえ、良いですよ。実は私達は貴方を待っていたんです。貴方は私たちにとっての大事な人なのです。とエンジニア達から事預かってありますので。では行きましょうか。またワームホールを通って行きます。しかし貴方にはまだ全部を見させる訳にはいかないのです。貴方の役目を果たしてから、となります。準備ができたらお声かけください。」
よく分からないがトイレに行ってゼウニーに声をかけた。
「お帰りなさい。準備は出来ましか?」
冷菓「トイレに行ったので大丈夫だと思います。」
ゼウニー「それでは行きましょう。」
と言ってゼウニーは案内を続けた。ワームホールを抜けた先には巨大で太い筒のようなものがあった。
ゼウニー「この筒は何と思いますか?」
冷菓「う~ん、液体か何かが入っているのですか?」
ゼウニー「ふふ、半分正解です。液体窒素が入っている発電装置です。そこに在るハンドルを回して発電するんです。回して見ますか?大丈夫ですよ。電源は切ってありますから。」
冷菓「では回してきます。」
と言って銀色のハンドルに手をかけた。そして確かに回しているのだがすごく軽く、赤子の手をひねるようだった。
冷菓「どうしてこんなに軽いのですか?」
ゼウニー「あぁ、そのことなら超電導によって磁力が小さくても大量発電ができるからですよ。」
冷菓「へえ~そんなことができるのですか。」
ゼウニー「はい、そしてこの他にもかざぐるまや水力発電が主な発電方法です。さぁ、次の機関に行きましょう。」
冷菓「次はどこですか?」
ゼウニー「通信施設や操縦施設に行きます。何か不満ですか?」
冷菓「いえ、あらかじめ場所を知っておきたかっただけです。」
ゼウニー「そうですか、次からは気をつけますね。では参りましょう。」
もう慣れたことだがワームホールがモニターのある場所に繋がった。着いてみるとそこには結構な人が居た。今までこの船で人に出会わなかったので不安だったが此処に来てほっとした。
ゼウニー「此処はさっき言った通信施設です。此処ではエンジニアの船長の活動に感心したナマモノの人間が集まっています。あ!すみませんこんなことを言って・・・」すると横から
「いや、いいと思いますよ。私達はどうあがいてもナマモノですから。」
と知らない男性が声をかけた。
ゼウニー「う、係長・・・」
係長「ん?そちらのべっぴんさんは、どなたですか?」
「初めまして上海 冷菓といいます。」
係長「おお、と言うと船長が言っていた方ですか。私はここの通信係長の報野 正治といいますよろしくです。」
ゼウニー「それで係長?指令は来ましたか?」
係長「いえ、まだ来ていませんがそろそろ予定時刻だと思います。」
ゼウニー「そう、それならちょうど良かった。冷菓さん、あの巨大モニターを見てください。」
と言われたので私達はそちらに目をやるとモニターの画面が変わった。
そこには船長とは思えない、緑のコートを着た高校生ぐらいの人物が映っていた。彼はなぜか茶色い杖を持っていたのだが・・・そして彼はこう言った。
「盟友のみなさんこんちは。ん?見ない顔が居るね、新入りかい?」
と聞かれたが、ゼウニーが
「この子は貴方が話していた、上海 冷菓です。」
船長「おお!とうとう君が着てくれたんだね。ずっと六十年ぐらい待って居たんだよ。」
彼の言葉には耳を疑うしかなかった。なので私は彼にこの疑問を投げかけた。すると彼は嬉しそうに、
「それはね、不老長寿になったからだよ。でも、私もどうやってなったのかは知らないんだ。ところで副船長?この子に例のことは伝えたのかい?」
ゼウニー「ええ、一応伝えましたが忘れてしまうと困るので後で資料を渡すつもりです。」
船長「へぇ~気が利くじゃないか。さすが私の子だ。」
という会話が続いた。ゼウニーは近況報告を行い船長は更なる指示をした。その内容は地球の自転がなぜ停まったのかを調べてくれと言うことだった。それらを伝えてモニターは真っ黒になった。そうなって気づいたのだが、船長の名を聞くのを忘れていたのでゼウニーに聞いてみたが、
「いずれ未来でその時がくれば分かるでしょう。今は貴方に出来ることを尽くしてください。」
と、詳しくは教えてくれなかった。だが、ゼウニーは気を取り直してと言わんばかりに、
「次はこの船の操船室に案内します。準備はよろしいですか?トイレは後ろの扉を出て左にありますが。」
と言われたので行って来る事にした。
ゼウニー「さて行きましょうか。操船室にはあちらの扉から行くことが出来ます。」
と、左の扉に腕を伸ばした。操船室だからハイテクかと思ったが、数十個のテレビとダイアルやレバーが有るだけだった。ゼウニーは私を見て
「かなり驚いていますね。もっと複雑と思っていたのでしょうが簡単な事とは良い事ですから。」
冷菓「へぇ~人類は簡単な世界を望んでいるのですね。」
ゼウニー「はい、貴方の存在世界もそろそろ変わるでしょう。さあ、もう貴方に見せられる物事は無いと思いますので、事の発端へ戻るとしましょう。」
冷菓「発端?」
ゼウニー「つまり私と貴方が出会った、あの場所に記憶はそのままでワープするのです。」
するとワームホールが開いて、並木道が続く道へ私達は出た。
ゼウニー「此処から先に行くと貴方の大学に着きます。では、私達は次の任務がありますのでそろそろお別れです。私達は未来で繋がっているのです。最後にこれを持っていてください。」
と一枚の紙を私に手渡した。内容はこれからの私に与えられた任務のことだった。
ゼウニー「貴方達は私達にとっての望みです。皆にまず、地球言語統一を促して、その後に宇宙に共通の言葉を作ってくださいね。このことを忘れないでください。ではまた後ほど。」
と言われて別れたが、ふと振り返ると、彼女の周りに出会ったときから居た蛍たちが飛び交っていた。
続く・・