承(間咲担当)
「ヴァイオレット様、ああ、やっと目を覚まされたのですね。でも、馬車にお轢かれになったのに、傷一つ付かれていないとは、ヴァイオレット様はお丈夫なのですね」
「え、えーと……」
そこには目が潰れそうになる程の、絶世の美女が俺の顔を覗き込んでいた。
なっ!?
こ、この子が俺のルームメート!?
驚き桃の木山椒の木ッ!!!(死語)
こりゃ育むっきゃねえ、この子と『真実の愛』を!(倒置法)
「君、名前は……?」
俺は起き上がって絶世の美女と目線を合わせた。
むしろここぞとばかりに、そのプリティフェイス(名作漫画)をガン見した。
「あ、これは申し遅れました。わたくし、クレオパトラと申します」
「クレオパトラ!?!?」
って、世界三大美人の一人の、あのクレオパトラ!?
「気軽に、パトラとお呼びください。今後はルームメートとして、共にこの学び舎で切磋琢磨いたしましょう」
「はあ……」
そう言うとクレオパトラことパトラは、俺の手を包み込むように握ってきた。
おっぷぁいも俺に負けず劣らず大きく、今にも制服のボタンが弾け飛びそうだ。
ホントにこの子は、あのクレオパトラなのか?
確かにそれなら、この直視出来ない程の美貌も得心がいくが……。
ただ、だとしたらこの世界は、どういう世界観だというのだろう?
……クソッ、さっきの神っぽい何かに、もっとこの世界のことを聞いておくべきだった!
俺はいつもこうだ!
こんなんだから二回も車(内一回は馬車だが)に轢かれるんだぞ俺!
これがホントのカーオブザイヤーってか!?
なんつって!
なんつってッ!!(ヤケクソ)
「ヴァイオレット様?」
「っ!」
パトラが上目遣いで俺を見つめてくる。
トゥンク!
いや、いいか細かいことは!
こんな可愛い女の子と同室になれたんだ。
こりゃ二百十日もかからず、真実の愛、ゲットだぜ!
「何でもないわよパトラ。あなたみたいな可愛い子と同室なんて、ラッキーだなって思っただけ」
「ホホホ、ヴァイオレット様は冗談がお上手なのですね」
「いや、冗談ではないんだけど」
「ホホホ、ホホホ、ファラオッホッホッホッホッホ」
「ファラオッホッホッホッホッホ!?」
何その強引なファラオ感!?
キャラ作りだとしたら、大分横滑りしてっけど!?
「うるさいわよアンタ達! この寮は壁が薄いんだから、静かに過ごしなさいよッ!」
「「っ!?」」
その時だった。
俺達の部屋の扉を強引にスパーンと開けて、一人の女の子が入ってきた。
しかも何と――その子もパトラ並みの美少女だった。
ファーーーー!?!?!?
まさかの二人目ーーーー!?!?!?
……あれ?
でもオカシイぞ?
この世界は所謂中世ヨーロッパ風の世界なのに、この子の髪は黒髪だし、顔立ち的にも明らかにアジア人だ。
こ、この子はいったい……!?
「これは申し訳ございません、楊貴妃様。わたくしとしたことが」
「楊貴妃!?!?」
それって世界三大美人の二人目の!?
オイオイオイ、マジでどうなってんだよこの世界!?
「フンッ、アンタって昔っからそうなんだから。普段はお上品にしてるクセに、すーぐ周りが見えなくなるんだから」
楊貴妃は胸を反らして、俺とパトラを見下すような仕草をした。
……だが、残念ながら俺やパトラと違って、楊貴妃のおっぷぁいは中国の五大名山『華山』並みの絶壁――所謂ちっぱいだった。
「ちょっとそこのアンタ!? 今失礼なこと考えてたでしょ!?」
「えっ!? い、いや、そんなことは……ない、わよ」
「フンッ! 何よちょっとくらいおっぷぁいが大きいくらいで調子に乗って! 傾国するわよッ!!」
「傾国するわよ!?」
確かに楊貴妃は傾国の美女って呼ばれてたらしいけど!?
この子もキャラ作りに余念がないのか!?
「まったく、これだからおっぷぁいがデカい女はッ! 決めた。今日の放課後は、ちょっと隣国を傾国してくるわ」
そんな、ちょっとカラオケ行くみたいなノリで!?
「ファラオッホッホッホ、楊貴妃様はいつもお元気ですね」
「アンタもね!」
この二人は知り合いなのか……?
「ちょっち〜、何何、面白そ〜なことやってんじゃ〜ん」
っ!?
三人目もやってきた!
だが、クレオパトラ、楊貴妃と来たら、三人目はもちろん……。
案の定その子も、楊貴妃と同じ黒髪のアジア人だった。
むしろ顔立ち的に、間違いなく日本人だ。
「あ、あなたは……」
「ども〜、卑弥呼どぅえす」
「まさかの卑弥呼!?」
そこは小野小町じゃないのかよ!?
「休日は土器焼いてむぁす」
卑弥呼のキャラが大分ウザい!
ま、まあ、幸いにして、卑弥呼もパトラや楊貴妃並みの美少女だったので、これはこれでよしだ。
この三人と一つ屋根の下で毎日暮らしてれば、二百十日もかからずに真実の愛くらい見付かるだろう。
――そして、特に何事も起こらないまま、二百九日が過ぎた……。