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肆話 悪人はどの世界にもいる

 

「そちらの服、売って頂けませんか?」


 服飾店 『ドレスティア』のオーナー パウロフ・マイスター氏との商いは実に迅速且つ丁寧な対応の元行われた。


 彼は超一流の服飾商であり、自身も凄腕の職人のようで私に売ってくれた商品は彼が自ら作り出した超一級品だった。


 私としてはこの世界で不自然にならない格好ならどれでも良かったのだが、彼は「あなたの着ているその未知の服に見合う価値のあるのものは私の取り扱う服には存在しない」といい、服だけでなく多額の金銭で私の着流しを買ってくれたので私の懐は現在とても暖かい。


 私の着流しもお館様がお金持ちだったこともありそれなりにいい生地を使ったものだったのだが、この世界での価値は分からなかったので彼に全て一任した結果、数着の上着と下履。それと下着に金貨二百枚を私は受け取った。


 この世界の貨幣は硬貨で賄われており、銭貨、銅貨、銀貨、金貨が流通しているとパウロフ氏は語っていた。


 この世界の貨幣単位はゴルといい、


 銭貨=一ゴル

 銅貨=十ゴル

 銀貨=百ゴル

 金貨=千ゴル


 となっている。


 よって私は二十万ゴルの資金を得たのだ。


 これはかなりの大金で、農村の者達は金貨を目にすることは殆ど無く、大きな都市で働いているものですら、一年に手に入れる賃金は五万ゴル程だという。


 つまるところ、年俸の四倍もの大金を急遽手に入れた私はあまりの額の大きさにとまどってしまった。


「こんな大金持ち歩きたくないのだが……」


「でしたら銀行に預けたらどうですか?」


「銀行?」


「えぇ、この世界の金融機関の事でこの世界全土にあります。勿論この街にもありますよ」


「その、銀行とやらは何を行っておるのですか?」


 パウロフ氏は銀行の仕組みを丁寧に語ってくれる。


 曰く、銀行とはこの世界で最も大きな市場を持つ金融機関のことで、主に個人資産の組織的管理と融資を行っているという。


 融資の場合は銀行側に規定があり、それに沿った人物、団体に融資として金銭を融通するのだという。

 しかし、返済は無論必要であり、仮に期限内に返済ができなかった場合は詐欺罪として捕まってしまうという。


 中々に危険な機関だが融資の金額は銀行側が返済可能だろうと見立てた金額なので返済出来ないならば初めから借りるなと言うのが世間の意見のようで銀行はとても根強くこの世界の人々に関わっているようだ。


 また、私の懸念もパウロフ氏によると無用だとの事だ。


 私の懸念とはその銀行により預けた金銭を盗み取られてはしまいかというものだったのだが、銀行とはとても大きな機関のようで組織で金銭を一括管理している為、もし銀行が利用者の預金をくすねるようなことになればこの世界での信用を一気に落とし、各国により権利剥奪は免れないようで組織の上の者達がそれはもう厳格に管理をしているという。

 その甲斐もあり、銀行が出来て百年経つ今なお一度もその様な事件は起こってないという。


 そもそも銀行自体が莫大な資産を有しているため、そんな危ない橋を渡る必要は無いのだとパウロフ氏は語っていた。



 そんな訳で私はパウロフ氏にこの街の銀行の位置を聞くとそちらに向かった。


◇◇◇



 大通りを歩くと周りは人で溢れかえっていた。


 この街はこの世界でも中々に大きな所らしく兎に角活気で溢れている。


 市には様々な商人が各々の品を持ち寄りそれを街人達が品定めをする。


「平和だな」


 私は嘗ていた世界の事を思い出した。


 私のお仕えしていたトキノミヤ家も大領主でお館様の治めていた街も大きなもので笑顔と活気に溢れていた。


 きっとこの街を治める領主の方も優れた人格者なのだろう。

 私はそんなふうに感じていた。


 すると、とある一角に人が沢山集まっている光景が目に入った。


 ガヤガヤと喧しい声とがなるような数名の男性の怒声が私の耳にも届く。


 少し興味を持ったので近寄るとそこには小さな二人の童が数名の男に取り囲まれている光景があった。


見たところ齢十にも満たない童達のようだか、その身なりはお世辞にも良いとは言えず、薄汚れ、所々破れた衣服に身体は長く風呂に入っていないのか、垢にまみれている。


「おい!大人しくそれを渡せ!それはお前達のようなガキの持っていていいものじゃない!」


「い、嫌だ!これはお父さんとお母さんが遺してくれた唯一の、形見なの!誰だろうと渡せないの!」


 二人の童の内、髪の長い少女が胸に小さな短剣を抱え、男達に向かって鋭い視線を向けている。


 しかし、その視線の先の男達は腰に帯剣をしているようでいつその剣が抜かれるかと周りの野次馬はどぎまぎしている様子だった。


「一体何があったのですか?」


「ん?あぁ、実はあの短剣を抱えている二人の子供はこの辺では有名な孤児でね。よく物乞いや盗みをする悪童だったのさ。

 それでも盗むのは廃棄決定の腐りかけの食品だったり、物乞いも大したものは要求しないでせいぜい一切れのパンぐらいだったから皆大目に見ていて、兵士さん達も見逃してやってたのさ。

 なんだけどあの子達は実はあの小綺麗な短剣を持っていてね、実はそれが相当価値のある物らしいのさ。

 それを狙ったゴロツキ共があの子達によく脅しを掛けてそれを奪い取ろうとしていたんだけどあの子達は頑なに渡そうとしなくてね。

 痺れを切らした奴らがこうして今あの子達を取り囲んでいる訳さ」


 私は目の前の光景について隣いたご婦人に話を聞いた。


 彼女の話によると一方的に男達の方が悪いようだ。


「成程。では、私が仲裁に入っても何の問題も無いようだな」


「ちょっ!?あんた!?」


 私はご婦人の制止の声を意にせず、野次馬の中を突き進む。

 ずんずんと前を進む私を避けるように野次馬が退くので私が人波を割ったかのような状態になった。


「ん?なんだ、お前」


 そのまま、男達と童達の元へ近寄ると一際体格のいい男が私に胡乱な目を向けてきた。


「歳若い童を大男数名が取り囲む姿がどうにも目に余ったのでね。仲裁にでも来たのだ」


 私は別段声を張り上げるわけでもなくただ男達に聞こえるだろう大きさでそう話した。


「おいおい、衛兵でもない奴が何様のつもりだよ。それに俺達は分不相応なものを持っているこのガキに身の程って奴を教えてやるだけさ。

 そして、その短剣は俺達が有効利用してやるって訳だ。どうせなら正しい使い方をした方がこいつらの死んだ親共も浮かばれるんじゃあねえか?」


 ゲラゲラと下衆に笑う男達。


 そんな彼らを二人の童は射殺さんとした目で見つめていた。


 どうやらどこの世界にも悪人というのは存在するらしい。


「本当に見るに余る。私の聞いた話によるとこの童達に非は全く無い。寧ろ不当な行いを行おうとしているのはお前達のようでは無いか。どうやらどんな所にも下賎な輩はいるようだ」


 私のため息混じりの声に一際体格のいい男が眉をピクリと動かし、私を睨めつける。


「おい、さっきから聞いていれば随分言ってくれるじゃねえか。それにお前…、見るからにいい格好しているなぁ。痛い目を見る前に大人しく有り金置いて行けよ。

 そうしたらここは見逃してやる」


 呆れた。この男達は目の前の少女達だけでなく通りすがりの私にすら手を加えようというのだ。

 全く、度し難い悪人のようだ。


「目の前の少女達だけでなく通りすがりの者にすら手をあげようというのか。全く看過できんな。

 悪人此処に極まれりと言ったところか」


「お前…。後悔するんじゃねえぞ…。おい、お前ら!やっちまえ!!」


 大男の一声により他の男達が剣を抜いた。

 街中で剣を抜いたことにより野次馬から悲鳴が上がる。


「全く、街中で剣を抜くなど…。剣士の風上にも置けんな。そこの童達。もう少し離れておれ。何安心しろ。直ぐに方をつける」


「言わせておけば!お前ら手足の一本くらいは許す!目にもの見せてやれ」


 怒声を上げながら男達が私に切りかかってくる。

 どうやらこれがこの世界に来て初めての戦闘になりそうだ。

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