結(間咲担当)
「フハハハハハハ! これで幕引きだよ梅子お姉ちゃん! この魔王である私が、地球諸共お姉ちゃんの物語にピリオドを打ってあげるよ!」
「ま、待って! お願いだから私の話を聞いてちょうだい松子!」
「ファラオッホッホッホ、これはお困りになりましたね梅子様。これにはプトレマイオス朝もビックリ」
「パトラ! あなたはそろそろ緊張感って言葉を覚えて!」
「フンッ! 何よどいつもこいつもおっぷぁいが大きい女ばっかり! こんなことならさっさと日本を傾国しとくんだったわ!」
「楊貴妃! 傾国は一日一回までって言ったでしょ!」
「今日は~、温故知新ってことどぅえ~、敢えて縄文土器を焼いてみむぁした」
「卑弥呼! あなたは帰って!」
どうしてこうなった……。
あの時、ドキドキしながらアミダにペンを走らせた俺だったが、あと少しでゴールというところで――
「……ハッ、ハアアァックションッッ!!!」
「「「っ!?」」」
と、盛大なくしゃみを放ってしまい、手が滑って、三つの世界全てに線を引いてしまったのだった。
……あれ?
この場合、どうなるの?
「「「……あーあ」」」
「え?」
そして俺は神っぽい奴等から、「こいつマジか……」とでも言いたげな視線を感じながら、意識が再浮上していくのを感じた。
「フハハハハハハ! 覚悟しなさいお姉ちゃん!」
「いやだから話を聞いてってば松子ッ!」
こうして冒頭のシーンへと繋がるのだが、俺が戻ってきた世界は、何と三つの世界がごちゃ混ぜになってしまった世界だった。
世界観は地球の日本。
ここでは俺はヴァイオレットではなく、梅子という名前の女になっていた。
そしてクソ性格の悪い妹は松子という名に。
更にパトラと楊貴妃と卑弥呼もちゃっかり俺と幼馴染という設定になっており、その上あろうことか条件が『クソ性格の悪い妹へのざまぁ、兼、真実の愛を探すこと』に格上げになっていた。
更に更に、松子の前世は魔王という設定らしく、前世の記憶を取り戻した松子は、急に魔王ムーブを醸し始め、我が家のリビングで今まさに究極魔法をぶっ放そうとしているのであった。
オーマイガッ!(ゴッドジョーク)
生活対応の能力しかない俺が、魔王の妹をざまぁした上で、真実の愛まで探さなくちゃいけないの!?
何というエクストラハードモードッッ!!!
「私の究極魔法は核ミサイルの5000兆倍の威力だから、地球なんか一撃で木端微塵にしちゃうんだから!」
「核ミサイルの5000兆倍!?!?!?」
スケールガバガバ過ぎない!?
「ファラオッホッホッホ、つまりそれはプトレマイオス朝の50兆倍に相当するということですね?」
「あなたはプトレマイオス朝を何だと思ってるの!?」
「フンッ! い、言っとくけど、私は核ミサイルを傾国したこともあるんだからねッ!」
「それ以上虚しい強がりはやめて!」
「この縄文土器は~、ここの縄のラインがマジ卍じゃぬぅえ?」
「卑弥呼! あなたは帰ってッッ!!!」
あー、もう終わりだ!!
今度こそ俺のクソみたいな人生も終わりだああああああ!!!!
「……ホホホ、まだですよ梅子様」
「――え?」
パ、パトラ?
「フンッ、そうね、こんなやつに好きにされるのは、我慢ならないわ」
「っ!」
楊貴妃!?
「うん、ここで諦めたら、邪馬台国魂に傷が付いちゃうもんね」
「卑弥呼!?!?」
あなた普通に喋れたの!?!?
「思い出してください、梅子様」
「!」
「思い出しなさい、梅子」
「……」
「思い出して、梅子ちゃん」
「……みんな」
……そうだ。
思い出すんだ、みんなと過ごした、あの二百十日間を――。
――そして、松子のことを。
「な、何よッ! 形勢逆転感醸して! お姉ちゃんなんて、ただの家事が得意なだけの女じゃないッ!! そんなので私の魔法を――」
「ふふ、それはどうかしら」
「え?」
そう言うなり俺は、おっぷぁいの谷間から裁縫道具とクマさんのアップリケを取り戻し、松子が履いているダメージジーンズの破れた膝に、アップリケを一瞬で縫い付けたのであった。
「キャ、キャアアアッ!! 何よこれ!? こんな恥ずかしい格好じゃ、外歩けないじゃん!」
「ふふふ、まだよ!」
「えっ!?」
俺は松子に背を向けると、そのままとある場所へ全力でダッシュした。
「なっ!? お、お姉ちゃん、どこ行くの!?」
松子を無視して向かった先は松子の部屋。
そこで俺は光の速さで部屋の掃除を始めた。
「ちょっとッ!?? 勝手にひとの部屋掃除しないでよッ!」
もう遅い。
俺の生活能力はチート級なのだ。
俺は床に散らかっていた漫画本やぬいぐるみを綺麗に整頓し、ついでにベッドの下に隠してあった数々のBL同人誌をキッチリ揃えて机の上に置いたのだった。
「ギャアアアアアアッ!!!! ち、違うのこれは!! と、友達が無理矢理貸してきたやつだからああああッ!!」
既に松子の精神は崩壊寸前だ。
それにしても、どれもこれもガチムチのオッサン受けの本ばかり……。
我が妹ながら業が深い女だ。
――だがここで手を緩める俺ではない。
次でトドメだ!
「卑弥呼、借りるよ!」
「うぇ?」
俺は卑弥呼から縄文土器型の鍋を奪い、キッチンへと駆け込んだ。
そして俺は――キムチ鍋を作った。
「お、お姉ちゃん、これは!?」
「好物だったでしょ? キムチ鍋」
「……覚えててくれたんだ」
「忘れる訳ないじゃない、可愛い妹のことだもの」
「お姉ちゃん……」
本当は今さっき思い出したんだけどな。
「さぁ、冷めない内に食べなさい」
「う、うん」
松子は恐る恐るキムチ鍋を口に運んだ。
すると――
「お、美味じぃ……」
「っ!?」
松子!?
松子は突然大粒の涙をボロボロと零した。
「美味じぃよおおおお~。うわああああぁぁん」
「松子……」
「う、うぅ……、ごめんなさいお姉ちゃん。私ホントは、お姉ちゃんともっと仲良くなりたかっただけなの」
「――!」
「でも、私不器用だから……、お姉ちゃんの物を取って、気を引くくらいしか出来なくて……」
「……そうだったの」
何という旧時代的なツンデレ。
「ぐすん……、ごめんなさいお姉ちゃん。こんな私のことなんて……、嫌いだよね?」
「……」
――松子。
「そんな訳ないじゃない」
「――え。お、お姉ちゃん!?」
俺は松子のことを、優しく抱きしめた。
「は、はわわわわわわわわわ。お、お姉ちゃんが私を……。はわわわわ」
ずっと言ってただろ、俺は?
俺は松子のこと、性格悪いとは思っても、嫌いだなんて思ったことは一度もないよ。
だってたった一人の妹なんだから――。
――ああ、そうか。
これが『愛』か。
果たして俺の松子に対するこの気持ちが、姉妹愛なのか、それとも恋愛にあたるものなのかは定かではないが、ただ一つ言えることは――俺が松子を愛しているということだ。
――そしておそらく、松子も俺を愛してくれている。
愛し愛され、互いに慈しむ心――これこそが、『真実の愛』だったんだ。
「ファラオめでとうございます。プトレマイオス朝より、この上ない賛辞を送らせていただきます」
「パトラ!」
「フンッ! しょうがないから、今日の傾国はあなたに譲ってあげるわよ」
「楊貴妃」
「ちょっち~、とりま今からお祝いに、お揃いの弥生土器焼いてくるずぇい」
「卑弥呼」
ありがとう。
本当にありがとう、三人共。
みんながいてくれたから、私も松子も、自分の気持ちに気付けたよ。
これで晴れて、条件クリアだ!
――その時だった。
ゴガシャアアアンという轟音と共に、家の壁を突き破って、マイクロバスが俺達目掛けて突っ込んできたのだった。
なっ!?!?!?
何で課題をクリアしたのにッ――?
――が、そのバスは、俺達にぶつかる直前で、まるで慣性の法則を無視したかのようにピタリと停止したのだった。
ぬええええ!?!?
こ、こんなことが出来るのは――。
「「「「「条件クリア、おっめでとー梅子ちゃーん」」」」」
「「「「「!?!?」」」」」
案の定、バスの窓から例の神っぽい奴等がこぞって顔を出した。
「な、何であんた等がここに……」
「いやあ、やっぱ面白いよ君」
「そうそう、君みたいな観察し甲斐のある子、なかなかいないからね」
「せっかくだから、すぐ側でこれからも君のこと、見守らせてもらおうかと思って」
「私達全員、お隣に引っ越してきたんだー」
「…………は?」
「「「「「はいこれ、引っ越し蕎麦」」」」」
「……ふ」
ふ・ざ・け・ん・なーッ!!!!!!
少なくとも、家の壁は弁償しろよ、お前等ッ!!!
「ちょっとお姉ちゃん、何よこの綺麗な女の人達! 私というものがありながらッ!」
「松子……」
オイオイ、早くも彼女面かよ。