1 ミルクは熱めで返事は元気に
初めまして! どうぞよろしくお願いします。
「みーちゃーん、もうすぐでミルクできまちゅよー」
「うぅぅあ!」
「うんうん、お腹空いてるよねー。熱くないかな、大丈夫かな?」
「うっ、ぅえええ!」
「焦らしてる訳じゃないから、ね? はい、ミルクでちゅよー」
なんてほほえましい光景。と、思った? あ、ちょっよミルク熱いかな。でも、この、体の芯から温まる感じ? 最高。
……うん、わたしもね、どうしてこうなっているのやら、わからないんだ。
気づいたら、どこかの名探偵よりも体が縮んでいて、抱っこされていたんだよ。
手足の感覚は全く無いし、目も全然見えなくて、舌もうまく動かない。音だけは聞こえるんだけどね。
もともとは高等学校の三年生だったのに、今は、ミルクを飲んでいて離乳食は食べたことないから、0歳数ヶ月くらいかなー、たぶん。
というか、今使ってるの哺乳瓶だよねー。
わたしが赤ちゃんになってる! って気づいた時から、今まで、ずっと瓶だったはず。粉ミルクの方が栄養に偏りが無いから良いって聞くけど、免疫力とかは大丈夫なのかな。不安やわー。体強くした方が良いかもしれないな。
そのためにも今できること。それは……
「うわあああん!」
泣くことかなぁ。
泣くことを決めた日から、たくさん時間が経った、と思う。
朝に泣き、昼に泣き、ママかパパの携帯に電話が来たら静かにして、ママとパパが寝る時間には、私も寝る。
感覚は無いけど、適当に手足をバタバタしてみたら、意外に楽しかった。
なんか、自分で動かしてるはずなのに、鞭みたいに動くんだよ。シュッてやったらビュッってなるんだよ、わかる? 同じ赤ちゃんならわかるかな?
まあ、楽しかったから手足はたくさんブンブンしたのだ。何度かベッドの柵に手が当たったのは、痛い思い出だよ。ぐすん。
「みーちゃんは元気ねー」
「うちの子は将来、新体操の選手になれるな!」
「え? フィギュアスケートに決まってるじゃない。何言ってるの?」
「ん?」「ん?」
……この二人(両親)がいる前では、あまりやらないようにしよう。
うわ、二人とも笑顔が引きつってるよ。こ、こわー。
そんなことがあった日から、更に時間が経った。
たぶん今のわたしは、3ヶ月を過ぎた辺りだろう。
なぜわかるのかって? 今、病院に居るんだよね。たぶんこれ、3ヶ月検診だと思うんだ。ママパパがそう言ってたし。
今一緒にいるのはパパで、ママはお仕事にいくみたいだった。
そうそう、たぶんだけど、パパすごいカッコいいと思う。だってさっきから、視線をすごい感じるんだもん。
「のぞみは人気だなぁ」
人気なのはパパだよ。あ、そうそう。わたしはのぞみっていう名前らしい。漢字はわからないけど、たぶん希望とか望海とかじゃないかなー、って思ってる。
なるべく変な漢字、主に無駄に凝ったきらきらネームじゃないことを、神様に祈るのみ!
「のぞみちゃーん。のぞみちゃんはいらっしゃいますかー」
「ああう!」
名前を呼ばれて大きな声で返事! わたしって頭いいから、言葉わかっちゃうんだよね。
ヘッてドヤ顔してみる。
「のぞみ…! あとで由美に話さなきゃ!」
「お利口さんですねー。それでは、ご案内しますね」
「その前に、数枚だけ写真を撮らせてください!」
「ええと、他の人も待っていますから。それに、病院内での携帯電話のご使用もお控えください」
本当にダメなパパだなぁ。
「す、すいません」
「あうあうー」
そんなことがあった日以来、特に何事もなく、強いて言えば、やっと物を食べられるようになったことかな。
それでもまだ、10杯がゆとか、擂り潰した野菜とか、転生前と比べれば全然ごはんって感じじゃないんだけどね。それでもお腹がいっぱいになることは不思議だけどね。
あ、あと、歩けるようになった。前世での記憶が残ってたから、今ならある程度は走れるんだ。
……嘘です、見栄貼りました。数歩歩いたら足がもつれて転んじゃうし、走ろうと力を込めても、上手く力が伝わらないんですよ。前世と体が違うから、勝手が違くて、慣れるまでに時間がかかるんだよ。本当ならもっと早くに、走り始める予定だったのにな。
まぁ、当面の目標としては、移動方法の確立。だって少し太ってきた気もするし、あくまで気がするだけだからね! まだ量ってないから、わからないけどね。それに、ある程度歩けた方が便利だし、幼稚園に入る3歳になるまでには、走れるようにしたい。
手足パタパタして、子供の頃から運動してたから、筋肉はあるはずなんだよね。運動のカン? みたいなものを。この体に慣れれば、走れるようになるはずなんだよー。
まあ、ゆっくりやっていきますか。